1137話 おかえりなさい
「おかえりなさい」
家に帰ると、まず最初にルリが迎えてくれた。
顔はいつもの無表情。
ただ、心なしか雰囲気が柔らかいような気がする。
「ただいま」
「ん」
ルリは、そっと手を差し出してきた。
その手を握り、繋いで家の中へ。
「レイン、おかえりー!」
「おかえりなさい」
「おかえりなのだ!」
カナデとソラとルナも迎えてくれた。
俺は笑顔で返事を……
「うむ、出迎えご苦労」
「エーデルワイスに言ったんじゃないからね!? あ、いや、エーデルワイスにおかえりを言いたくないわけでもないけど!」
「私が帰還したこと、嬉しいのだろう? 素直に喜べ、猫よ」
「エーデルワイスはいつでもエーデルワイスだね!?」
仲がいいようでなにより。
「留守の間、変わったことは?」
「邪教徒の件を除けば、特にありません」
「そっか」
平和でなにより。
邪教徒の件は、完全に解決したわけじゃないけど、ひとまずの収束を見せた。
今は、これ以上、俺達にできることはないから、シフォンや騎士団などの調査を待つしかない。
そのシフォンだけど……
――――――――――
「ありがとう、レインくん」
ホライズンへ戻る途中の野営。
話をする時間を作り、俺とシフォンは二人になった。
「レインくんがいなかったら、今回の件、けっこう危なかったかも」
「そんなことないだろ。シフォン達ならうまくやれていたさ」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど……うん。もっともっとがんばって、強くならないとね!」
前向きなところがシフォンのいいところだ。
この心こそが『勇者』の証なのかもしれない。
「レインくんは……」
シフォンは、ふと、憂い顔を見せた。
たぶん、考えているのは邪教徒のこと。
ゼクスや最後に残った、ジーベンのこと。
彼らの言葉が胸に焼き付いているのかもしれない。
忘れられないのかもしれない。
「……ううん、なんでもない」
再びの笑顔。
なにを言いかけたのか?
予想はできても確信はない。
聞かない方がいいだろうな、とその言葉に乗る。
「レインくんは、これからどうするの?」
「いつも通りかな。みんなと一緒に過ごして、冒険者として活動する。そんな日常を過ごしていくよ」
変わらない日常こそが大事なもので。
守らないといけないものだと思う。
だからこそ、いつも通り……だ。
「レインくんらしいね」
「そうかな?」
「そうだよ」
シフォンが笑う。
花が咲いたような、とても優しい笑みだ。
シフォンは勇者だけど……
でも、それ以前に女の子なんだよな。
そんなことを、ふと思う。
「シフォンは?」
「今回の報告のために王都に戻って、それから、またなにか任務を請けることになると思う。それから……」
「それから?」
「……内緒♪」
いたずらっぽい笑顔で、そんなことを言われてしまう。
雰囲気からして、大事なことではなさそうだけど……
プライベートなこと?
気になる。
「ちょっとしたことに向けて、私も、改めてがんばっていこうかな、って」
「ちょっとしたこと?」
「そこが内緒♪」
「むぅ……」
やっぱり気になる。
とはいえ、こういう言い方をしている以上、教えてはくれないんだろうな。
シフォンが、だんだん小悪魔になってきているような気がした。
「レインくん」
ふと、シフォンの表情が真面目なものになる。
「今回の件で、ちょっとしたことを思ったんだけど……ルリちゃんのこと」
家に帰った後。
シフォンも、そのままさようなら、なんてことはなくて、うちに来てみんなに挨拶をした。
その際、ルリともそこそこの時間、話をする機会があった。
「邪推とか、そういうわけじゃないんだけど、ルリちゃんって大神官達と似たような境遇なんだよね?」
「……少なくとも、生まれは」
「そっか」
シフォンは迷い。
そして、じっと考える。
「どうしたんだ?」
「これ……私の勘のようなもので、なにも根拠のないものなんだけど……」
そう前置きしてから、シフォンは告げてきた。
「潜在的なものというか、その人の持つ器というか、魂の大きさというか……ちょっとうまく言葉にできないんだけど、そういうものはルリちゃんの方が圧倒的に上に見えたんだよね」




