1158話 娘を任せる
「合格だよ!」
十分後。
どこまで飛ばされたのかわからないけど、わりと元気な様子で戻ってきたミルアさんは、キラキラ笑顔でそんなことを言う。
「やっぱりレインくんならタニアちゃんを任せることができるよ。これからもタニアちゃんのことをお願いね?」
「はい、任せてください」
「って、ちがーーーーーうっ!!!」
尻尾をぴーんと逆立てて、タニアが会話に割り込んできた。
「今はそういう話をしているんじゃないの! あたしの婚約についてどうするか、っていう話でしょ!?」
「「……」」
「「あ」」
しまった。
ミルアさんに引きずられる形で、ついつい、俺も途中から勝負に夢中になってしまった。
「も、もちろんわかっているよ、タニアちゃん。えっと……ねえ、レインくん?」
「そ、そうですね。もちろんわかっていますとも」
「めちゃくちゃ忘れていたっぽいけど……はあ、まったく」
タニアがやれやれとため息をこぼして。
そんなタニアをエーデルワイスが抱きしめた。
「……なんで抱きしめるのよ?」
「なに。小さなタニアが怒るところは愛らしいと思ってな」
「愛でるんじゃないわよ!?」
「我が主よ、私達もこのような子供が欲しいと思わないか?」
「ナチュラルにレインを誘惑してるんじゃないわよ!?」
「よし、よし」
「ニーナまで!?」
場が混沌としてきたな……
「とりあえず、家に戻りましょうか」
――――――――――
「うん、バッチリだよ!」
ミルアさんはとびっきりの笑顔を見せてくれた。
実際に俺と戦ってみて、今現在の力を確認。
ミルアさんの感覚では、まったく問題ないとのこと。
「というか、やっぱりだけど私よりも強いね。いやー、危ない危ない。あのまままともに戦っていたら、私、負けていたよ」
「さすがに、そんなことは……」
「あるよ?」
ミルアさんは大真面目な顔で言う。
評価されることは嬉しいのだけど……
ミルアさんより上なんてこと、あるか?
ミルアさん……
というか、みんなの家族に対しては、戦って勝つイメージというものをまるで持つことができないのだけど。
「レインくんなら、まず間違いなく決闘に勝てると思うな」
「ああ、当然だな」
「当然でございます」
「エーデルワイスとコハネは、なんで自分のことのようにドヤ顔するんやろ……?」
ごめん、俺もよくわからない。
「母さんが認めてくれたことはいいんだけど……でも、それで決闘に絶対に勝てる、とは言えないのよね」
「そうだな……」
相手がミルアさんなら負けても仕方ないと思う。
ただ、そうではない、今までさほど目立つことのない竜族が相手なら、普通に考えてタニアが負けるわけがない。
強者故の油断。
もしかしたら、そういうのはあったかもしれないが……
とはいえ、それに完全に溺れてしまい、勝利を逃してしまうような真似をタニアはしない。
多少の油断があったとしても、すぐに気持ちを切り替えて対応することができる。
力だけではなくて心も鍛えられているはず。
「タニア、決闘の時のこと、もう少し詳しく話してくれないか?」
「ええ、いいわ。といっても、話せることは少ないんだけど……」
タニア曰く。
しつこい求婚にうんざりして決闘に応じた。
そこらの竜族に負けるはずがない。
自分の方が強者である。
なんて油断はあったものの、かといって、戦闘で手を抜くことはない。
しつこい求婚にイライラしていたこともあり、最初から全力で叩こうとしたらしい。
しかし、なぜか全力を出すことができない。
最大値が百とするなら、十か二十ほどの力しか出せなかったとのこと。
焦るタニア。
それでも、他の竜族と比べるとタニアの最大値は果てしなく大きい。
十や二十だけの力しか出せなくても、慎重に戦えば負けることはない。
「……でも、言い訳になっちゃうかもなんだけど、なんか落ち着くことができなかったというか視野がものすごく狭くなっていたというか。なんていうか……『いつも通り』に戦うことができなかったのよね」
「力だけじゃなくて心も乱されていた、っていうことか」
「にゃー……竜族って、そんな器用な真似できたっけ?」
「難しいのではないか?」
「確かに竜族は高い魔力を持ちますが、魔法に対する知識は普通です。威力の高い攻撃魔法などを扱うことはできますが、知識と技術が必要とされる特殊な魔法……あるいは、それに類するものを開発することはできません」
ルナとソラが断言する。
魔法に精通している精霊族である二人がそう言うのなら確かだろう。
なら……
「……魔道具、か?」




