1157話 娘がほしければ私を倒しなさい
「むむむ……!」
体勢を立て直したミルアさんは子供のように頬をふくらませる。
砂地に突っ込んだせいで、あちらこちら汚れていた。
「レインくん!」
「はい?」
「男なら避けたりしないで、正々堂々と戦わないと!」
「えぇ……」
さすがにそれは無茶振りがすぎませんかね……?
いや、まあ。
言いたいことはわかる。
わかるけど、ミルアさんを相手に回避を捨てて真正面から挑めば、どうやっても勝てないぞ。
というか、勝ち負けをハッキリさせる決闘じゃなくて、稽古のはずだったんだけど……
母は娘に似る。
いや、逆か。
そんな感じで、ミルアさんもわりと血が上りやすいようだ。
とはいえ……
「これはこれでいい稽古になるかもしれないな」
稽古ということを忘れて、本気で挑んでくるミルアさん。
いい経験を積むことができるだろう。
「レインくんのため、私は鬼になるよ!」
「いや。母さんは竜でしょ」
「よーし、いくよ!」
タニアのツッコミを無視しつつ、ミルアさんは空に羽ばたいた。
両手を太陽にかざして、翼を大きく広げて……
「んむむむむむぅ……!!!」
「って……それは!?」
ドラゴンブレス!?
さすがにまずい。
というか、ミルアさんの本気のドラゴンブレスって、どれくらいの威力が……?
たぶん、この山なら吹き飛ばすような気がする。
「出し惜しみしている場合じゃないな!」
エーデルワイスと契約したことで得た力。
『黒』に触れる。
魔王の力。
歴代魔王の意思。
それを自由に扱うことはできず、まだまだ鍛錬が必要だ。
ちょっとしたことで失敗してしまう可能性がある。
ただ、このような場面で失敗するかも、なんて尻込みしていられない。
絶対に成功させてみせる!
「……よし」
魔王の力の一端を借りる。
比率で言うと全体の数パーセントくらいだろうか?
それでも強力な力が体の奥底から湧き上がってきた。
それを千鳥に絡める。
黒い炎が刃に。
喰われているかのように見えるけど、一応、問題はない。
千鳥はカムイのような能力はないけれど……
ただ、色々な魔法を付与して威力を高めることができる。
シフォンの魔法剣のようなものだ。
もっとも、あれほど完成度は高くない。
回数制限もあるし、あまり無茶な使い方をしたら壊れてしまうだろう。
「ただ、今はこれで押し通る!」
「おぉ……!? なんかすごい力を感じるよ! いいねいいね、そうでないとタニアちゃんは任せられないよ」
「せっかくなので、その許可もいただきます!」
「できるかな? いっくよー!」
空が輝いた。
ミルアさんのドラゴンブレス。
極大の光が空から降り注いで、全てを飲み込もうとする。
それはまさしく天の裁き。
抗うことはできず、ただ打ち倒されるだけ。
それでも抗おうとするのは、魔王の力。
魔族の頂点に立つ王。
その力を借りて、己のものとする。
百パーセントではなくて、数パーセントなのだけど……
それでも十分!
「貫けぇえええええっ!!!」
『黒』が宿る千鳥を振り抜いた。
斜めに振り抜いた刃。
その軌跡に従い、『空間』が切り裂かれていく。
ミルアさんのドラゴンブレスを真正面から受け止めるのは、ほぼほぼ不可能に近い。
ただ、抜け道を探して打ち貫くことなら可能だ。
空間を切り裂いてドラゴンブレスを消滅させてしまえばいい。
力のコントロールが難しい。
とても繊細な作業が必要だ。
ただ、俺はそれらの要求に応えることができて……
「えぇ?!」
ミルアさんの驚きの声。
それもそのはず。
俺の斬撃はドラゴンブレスを斜めに切り裂いて、そのまま消滅させた。
さすがにこれは想像していなかったらしく、空中で棒立ち? になっていた。
で……
「あ」
「あ」
俺の斬撃は完全に消えておらず、余波が残る。
ミルアさんがそれに巻き込まれて……
「ひぃやぁああああああーーーーーー!?!?!?」
ミルアさんは悲鳴をあげながら空の彼方に飛んでいくのだった。




