1141話 なんか怖い
とある日。
穏やかな午後。
「……」
コハネの部屋を訪ねると、彼女は正座をして、目を閉じていた。
ピクリとも動かない。
ルナがお菓子を作ったから届けに来たんだけど……
「コハネ?」
「……」
「えっと……寝てるのか?」
「……」
「聞こえていない……よな」
「……」
一応、小声。
それでも、コハネは最強種でとても優れた能力を持つから、俺が部屋に入れば簡単に気づくはず。
でも、目は閉じたまま。
やはりピクリとも動かない。
寝ているのだろうか?
でも、ベッドではなくて床の上で?
しかも正座をしたまま?
「コハネ?」
「……」
もう一度声をかけるものの、やはり無反応。
もしかして意識がないのだろうか?
なにかしらまずい状態になっている……とか?
ただ、顔色は悪くないんだよな。
いつも通り。
近づいてみると、ちゃんと呼吸をしていることもわかる。
「ど、どういう状態なんだ……?」
「……主さま?」
心底困り果てていると、ぱちりとコハネが目を開いた。
不思議そうな顔をして小首を傾げる。
「どうかされましたか?」
「あ、いや……勝手に入ってごめん。返事がなかったから、気になって」
「申しわけありませんでした。充電をしている途中で、スリープモードになっていたため、主さまに気づくことができませんでした」
「充電……? えっと、スリープってことは寝ていたのか?」
「窓から差し込む太陽の光で、植物が行うような光合成に似た機能がわたくしには搭載されておりまして……」
「???」
「寝ていたようなものです」
「そっか」
何事もないようでよかった。
ピクリとも動かなくて、まるで人形みたいで……
なにも知らないと、どうにかなったように見えたからな。
……思えば、コハネは特殊な最強種なんだよな。
知らないことの方が多い。
今の会話も半分は理解できなかった。
コハネの主として。
そして仲間として、もっとコハネのことを知っていかないといけないな。
「ところで、主さまはわたくしになにかご用でしょうか?」
「あ、そうだった」
ルナが作ったお菓子を差し出す。
「はい、これ」
「お菓子ですか?」
「ルナがみんなのおやつに、って作ったから届けに来たんだ」
「わざわざありがとうございます。さっそく、いただいて……ルナさま?」
コハネがぴたりと止まる。
「このお菓子は、ルナさまが作ったものなのでしょうか?」
「そうだけど」
「ソラさまではなくて、ルナさまなのですね? 実はソラさま、ということはありませんね?」
「ないけど、どうしたんだ?」
「いえ……」
コハネは、どこか遠い目をして語る。
「以前、ふとしたきっかけでソラさまの料理を拝見した時があるのですが……あれはもう、なんていいますか。いえ、決してソラさまを貶めるつもりはないのですが、しかし……」
……なるほど。
コハネも、ソラの料理に触れてしまったのか。
幸い……と言うと酷いことなのだけど。
食べていないのはよかった。
「ソラさまの料理のことを思い返すと、もう……ピーガガガガガ! シンコクナエラーがハッセイシマシタ。自動でサイキドウを……」
「コハネ!?」
「……失礼いたしました」
なにやらとても大変なことになったような……?
でも、コハネは元に戻っていた。
「今のは忘れていただけると幸いです」
「あ、ああ……」
「では、ルナさまのお菓子、美味しくいただきますね」
……コハネについて、まだまだわからないことは多い。
これから色々と知っていければと思う。
ただ。
今日は一つ、わかったことがある。
ソラの料理は、特殊な最強種であるコハネさえも脅かす、ということだ。




