127話 紫電
悪魔に関する調査は、俺達のパーティーともう一つのパーティー……計二組で行われるらしい。
調査を行う際は、身軽なフットワークが要求されるから、あまり大人数がいても効率が悪いだろうという判断だ。
あと、その他の冒険者は討伐組に回されるので、調査班まで手が回らないというのが現状らしい。
単純な話、人手不足なのだ。
緊急依頼は、ランクに関係なく参加できるけれど……
だからといって、Fランクの冒険者などが喜んで参加するわけがない。
村一つを壊滅させたという悪魔が相手なのだ。
身の危険を感じて、おとなしくしている冒険者は多い。
参加するのは、一攫千金を狙う者などで、かなり数が少ないと聞いた。
「ニーナ、みんなのところに戻って、説明をしてくれないか?」
「……ん。わかった、よ」
ニーナがコクリと頷いて、たたたと走りギルドを後にした。
「にゃあー……ヒマだね」
「だな」
俺達は、そのままギルドで待機していた。
ナタリーさんによると、すでに調査班の残りのパーティーは決まっているらしく、すぐにでも紹介できるとのこと。
なら、早いうちに顔を合わせておいた方がいいと思い、ナタリーさんに仲介を頼んだのだ。
ナタリーさんが冒険者達を連れてくる間、俺達は特に何もすることなく、椅子に座りのんびりしていた。
「……こうしてのんびりしていると、とんでもない事が起きてるなんて思えないね」
「そうだな……いつもと変わらない、って感じだ」
尤も……ギルド内は慌ただしくて、ここだけはいつもと違う雰囲気なのだけど。
「おまたせしました」
ほどなくして、ナタリーさんが戻ってきた。
その後ろに、冒険者らしき二人組の男女が見える。
「よぉ、あんたらが『ホライズンの英雄』かい? 俺は、アクス・ギン。ちょっと特殊な武器を使っている剣士だ。よろしくな!」
「……私は、セル・マーセナル。よろしく」
男の歳は俺よりも上……20半ばといったところか?
逆立てた髪。
鍛え上げられた体を軽鎧で覆い、動きやすいようにしている。
気さくな性格らしく、明るい笑顔を浮かべていた。
こちらが何もしないのに、強引に握手を求めてくる。
女性は、男と同じくらいだろう。
ショートカットにまとめた藍色の髪。
やや小柄ながらも、冒険者として鍛え上げられているのが見てわかる。
こちらは男とは対象的に、とても落ち着いた印象を受けた。
暗いとか冷たいとかいうわけではなくて、冷静沈着。
凛とした雰囲気を受けた。
明るい男と落ち着いている女性……対照的な二人だな。
「俺は、レイン・シュラウド。こっちは、仲間のカナデ。よろしく」
男……アクスの握手に応える。
「あと、英雄はやめてくれ。こそばゆい」
「ふーん、謙虚なんだな。英雄って呼ばれるくらいだから、もっと豪傑な男を想像してたんだけどな」
「想像と違ってがっかりしたか?」
「いや。これからしばらく、一緒に行動する仲間になるんだからな。気さくな方がやりやすいさ」
ニヤ、っと笑うアクス。
子供のように純粋な笑みだ。
今まで、他の冒険者とは色々とあったから、あまり良いイメージを持っていなかったけれど……
それは偏見だったかもしれないな。
俺が単純なだけなのかもしれないけど、でも、アクスは良いヤツに見える。
「にゃー……」
ただ、カナデはまだ警戒しているらしく、少し距離をとっていた。
「おっ、そっちはホントに猫霊族なんだな。俺はアクスだ。よろしくな!」
「うにゃ……よろしくね」
「それにしても……かわいいな。どうだい? 俺と一緒に、夜のデートに行かないか?」
「にゃんですと!?」
「忘れられない時間をプレゼントするぜ。絶対に楽しめるようにあいたぁっ!?」
「やめなさい」
突然、ナンパを始めたアクスの頭を、遠慮なくセルが叩いた。
というか、今、セルは手にしていた弓で殴りつけたような……?
弓って頑丈にできているから、金槌で殴られるのと変わりないぞ?
「い、いきなり何をするんだよ、セル。俺はただ、カナデちゃんと楽しい時間を過ごそうとしただけでいてぇっ!?」
すごい。
もう一回、無言で殴ったぞ。
「恥ずかしい真似はやめなさい」
「そ、そっか……すまない。嫉妬していたんだな? だが、安心してくれ。俺の本命は、セル、お前だけだ。これはちょっとした遊びというかぐあっ!?」
「それは、私に対しても彼女に対しても失礼よ」
「お、俺は……ただ、かわいい女の子が好きなだけでひぐぅっ!?」
「ごめんなさい、は?」
「……ごめんなさい」
頭をたんこぶだらけにして、アクスが頭を下げた。
……なんとなく、この二人の関係がわかったような気がした。
「……レイン、レイン」
カナデが、そっと耳打ちしてきた。
「……この人達、変だよ?」
「……ストレートに言うなあ」
「……ホントに、この人達と一緒に冒険するの? 大丈夫?」
「……それは」
ついつい言葉に詰まってしまう。
「おっと、その心配はいらないぜ」
声を潜めていたはずなのに、アクスが俺達の会話に反応した。
「こう見えても、俺達はAランクの冒険者なんだぜ」
「えっ、ホントに!?」
「そこまで驚かれると、ちょっと傷つくな……」
カナデの反応に、アクスががくりと肩を落とした。
「一応、本当のことですよ」
アクスの代わりに、ずっと成り行きを見守っていたナタリーさんが答えた。
「お二人は、『紫電』の二つ名を持つ、Aランクの冒険者ですよ」
「にゃー……二つ名……あの二人と一緒?」
カナデが苦い顔をした。
あの二人というのは、オーグとクロイツのことだろう。
嫌な記憶を思い出して、微妙な表情になる。
「俺達をあんな連中と一緒にしないでくれ。冒険者の誇りを持ち、日々、しっかりと活動しているんだ」
「そうね」
「そして、連中とは違い、俺とセルは固い絆で結ばれているんだ。将来も誓った仲だ。だからぐあ!?」
「しれっとウソを織り交ぜないように」
当たり前のように、セルがアクスを殴りつけた。
……これも、二人にとっては当たり前の光景なのだろうか?
「えっと……アクスさんは、性格にちょっと難ありですが……でもでも、二人とも腕は確かですよ。きっと、頼りになると思います」
ナタリーさんがフォローを入れた。
正直なところ、不安はあるのだけど……
でも、腕が立つことは確かみたいだ。
一見すると、ふざけているようにしか見えないが、隙がない。
不意をついて打ち込んだとしても、即座に反応して、対応してくるだろう。
そんな予感がした。
それと……
「にゃー……ちょっと軽そうだけど、でも、悪い人じゃないのかな?」
カナデが少し警戒を解いていた。
人一倍、そういう気配に敏感なカナデが警戒を解いているのならば、信用してもいいと思う。
俺は、自分の感覚よりも仲間の勘を頼りにしたい。
「シュラウドさん達とアクスさん達は、これから一緒に行動することをお願いします。できることならば、早速調査に赴いてほしいのですが……」
「他の仲間に確認しないといけないけど……まあ、問題ないと思う。そっちは?」
「ああ、俺も問題はないぜ」
「よかったです。事が事なので、早く動くに越したことはないと思うので。あ、こちら、今回の事件の資料になります。多くはありませんが……調査の役に立ててください」
ナタリーさんから資料を受け取る。
「なにかありましたら、私のところへ。よろしくお願いします」
ナタリーさんがぺこりと頭を下げて、奥に消えた。
事件の影響で、色々とやらなければいけないことがあるのだろう。
「レイン、って呼んでもいいか?」
アクスが遠慮がちに、そう尋ねてきた。
「街の英雄を呼び捨てにするなんて、バチが当たりそうだが……どうも、俺はそういう堅苦しいことが苦手でな。あと、これからしばらくの間、一緒に行動を共にする仲間になるだろう? 気さくな方がいいかと思うんだが……」
「ああ、構わないよ。というか、英雄はやめてくれ、ってさっき言っただろう? 普通に呼び捨てで構わないさ。というか、俺達が丁寧にしないとダメだよな。二人はAランクなんだし」
「おいおい、やめてくれよ。ランクが上だからって偉いわけじゃないぜ? というか、街の英雄……レインなら、とっくにAランクになっててもおかしくないだろ」
「そんなことないと思うけどな……」
「ま、ランクとか気にしないでくれ。俺は普通にレインって呼ばせてもらうぜ。だから、俺のこともアクスでいいからな」
「私も、セルでいいわ」
「ああ。よろしくな、アクス、セル」
改めて、二人と握手を交わした。
この二人と一緒なら、うまくやることができそうだ。
なんとなくだけど、そんなことを思った。
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