126話 悪魔
「壊滅……?」
穏やかじゃない言葉に、思わず眉を潜めてしまう。
「どういうことなんだ? 何か局地的な災害が?」
「いえ……人為的なものです」
「それは……もしかして、他国が攻撃をしかけた?」
「いえ、それも違います。というか、私の言葉が悪かったですね。何者かによる仕業ということは判明しているのですが……その正体は、曖昧なものでして」
ナタリーさんの顔からは、混乱の色が見られた。
ギルドも、まだ正確な情報を掴んではいないみたいだ。
それでも、何も知らない俺よりは、たくさんの情報を持っているだろう。
それを聞き出す。
「いまいち、話が理解できない。最初から詳しく話してくれないか?」
「はい、そうですね……すみません。事が事だけに、私の方でも混乱していたみたいです」
「仕方ないさ」
村が一つ壊滅した。
そんなことを聞かされて、平静でいられる方が難しい。
「始まりは、とある商人の話でした」
ナタリーさんが静かに口を開く。
俺を含めて、みんなはじっとそれを聞いた。
「その商人はパゴスの人達と取引をしていました。パゴスは織物を特産品として扱っていて、その商人と専属の契約を交わしていたのです。毎月、同じ日にパゴスの人達が村を出て、商人のところに織物を売りに行くのですが……なぜか、今月は、いつになっても村人がやってこなかったみたいなのです」
「……」
「不思議に思った商人は、パゴスを訪ねることにしました。パゴスは、リバーエンドから歩いて一週間ほど……特に何事もなくたどり着きました。そして……その商人は、まるで災害に遭ったように、壊滅しているパゴスの姿を見ることになったのです」
突然、連絡が途絶えた村人。
壊滅した村。
これだけでも、普通ではない、何か尋常ではない事態が起きていることがわかる。
ただ……
ナタリーさんのこわばった顔を見る限り、事はもっと深刻みたいだ。
話を聞いているだけなのに、自然と緊張してしまう。
「家屋は壊れ、焼けて……戦争でも起きたように、村中がボロボロになっていたと聞きます。そして……村人の死体も」
「ひどい……」
その光景を想像したらしく、カナデが泣きそうな顔になった。
「幸い……と言うべきか、生き残りはいました。商人は、生き残った人達に、何が起きたのか聞きました。すると、村の人達は口を揃えて言いました。悪魔が甦った……と」
「悪魔……?」
「なに……かな、それ? 比喩的な……もの?」
ニーナが小首を傾げる。
「わかりません……私達ギルドも、村人達から話を聞きましたが、同じようなことしか聞くことができず……皆、恐慌状態に陥っていました。よほど、恐ろしい目にあったんだと思います」
「……ギルドは話を聞いただけなのか?」
「いえ、まさか。まだ十分とは言えませんが、できる限りの調査をしました。パゴスの歴史を遡り、悪魔と呼ばれる存在がいたのかどうか……そういった部分も調べました」
「結果は?」
「……悪魔は存在します」
ナタリーさんは、緊張した顔で小さく頷いてみせた。
「パゴスに伝わる文献や、その周辺の過去の記録……色々なものを検討した結果、悪魔は存在する、という結論に至りました」
「悪魔……か」
「そいつの名前とか知らないの? というか、悪魔ってことは魔族なのかな?」
「すみません、それはまだ判明していなくて……」
カナデの質問に、ナタリーさんは申し訳なさそうな顔をした。
「ただ、悪魔と呼ばれる何者かが存在することは確かです。その悪魔は、パゴスの人の話によると、山に封印されていたみたいです。何かしらあって、その封印が解けた。そして……」
「パゴスを攻撃した……と?」
「はい。それが、ギルドの見解になります」
「……」
自然と険しい表情になる。
封印されるような巨大な力を持つ存在が解き放たれた。
その危険性は、パゴスが壊滅することで証明された。
……これは、思っていた以上に大きい事件なのかもしれないな。
「現在、ギルドでは総力をあげて、悪魔の調査を行っています。現状では、その姿も目的も、何もわからない状態ですが……悪魔は、村一つを壊滅させて、多数の死傷者を出したような相手です。このまま何も起きない、と考えるのはあまりに楽観的でしょう」
「だな」
「ギルドは、今回の一件を緊急依頼と認定しました。放置しておけば、パゴスだけではなくて、他の街にも被害が及ぶ可能性があります。なので、全力で対処することになります。その主な方法としては、三つの班を作り、活動していく方針です」
「にゃん? 三つ?」
「まずは、悪魔の素性や目的などを調査するチーム。次に、悪魔の封印方法を探るチーム。そして……悪魔の討伐を行うチームです」
なるほど。
ただ討伐を目的とするだけではなくて、あらゆる角度から攻めていくということか。
素性や目的を調べるのは、妥協点を見つけられないか、ということ。
封印を調べるのは、討伐に失敗した時の保険のため。
ギルドは、悪魔とやらを完全な『敵』と認識しているみたいだ。
……まあ、それも当然か。
何しろ、相手は村を一つ壊滅させたようなヤツだ。
その正体はわからないけれど、人にとって有害な存在であることは間違いないだろう。
「シュラウドさん」
ナタリーさんが、まっすぐにこちらを見た。
「今回の件、危険であることは否定できません。その上で、あえてお願いします。どうか、力を貸してくれませんか?」
「それは……」
「シュラウドさんは……いえ、シュラウドさんなら、今回の件も、無事に解決できるような気がして……お願いできませんか?」
話を聞く限り、今回の依頼は危険だ。
俺だけならともかく、みんなを巻き込むことは、正直、気が進まない。
でも……
「……」
故郷のことを思い出した。
今回の敵……悪魔とやらは、パゴスを壊滅させた。
それが、俺の故郷と重なって見える。
他人事とは思えない。
放っておくなんてことは……
でも、みんなを……
「わかったよっ!」
「カナデ!?」
返事に迷っていると、カナデが勝手に答えてしまう。
「私達に任せておいてっ。なんとかしてみせるからね!」
「……ん。がんばる」
「ニーナまで……そんなことを勝手に……」
「レインは、私達のことを気にしてくれているんだと思うけど……それは、余計なお世話、っていうものだよ」
「……レインは……レインのしたいように、していいよ……?」
「そうそう! 私達は、それを手伝うだけだから。タニアもソラもルナもティナも、みんな、絶対に文句なんて言わないよっ」
「……もっと……頼りにして、ほしいな」
「っ」
ニーナの言葉に、少なからず衝撃を受けた。
俺は、みんなのことを考えていたつもりだったけど……
その実、信用していなかったのかもしれないな。
危険だから、って遠ざけることばかり考えて、甘えるようなことはしないで……
それで、仲間だと言えるだろうか?
「……そう、だな。二人の言うとおりだ」
「じゃあ……」
「俺は、この依頼を請けようと思う。放っておけないし、放っておいて解決するとは限らないし……って、何よりも、他人事に思えないんだ。だから、なんとしても解決したい。そのために、力を貸してくれるか?」
「「うんっ」」
カナデとニーナは、揃って笑顔で頷いた。
ここにいない他のみんなも、きっと、笑顔で応えてくれるだろう。
ホント、俺は良い仲間に巡り合うことができた。
これが運命だというのならば、運命に感謝したい気分だ。
「えっと……それでは、引き受けてくださるということでいいんですか?」
「ああ、引き受けるよ」
ナタリーさんの問いかけに、俺はしっかりと頷いてみせた。
「ありがとうございます! シュラウドさん達が加われば、必ず成功すると思います!」
「大げさだな」
「いえいえ、大げさなんてことはありませんよ。シュラウドさん達は、ホライズンの英雄ですからね! そのシュラウドさん達が加わるとなれば、今回の依頼も無事に果たすことができると思います」
英雄はやめてほしい。
こそばゆいから。
「それに……私自身、シュラウドさんのことを信じていますから」
にっこりと、ナタリーさんが笑う。
今までと違い、どことなく温かい笑顔だ。
「にゃあ……」
それを見て、なぜか、カナデが警戒するような顔になる。
なんでだ?
「えっと……話を元に戻すけど、俺達は何をすればいいんだ? 班を三つに分けるんだよな?」
悪魔の素性や目的を調べる調査班。
悪魔と戦う討伐班。
悪魔を封印する方法を探る探査班。
俺達は、どこに配属されるのだろうか?
「まだ、本決定というわけではないので、予測になりますが……おそらく、シュラウドさん達は調査班に配属されることになるかと」
「にゃん? 討伐班じゃないの?」
戦う気満々だったらしく、カナデが、ちょっと拍子抜けしたような顔をした。
「私達なら、悪魔でもなんでも倒せると思うんだけどなー。危険なところだとしても、関係ないし」
「危険度は、どの班も変わらないですよ」
「そうだな、ナタリーさんの言う通りだ」
調査班は悪魔のことを調べるため、自然と接近することになるから、それなりの危険が伴うはずだ。
封印する方法を調べる探査班は、悪魔からの妨害を受ける恐れがある。
討伐班は言わずもがな。
そう説明すると、カナデが納得顔で、ぽんと手の平を打つ。
「にゃるほど。どこも大変なんだね」
「そういうことだ」
「今回の依頼、今までにないくらいに大変なものになると思いますが……どうか、よろしくおねがいします」
ナタリーさんはそう言って、頭を深く下げた。
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