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122話 特訓の成果

「……」

「うにゃあ……」


 カナデと対峙する。

 俺も、カナデも、それぞれ険しい表情を浮かべて、相手を睨みつける。

 拳を構えて、腰を軽く落として、足に力を入れて……

 じっと見つめ合い、火花を散らし、相手の隙をうかがう。


「……」

「……」


 五分ほど経っただろうか?

 カナデの頬をつーっと汗が伝い、尻尾がピクンと動く。


 今だ!


 カナデの集中力が途切れ始めた頃を狙い、一気に駆け出した。


「にゃっ!?」


 見事に不意をついた形になり、カナデが動揺を表に出した。

 ただ、それも少しの間だけ。

 すぐに心を鎮めてみせると、カナデは軽く体を後ろに引いて、迎撃の構えに移行した。


「にゃんっ!」


 カナデが拳を突き出した。

 風を巻き込むような一撃だ。

 当たればタダでは済まない。


 体をひねり、回避。

 しかし、カナデはそれを読んでいたらしく、続けてローキックを放ってきた。

 跳躍することで回避する。


 こちらから攻めたというのに、すぐに体勢を立て直して、攻守の主導権を握る。

 やはり、カナデは侮れない。

 避けるばかりではなくて、攻撃を叩き込まないと!


「うにゃ!」


 宙に逃げた俺を追いかけるように、カナデは蹴撃を放つ。

 周囲に足場になるようなものはない。

 俺は体勢を立て直すことができず、カナデの蹴撃をまともに浴びる……はずだった。


「重力操作」


 ティナと契約したことで得た能力を使用した。

 ここ最近、何度も使用しているから練度が高くなっている。

 自身にかかる重力を真横に操作。

 体が横にスライドして、カナデの蹴撃を避けた。


 続けて重力操作を使用して、重力がかかる方向を正常に。

 さらに三倍の重力をかけて……

 落下速度+三倍の重力の勢いを乗せて、回し蹴りを放つ。


「にゃんですとっ!?」


 さすがに、これは予想外だったらしい。

 カナデの予想以上の速度で迫り、重い一撃を叩き込む!


「にゃあああっ!!!」

「なっ!?」


 決まった……と思っていたのに。

 カナデは持ち前の反射神経だけで、俺の一撃を防いでみせた。


 元々、とんでもない身体能力を持っていたけれど……

 ここ最近は、さらに磨きがかかっているような気がした。


「これで終わりだよ!」

「甘いっ」


 カナデのカウンターが炸裂するけれど……

 今度は、カナデに重力操作をしかける。

 カナデの腕にかかる重力を5倍にした。

 それでも、猫霊族の力を押し殺すことはできないが、速度を減衰させることには成功した。


 この、『重力操作』の力、改めて見るととんでもないな。

 最初は、扱いが難しく戸惑っていたけれど……

 実は、かなり優れた能力なのだ。

 使い方によっては、力強い武器になる。

 おかげで、カナデと互角に渡り合うことができる。


 カナデのカウンターを避けて、今度は、こちらのカウンターを叩き込む。

 横から刈り取るような蹴り。

 ガードされるけれど、予測済だ。


 ガードしたカナデの腕に足を絡めて、動きを封じる。

 さらに、飛び上がるようにして、もう片方の足をカナデの胴体に絡めて、回転。

 勢いを乗せて地面に叩き落とした。


「ふにゃっ!?」


 慌てて起き上がろうとするカナデの眼前に、拳を突きつける。


「勝負あり、だな」

「……はい、そこまでです」


 決着がついたところで、戦いを見守っていたスズさんが声を上げた。

 それを聞いて、カナデが両手足を地面に投げ出した。


「うにゃあ、負けたぁ……」

「大丈夫か、カナデ?」

「うん、大丈夫……」


 手を貸して、カナデを立ち上がらせる。


「レイン、強いね……慢心とは違うんだけど、まさか、私が負けるなんて思ってもなかったよ」

「ここ最近、みんなにみっちりと鍛えられたからな」


 スズさんに特訓をお願いして、そこそこの日数が経過していた。

 今、カナデとしたように、俺達は毎日誰かと模擬戦をして……

 その後、スズさんにあそこが悪いここが悪いなどの指導を受けて……

 ひたすら特訓に励んできた。


 スズさんは言葉こそ柔らかいものの、教え方は容赦がなく、鬼コーチだった。

 でも、そのおかげで、それなりに自信を持つことができたような気がする。


「おつかれさま。訓練とはいえ、カナデに勝つなんてすごいじゃない」


 タニアが声をかけてくる。

 ソラとルナもそれに続いた。


「ソラ達も成長していますが、レインが一番成長しているのかもしれませんね」

「ふむ。我は興味が出てきたぞ。レインよ。今度は、我と手合わせしないか?」

「ルナは、この前、レインにボロボロに負けたことを忘れたのですか?」

「あ、あれはちょっと油断しただけなのだ」

「……レイン」


 そっと、ニーナがやってきて、温かいタオルを渡してくれた。


「これ……どうぞ」

「ありがとう」

「ほい。カナデの分もあるで」

「ありがとー」


 カナデはティナからタオルを受け取っていた。

 汗をかいた顔に温かいタオルを当てると、ものすごく気持ちいい。


「はい、おつかれさまです」


 一息ついていると、スズさんがみんなを集めた。


「みなさん、なかなか良い感じに育ってきましたね」

「ホント? 私、強くなった?」


 カナデが、どこかうれしそうに問いかける。


「ええ。カナデちゃんは、強くなりましたよ。最初は、ただ真正面から突撃するだけだったのに、今では、ちゃんとした駆け引きを覚えてくれましたからね」

「あぅ……それ、褒められてるのかよくわからないよ」

「ふふ、褒めているんですよ」

「うーん」


 複雑な顔をするカナデ。

 強くなっている、という実感が湧かないのかもしれない。


「カナデは強くなっているよ」

「ふにゃっ!?」


 ぽんぽんと頭を撫でると、カナデがびっくりした様子で飛び上がった。

 自信を持ってもらいたくて、いつものようにしたんだけど……驚かせてしまっただろうか?


「れ、レインっ!? その、いきなり頭を撫でられると……なんていうか、びっくりしちゃうっていうか……にゃあ」

「そうだな、ごめん。なんか、いつものクセで、つい」

「い、いいよ。えっと、その……私を元気づけようとしてくれたんだよね? なら、怒ることじゃないし……むしろ、うれしいというか……にゃあああ」

「?」


 なんだか、カナデの様子がおかしかった。

 顔を赤くして、しどろもどろになっているというか……なんだろう?


「ふむふむ」


 おかしな様子のカナデを見て、スズさんが、何やら納得顔で頷いていた。

 それから、にっこり笑顔を浮かべて、カナデの肩をぽんぽんと叩く。


「カナデちゃん」

「にゃ? なに、お母さん?」

「強くなるための特訓も大事ですけど、仲良くなるための特訓も必要みたいですね。よかったら、お母さんが、とっておきの方法を教えましょうか?」

「お、お母さん!? レインの前でそんなこと……!」

「大丈夫です。レインさん、こういうことは鈍そうなので」

「……それは否定できないかも」


 二人がどんな話をしているのかよくわからないが、けなされていることは理解した。


「それじゃあ、今日の特訓はおしまいです。みなさん、おつかれさまでした」


 スズさんの言葉で、俺達みんな、気を抜いたように吐息をこぼした。

 体から力が抜けて、一気に疲労が襲ってくる。

 何しろ、朝から夜まで、ずっと特訓をしていたからな……


「みんな、風呂に入るやろ? もう沸かしてるで」

「ナイスよ、ティナ」


 ティナの言葉に、タニアが顔を輝かせる。


「せっかくだから、みんなで入りましょうか。いちいち待ってるのも面倒だし」

「さんせーいっ! にゃん♪」

「あっ、レインは別よ?」

「わかっているよ」


 タニアの言葉に、俺は苦笑するのだった。

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