1139話 尻尾対決
「にゃーん」
「はふーん」
昼。
リビングのソファーに、カナデとライハが寝転がっていた。
ちょっとだらしない。
あと、スカートの中が見えてしまいそうだから、やめてくれ。
「……」
そんな二人に近づくのは、ルリだ。
いつもの無表情。
ただ、二人になにかしら興味を惹かれているらしく、とてとてと近づいていく。
「……」
「お、ルリちゃん? どうしたっすか?」
「私達になにか用? 一緒に遊びたいとか?」
「……」
ルリは応えない。
ただ、その視線はカナデとライハの尻尾を追いかけていた。
ゆらゆらと揺れる二人の尻尾。
それに誘われるかのように、ルリはそろそろと近づいていく。
なんだろう?
二人の尻尾は、子供の興味を惹く特殊な魔力を発しているのだろうか?
それとも、単純におもちゃとして見られている?
「……」
ルリはなにも言わない。
ただただ無言。
その目は狩人のように鋭く。
足運びは熟練の冒険者のよう。
そして……
「っ!」
ばっと、勢いよく前に出た。
小さな手をいっぱいに振り……
「にゃん!?」
「ひぁ!?」
カナデとライハの尻尾を、それぞれ両手に掴んだ。
「おぉ……」
ルリの口から、感嘆……のような小さな声がこぼれた。
一方でカナデとライハは、ぴくぴくと震えている。
「ちょ……る、ルリちゃん? その、えっと、尻尾は敏感なところだから……」
「ひゃあああ……だ、ダメっす……ち、力が抜けていくっす……」
妙に色っぽい二人。
だが、そんなことはどうでもいいとばかりに、ルリは掴んだ尻尾をにぎにぎする。
「おぉ……」
再び感嘆……のような声。
二人の尻尾に興味があるみたいだ。
猫とか、動くものに興味を惹かれたりするけど……
それと同じような感じなのかな?
「はぅん……それ、マジでダメっす……自分、そんなことは……」
「ふ、ふふふ……」
なぜか不敵に笑うカナデ。
「ライハはその程度だったんだね」
「え?」
「私は……ひゃ……ルリちゃんが喜んでくれるなら、尻尾を触らせるくらい、なんともないよ!」
「むっ」
「ふっふっふ。私の尻尾の方が素敵で立派ということだね!」
「そ、そんなことないっす! 自分の尻尾は負けてないっすよ!」
「でも、ルリちゃんは私の尻尾を選んでくれたよ」
「くっ……自分の尻尾も触ってほしいっす! もっと!」
尻尾の生えている者同士。
なにか譲れないものがあるらしい。
バチバチと火花を散らす。
「おぉ……」
そんな二人の様子を気にしているのか気にしていないのか。
ルリは、変わったところを見せず、尻尾をにぎにぎしていた。
「えっと……ルリ?」
「ん?」
「ルリは、尻尾が好きなのか?」
「私の尻尾の方が好きだよね!?」
「自分っすよね!?」
カナデとライハが食い気味に会話に割り込んできた。
尻尾に関することは譲れないらしい。
女の子の気持ちも難しいが……
尻尾の生えていない俺には、なかなかわからない気持ちだ。
「んー……」
ルリは少し考えて、
「満足した」
「「えぇ!?」」
なんとなく手触りのいいものを求めていただけらしく、ルリは、ぱっと尻尾から手を離した。
そして、家の奥に消えてしまう。
「「……」」
残されたカナデとライハは呆然として……
自分の尻尾はルリの心を掴むことはできなかったのか、とショックを受けている様子で……
「……どんまい」
俺は、そう言うことしかできないのだった。




