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117話 カナデの想い・その2

 ベッドの上でレインが寝ている。

 時折、苦しそうな顔をしていた。


「にゃあ……レイン……」


 ベッドの横の椅子に座る私は、そっと手を伸ばして、レインの汗を拭ってあげる。

 そんなことくらいしかできない。

 そんな自分が情けない。


「たぶん、レインなら気にするな、って言うんだけど……無理無理。気にしちゃうよ。レイン、私のためにがんばってくれたのに、私、何もできないんだもん……」


 お母さんがやってきて、私を里に連れ帰ると言った。

 それで、色々あって、私達は戦うことになった。

 レインのおかげで、なんとかお母さんに認めてもらうことができたけど……


 でも、レインは無茶をした反動で苦しんでいる。

 私のせいだ。

 すごく申し訳ない気持ちになる。


 少しでもレインに謝罪をしたくて……

 あと、たくさんのありがとうを返したくて……

 看病を申し出た。


「にゃあ……レイン、苦しい? 大丈夫?」


 声をかけるものの、レインの反応はない。

 苦しそうにうめくだけだ。


 当然だよね……


 能力強化の魔法を、何重にも自分にかけちゃうなんて……そんな無茶なこと、聞いたことないよ。

 下手をしたら、体が壊れていてもおかしくない。

 それだけの無茶をしちゃうなんて……


「ダメダメだよ……」


 コンコン、と扉がノックされた。

 扉が開いて、タニアが顔を出す。


「様子はどう?」

「……まだ目を覚まさないよ」

「そっか」


 タニアが隣に並び、レインの顔を見る。

 タニアは、仕方ないわね、なんていうような顔をしていた。


「あんな無茶をして、あたし達に心配をかけて……仕方のないご主人様ね」

「ホントだよ……」

「カナデも、あまり気にしないこと」

「え?」

「どうせ、自分のせいだ、とか思ってるんでしょ?」

「にゃう……でも、その通りだし……」

「違うでしょ」

「うにゃんっ!?」


 ばちこん、とデコピンされた。

 痛い……何するの?

 恨みがましい視線を向けると、タニアは笑ってみせる。


「そういうつまらないことは考えないの」

「つまらないこと、って……」

「カナデのせいじゃないわよ。もちろん、レインのせいでもないし……誰のせいでもないの」

「でも、私が引き起こしたことだから……」

「そういう風に自分を責めて、暗い顔をして……そんなところをレインに見せるつもり?」

「っ」

「その、なんていうか……あんたは笑っている方が似合っているんだから、いつもみたいに脳天気に笑ってなさい」


 タニアは、どことなく照れくさそうな感じでそう言う。

 私を励ましてくれているんだろう。

 ちょっと不器用だけど……でも、すごくうれしい。


「……ありがとね」

「別に、そういうつもりじゃないし……カナデが元気ないと、あたしも調子が狂うのよ」

「にゃー……タニア、ツンデレだね」

「ツンデレちがうし!」

「にゃふー」

「じゃ、じゃあ、後は任せたわよ」


 そう言い残して、タニアは部屋を後にした。


 ウソみたいに、さっきまでの暗い気分が消えていた。

 そうだよね。

 レインに落ち込んでいるところを見せるわけにはいかない。

 そんなことをしたら、ますますレインに負担をかけてしまう。

 私は、明るく元気に笑っていないと!


「でもでも、心配しちゃうのは仕方ないよね……」


 お母さんと戦ってから、2日が経っていた。

 その間、レインはずっと寝ていて、目を覚まさない。

 ソラとルナに回復魔法をかけてもらったし、お母さんにも診てもらったから、心配はないと思うんだけど……


「……早く、元気になってほしいよ」


 私の頭を撫でてほしいな。

 手を繋いでほしいな。

 笑顔を見せてほしいな。


「……レイン……」


 そっと、レインの手を握る。

 でも、それだけじゃ足りなくて……

 寝ているレインの胸元に、そっと額を寄せた。


「にゃあ」


 こうしていると、胸がドキドキするよ……


 思い返すのは、レインの姿。

 私と一緒にいたいと言ってくれたこと。

 そのために、お母さんを相手にしてくれたこと。


 その時のことを思い返す度に、胸のドキドキが強くなる。

 それだけじゃなくて、ふわっと、温かいものが広がって……

 どことなく満たされたような気分になる。


「ん……レイン」


 自然と、大事な人の名前を口にした。


 それから、ちょっと離れて、レインの顔を見る。

 汗が流れているから、そっと拭ってあげる。


「……にゃあ」


 どうしてかな?

 すごくドキドキして、胸が苦しくて、ふわってなって……

 変な感じ。

 こんな気持ち、初めてだよ。


「……もしかして、もしかしなくても……そういうこと、なのかな?」


 そっと、自分の胸を撫でる。

 音が聞こえちゃうんじゃないか、っていうくらいドキドキしていた。


 この気持ちは、この想いは……

 たぶん……恋、だよね?


「……にゃあああ」


 途端に恥ずかしくなって、顔が熱くなる。

 ぼっと火が点いたみたい。

 たぶん、今の私は真っ赤になっていると思う。


「うわぁ、うわぁ……うにゃあああ」


 私はレインが好き。

 女の子として、レインのことが好き。


 ついに、というべきか。

 そのことを自覚してしまった。

 ハッキリと認識してしまった。


 だってだって、仕方ないよね?

 いつも優しい笑顔を向けてくれて、温かくしてくれて……

 私のために、倒れるまでがんばってくれて……

 そんなことをされて、好きにならない方がおかしいよ。うん。


 だから、私がレインを好きになるのは普通のこと。当たり前のこと。

 決定!


「……って、よくわからないことを考えているよぉ……」


 頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 私、おかしくなっちゃったのかなあ……?


「これ……どうしたらいいのかな?」


 私の気持ちをレインに伝える?

 その時のことを想像してみて……


「あわわわっ!?」


 尻尾がビーンと立ってしまう。

 そ、そんなこと無理! 絶対にできないから!?

 恥ずかしすぎて、どうにかなっちゃいそう!


「はぅ……と、とりあえずは……うん。今のままでいいよね。いきなり、す、すすす……好き……とか言われても、レインも困っちゃうだろうし……今は、この気持ちは私の胸の中に……」


 うにゃあ……レインの顔をまともに見ることができないよ。

 恥ずかしい……


「って、そんなんじゃダメだから」


 ちゃんと看病をしないと!

 うんっ、気持ちを切り替えたよ!


「……でもでも、ちょっとだけ」


 もう一度、レインの胸元に額を乗せる。

 レインの温もりが伝わってくるみたいで、すごく胸がぽかぽかした。

 えへへ……幸せだよ♪


「レイン……好きだよ」


 そっとつぶやいて、レインの頬を撫でた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういうので良いんすよ まじてぇてぇ
[良い点] カナデのポンコツ感が良き めっっっっっちゃ良き [一言] てぇてぇのじゃ〜
[良い点] カナデはこの時からレインに対して恋を思ってたんだろうなあ。 自分の為に怒ってくれたり、泣いてくれたり、守ってくれたりするのは、好感持てますものね。
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