12話 カナデの想い
明かりを消して、ベッドに横になると、レインはすぐに寝た。
すやすやという寝息が聞こえる。
同じくベッドに横になっている私は、まだ起きていた。
心地よさそうに寝ているレインを見て、笑顔を浮かべる。
「にゃあ……レイン、かわいい寝顔♪」
レインの寝顔を見て、胸に温かいものが広がるのを感じた。
「にゃふふ♪」
今日一日、レインと一緒に過ごしたことを思い返して、私はにへらと笑った。
それくらいに楽しい日々だった。
目が回るほどの空腹に襲われて、行き倒れてしまった。
その隙をつかれて、キラータイガーに襲われそうにもなった。
盗賊団を一緒に成敗した。
「レインは良い人だなあ」
自分を助けてくれた。
ごはんをくれた。
優しくしてくれた。
それ以上に、なによりもうれしいのが……
最強種である自分に、『普通』に接してくれたことだ。
私は最強種であり、その中でも特に珍しい猫霊族だ。
経験上、人間と接するとロクなことがない。
猫霊族ということで、私を捕まえようとした人間がいた。
……もちろん、物理的に排除させてもらったけどね。
私の機嫌をうかがい、なにかしらおこぼれをいただこうとする人がいた。
猫霊族に伝わる宝があると信じる者がいて、その在処を聞き出そうとする人もいた。
私に近づく人間は、なにかしらの『打算』があった。
金、欲、名誉……
そんな人間の業を見せつけられて、私は人間不信に陥りかけていた。
そんな時に出会ったのが、レインだ。
レインは、私が猫霊族であることに驚きこそしたものの……それだけだ。
純粋な善意で助けてくれて……
その後も、欲を見せることなく、一人の女の子として普通に扱ってくれた。
私にとって、それはどんなにうれしいことだったか。
レインに話したら笑われてしまうかもしれないけど、世界がひっくり返るほどの衝撃を受けたんだよ?
レインが、私の人間に対する不信感を打ち払い、笑顔にさせてくれた。
それは、どんなに感謝しても感謝しきれないことだ。
「レインがいなかったら、どうなっていたかわからないし……たとえ無事だったとしても、人に愛想をつかして里に帰っていたよね」
私は、レインに尊敬に近い念を抱いていた。
だからこそ、レインの力になりたい。
レインが困っているのならば、どんなことをしても、その障害を取り除きたい。
「レインは、やっぱり、勇者のパーティーを追い出されたことで傷ついてるよね……」
レインが勇者のパーティーに在籍していたことを知り、私は驚いた。
一方で、納得していた。
レインのビーストテイマーの力は規格外のとんでもないものだ。
自分を使役するだけではなくて、数十羽のうさぎを同時に使役するなんて、聞いたことがない。
おまけに、インセクトテイマーの力も有している。
無茶苦茶だ。
そんな力を持つレインなら、勇者のパーティーに参加しててもおかしくないんだけど……
聞くところによると、力量不足を理由に追い出されてしまったらしい。
「許せないにゃ!」
阿呆なことをした勇者パーティーに説教をしたくなった。
今すぐ勇者のパーティーを見つけて、全員、ボコボコにして……
それから、レインに土下座させる。
私は、本気でそんなことを考えていた。
それくらいに怒っていた。
しかし、怒りは長続きしない。
怒りよりも、悲しみを抱えるようになる。
「私が仲間って言った時……レイン、複雑な顔をしてたなあ……」
レインの心情を考える。
おそらく……
吹っ切れたつもりでいるみたいだけど、レインは、勇者のパーティーを追放されたことに今も傷ついていると思う。
力量不足と言われたことではなくて、仲間に裏切られたことこそを、一番、辛く思っているだろう。
その傷を癒やしてあげたい。
私が癒やしてあげたい。
そのためには、どうしたらいいのかな?
どうすれば、レインは心から笑ってくれるかな?
「にゃあ……なんか、レインのことばかり考えているの」
なんでだろう?
顔がちょっとだけ熱い。
胸がドキドキしてる。
「んー……まあ、いいよね!」
今は、私のことはどうでもいい。
レインのことだ。
どうしたらいいのかなあ?
「うーん、うーん……ダメだ、よくわからないよ……にゃあ」
考えても考えても、良い解決案は出てこない。
こういう時は、自分がバカなことが恨めしい。
もうちょっと、里で勉強をしておくべきだったかなあ?
「何ができるかわからないけど……うんっ、なにがあっても、レインの傍にいないと! 私は、レインの本当の仲間なんだから♪」
それだけは間違えたらいけない。
私は自身の心に誓い……
これからずっと、レインの傍にいることを想う。
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