表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

119/1164

119話 これからに備えて

「特訓……ですか?」


 予想外の言葉に、思わずきょとんとしてしまう。

 俺と同じように、他のみんなも不思議そうにしていた。


 いきなり特訓と言われても、ピンとこない。

 というか、どのような特訓なのか?

 普通に考えると、戦闘技術を磨くためのものなんだろうけど……

 どうして、そんなことを?


「えっと……その特訓っていうのは、戦うためのもの、ですか?」

「はい、そうですよ。それ以外に、何かありますか?」


 問いかけると、スズさんがにこりと頷いた。

 スズさんのことだから、何か奇妙な特訓を持ち出すのではないか? なんてことを、ちょっとだけ思っていた。

 この人、わかりやすそうな人で、その実、よくわからない人だからなあ。


「どうしてそんな話になるんですか?」

「んー……ズバッと言いますよ?」

「はい、どうぞ」

「レインさん達が弱いので」

「うぐ」


 本当にズバッと来たな。

 言いたいことを好きに言ってくれる。


 ただ……ちょっと納得いかないところもある。

 俺達が今のパーティーを結成して、まだ間もないけれど……

 それなりに場数は踏んできたつもりだ。

 色々な人を相手にしたし、魔物と戦ったし、時に魔族も相手にした。


 それなのに弱いと言われるのは、少し心外である。

 すると、スズさんはそんな俺の内心を見透かした様子で言う。


「ごめんなさい、レインさん達を無駄に貶めるつもりはないんです。ただ、慢心しているのではないか? 勘違いしているのではないか? ……というようなことを言いたいんですよ」

「またまた、ハッキリと言いますね……」

「レインさん達は、自分達のことを強いと思いますか?」

「それは……」


 そう問われると、言葉に詰まってしまう。


 俺達は強いのか?

 力を持っているのか?


 ハッキリと答えられないところがある。

 思い返すのは、魔族と戦った時のことだ。

 あの時は、皆、全力で戦ったものの、なかなか決定的な一打を与えることができなかった。戦いを長引かせてしまった。


 あの時、もしも一対一だったら?

 もしも、誰か一人でも欠けていたら?

 魔族を倒すことはできず、今も野放しになっていたかもしれない。

 多大な被害が生まれていたかもしれない。


 結局のところ……

 俺達は、数と高いスペックを頼りにしているんだけなんだよな。


「何も言い返さない、ということは、私の言葉を認めたということでいいんですね?」


 スズさんがこちらの心を覗くような目をして、そう言う。

 認めるのは、少し悔しいけれど……

 でも、ここで見栄を張っても仕方ないので、小さく頷いた。


「強いとは、思っていません」

「カナデちゃんを始め、最強種が揃っているのに? そんなみんなを束ねるレインさんも、たくさんの契約で、色々な力を得ているのに?」

「スペックなら、他の誰にも負けないくらい高いと思います。みんなは強いと思います。ただ……」

「ただ?」

「戦うための技術は持っていません」


 みんな、戦闘訓練なんてしたことがない。

 カナデは外の世界を見たいという理由で里を飛び出したから、戦闘技術は磨いていない。

 ニーナはまだまだ子供だし、祀られていただけなので、語るまでもない。


 タニアは修行の旅をしていたらしいが、本格的に戦闘技術を学んだという話は聞いていない。

 ソラとルナは、精霊族の里に繋がる門を守るために攻撃魔法を習ったらしいが、それを効率よく扱う方法については習っていないみたいだ。


 ティナはただの幽霊なので、戦闘なんてする機会がない。


 そして俺は、テイムの技術以外、全て独学だ。

 勇者パーティーにいた頃は雑用ばかり任されていて、それどころじゃなかったし……

 その後も、戦闘技術を磨くようなことはしなかった。


 ……戦闘技術が必要になるような事態に遭遇することがなかったから。


「今まで、色々とありましたけど……それらを乗り越えられたのは、みんなのスペックが高いから……でしょうね」

「なるほど、なるほど」


 俺の言葉を受けて、スズさんが納得顔で頷く。

 それから、ぱんと手を合わせて、笑顔で言う。


「はい、合格です」

「え?」

「自身の弱さは、なかなか認められないものですが……でも、レインさんはきちんと自分と向き合い、弱いところを認めることができました。それは、なかなかできることじゃありません。そういう姿勢を忘れない限り、強くなることができますよ」

「はあ……」


 よくわからないが、知らない間に試されていたみたいだ。


 ちらりとカナデを見ると、やれやれというような顔をしていた。

 カナデの様子を見る限り、スズさんはよくこういうことをするみたいだ。


 もしも、今の試しに合格できなかったら、どうなっていたのだろう?

 ……見限られていた、のかな?


「ここで、話は最初に戻ります」


 スズさんは、相変わらず、感情の読めない笑顔を浮かべたまま話を続ける。


「レインさんが言ったように、みなさん、スペックは高いけれどそれを活かしきれていない。なので、私を相手に苦戦した。ですね?」

「まあ……」

「そうだよね……」


 タニアとカナデが、渋々ながらも認めた。

 悔しいという思いをにじませながらも、かといって、下手に言い訳をすることはしない。

 そんな姿勢は、スズさんに好ましく映ったらしく、二人に笑顔を向ける。


「弱さを認めることは、むしろ、強さであると私は思いますよ。ダメなのは、自分の力と向き合うことができないことです」

「にゃあ……お母さん、それ、褒めてるの?」

「褒めてますよ? カナデちゃんが立派に育ってくれて、お母さん、うれしいです」

「にゃー……なんか、複雑な気分」


 まあ、弱いと認めたことを褒められても、あまり良い気分はしないだろう。

 結局のところ、自身の力量のなさを思い知らされるだけなのだから。


「って、話が逸れましたね」


 スズさんが脱線した話を自ら元に戻す。


「カナデちゃんを連れ戻すようなことは、もうしませんよ? カナデちゃんは、レインさん達と一緒にいるのが一番みたいですからね。でもでも、心配になってしまうんですよ。もうちょっと、戦う力を身に着けておいた方がいいのでは? って。都合がいいことに、私はまだ里に帰らなくても問題がないですし……よければ、私が戦い方を教えてあげましょうか? という話がしたいんです」

「なるほど……」

「レインさん達は、これからも冒険者として活動していくんですよね? ひょっとしたら、とんでもなく強い相手とぶつかる時があるかもしれません。そんな時のために、特訓しておくことは必要だと思いませんか?」

「……ちょっと待ってくださいね」


 スズさんの言うことは一理ある。

 先日の魔族との戦闘以来、俺も、うすうすは考えてきた。

 地力に頼った戦い方では、いつか、行き詰まるかもしれない。

 余裕があるうちに、本格的な戦闘技術を身に着けておいた方がいいかもしれない。


 その話は、まだみんなにしていないものの……

 密かに考えていたことだ。


 なので、タイミングはいいのだけど……

 ただ、みんなはどう思うだろうか?

 俺の一存で決めることはできない。


「カナデはどう思う?」

「んー……私は賛成かな。ちょっと足りないかな、っていうのは思っていたし……猫霊族で一番強いお母さんに特訓をつけてもらえたら、もっともっと強くなれるし……それに、その方がレインの役に立てるよね……そしたら、ほ、褒めてもらえたり……えへへ」

「うん?」

「にゃ、にゃんでもないよ!? と、とにかく、私は賛成かな」


 やや挙動不審なところはあったものの、カナデは賛成に一票を投じた。


「タニアは?」

「あたしも賛成よ」

「……ちょっと意外だな。誰かに教わるとか、反発するかと思ってた」

「あたしをなんだと思ってるのよ、まったく。まあ、中途半端な相手に教わるとしたら反対してたけど……でも、スズさんなら文句ないわ。あたしの目的は、一人前になること、でもあるんだから、強くなれるなら歓迎よ」


 タニアも賛成に一票……と。

 では、ソラとルナはどうだろうか?


「なるほど……ソラとルナは?」

「ソラは……」

「我は賛成なのだ!」


 ソラを押しのけるようにして、ルナが大きな声をあげる。


「我は常々考えていた。もっと強くなりたい。この力を世に知らしめたい……と。そのために特訓をするというのならば、喜んでやるぞ」

「そんな動機なのか……?」

「ソラが解説しますね。ルナは、もっと力があれば色々なことができた。先日の魔族を相手にした時も、被害を最小限に抑えることができた。あんな悔しい思いはしたくないから、もっとがんばりたい……という感じですね」

「むむむっ、我の思いを勝手に代弁するでない!」

「ちなみに、ソラもルナと同じ思いですよ」


 ソラとルナも賛成みたいだ。

 普通に言ってくれると、わかりやすくて助かるんだけどな。ついつい苦笑してしまう。


「ニーナは?」

「わたし、は……えと、その……」

「落ち着いて。自分のペースで、思うことをそのまま話してごらん」

「う、うん……あのね。わたし、役に立ててないから……それでも、みんな優しくしてくれて……でも、ごめんなさい、っていう気持ちでいっぱいで……わたしでも、力になれるなら……がんばり、たいな」

「そっか……うん、ニーナの気持ちは理解したよ」


 ニーナが役に立ってないとか、そんなことはないのだけど……

 今はそのことに触れないでおいた。

 言葉だけ口にしても、通じるかわからないからな。

 こういうことは、本人の気持ちが問題なんだ。

 気持ちを改善するために特訓をしたいというのならば、反対する理由はない。


「えっと……最後に、ティナはどう思う? まあ、ティナが戦うとか難しいと思うけど」

「ウチか? ウチは賛成やで」

「そうなのか? あっさり言うんだな」

「ウチも戦えるようになるなら、戦いたいからな。そのための特訓なら、喜んでするで。レインやみんなに恩を返したいんや」

「そっか」


 みんなの気持ちは一つみたいだ。

 スズさんに向き直る。


「えっと……今の話を聞いていて、もうわかったかもしれないですが……特訓、お願いしてもいいですか?」

「はい、任せておいてください♪」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://book1.adouzi.eu.org/n8290ko/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ