1144話 旅の途中で思わぬ……
竜族の里はホライズンから極端に遠いわけではない。
ソラとルナの力を借りて、精霊族の門を使わせてもらえれば、すぐ近くまで行ける。
ただ、険しい山の中にあるらしい。
登山をするようなもの。
山を軽く見てはいけない。
小さな山だとしても、しっかりと装備を整えないと遭難してしまうことがある。
ましてや、今回は竜族が住処とするような山。
生半可な装備ではダメだろう。
タニアの結婚がすごく気になるものの……
しかし、焦って全てを台無しにしてはダメだ。
まずは、必要なものを買い揃えて。
しっかりと準備を整えて。
……1週間後。
「では……『竜族の里を襲撃するチーム』、出撃なのだ!」
「勝手に物騒な名前にしないでください。ケンカをしにいくわけではないんですよ?」
「似たようなものだろう」
「理由によるが、私は、相手がふざけたことを口にした場合、山を消し飛ばす覚悟だぞ」
「わたくしは、せいぜい、精神操作といったところでしょうか」
「ふ、二人がめちゃくちゃ怖いっす……」
魔王であるエーデルワイスはともかく……
最近、コハネも考え方が過激になってきたような気がした。
先の邪神事件のせいで、まだちょっとデリケートになっているのか。
それとも、みんなに影響を……いや。
そんなことはないと信じよう。
……信じたい。
「ルリちゃん、準備はできた?」
「うん」
「おやつは銅貨三枚までだよ」
「うん」
「バナナはおやつに入らないからね」
「うん」
「でも、お魚は別! あれはおやつというか、魂!!!」
「おぉ……?」
カナデとルリの準備もばっちりだ。
……たぶん。
「それじゃあ、行くか!」
――――――――――
竜族は、主に山に里を作る。
ただ、終の棲家とするわけではなくて……
一定期間が経つと、また別の場所に里を移すらしい。
タニア曰く……
『慣れた場所にいると、油断というか堕落するというか、腕がなまるでしょ? だから、定期的に場所を変えて、環境を変えて心身を鍛えるのよ』
という、なんとも武闘派な答えが帰ってきた。
それと、山が荒れる時期があるため、そういう時は場所を変えるらしい。
過酷な環境で鍛えるのは好きだけど、さすがに自然が相手では厳しいとか。
ただ、時に自然に挑む竜族が出て、成し遂げた者は称賛されるとか。
……やっぱり武闘派だ。
タニアがやたら攻撃的なのも理解できる。
「……そういう話を聞くと、私達、大丈夫なのかな? って不安になっちゃうよね」
カナデがちょっと顔を引きつらせていた。
その隣を歩く俺は苦笑する。
「まあ、初めて行くところだから不安はあるけど……でも、大丈夫じゃないか?」
「どうしてそう言い切れるの?」
「タニアが育ったところだからさ」
話を聞くと物騒なイメージがあるのだけど……
それでもタニアの故郷だ。
タニアが育った場所。
なら、そんなに酷いところではないと思う。
故郷の話をするタニアも、なんだかんだ嬉しそうにしていたし……
ちょっと大変かもしれないけど、でも、最後は笑って過ごせるような、そんなところなのだろう。
「にゃはー、レインらしい意見だね」
「そうか?」
「そうだよ」
俺らしい、というのがよくわからないけど……
褒め言葉だろうから、素直に受け取っておくことにした。
……そんな話をしつつ、まずはソラとルナの力を借りて、精霊族の門で移動。
竜族の里の近くの平原へ。
そこから徒歩。
まずは山の麓まで移動して、そこで夜明けを待つ。
そして、日が登ると同時に登山を開始。
順調に行けば、日が暮れる前には里に到着できるはずだ。
……そう思っていたのだけど。
「レイン! なんだかあっちの方が騒がしいよ!?」




