1135話 し、仕方ないんだからね!?
「お前は死ね」
黒い炎が放たれた。
炎は豪炎となり。
豪炎は獄炎となる。
炎は意思を持つかのように竜の形を取り、ジーベンに襲いかかる。
エーデルワイスほどの力を持つ者ならば、ただの攻撃が神の一撃となる。
黒竜の炎。
ジーベンに喰らいついて……
「あああぁあああああーーーーーっ!!!?!?!?!?」
断末魔の悲鳴。
それはすぐに消えて……
ジーベンの肉体、魂も燃やし尽くされて……
「……」
後に残るのは無。
この世界から。
肉体も、心も、魂も……全て消え去った。
……ように思われた。
「……がはっ!?」
ふと、空間が歪んで……
そこからジーベンが落ちてきて、地面に倒れ込む。
全身ぼろぼろ。
わずかに意識はあるものの、まともにものを考えられないほど衰弱していた。
本来ならば、なにもかも焼き尽くして。
世界から消失させるだけではなくて、輪廻転生も不可能なほどに魂を燃やすことも可能だった。
こうして、ぼろぼろになりながらも生きているのは、単にエーデルワイスが手加減したからだ。
手加減した理由は二つ。
事件の首謀者である存在を無闇に殺しては、背景の解明が難しくなる。
再発を防ぐためにも情報は必要だ。
そしてもう一つは……
「失礼ですが、少々意外でございました」
「なにがだ?」
「エーデルワイスさまならば、敵は必滅かと思いましたので」
「邪教徒を相手にしたコハネに言われたくないのだが……まあ、命がけの殺し合いなら、そんな余裕はないがな。ただ、こいつは邪神の力を借りただけの雑魚だ。雑魚をいちいち殺す方が面倒だ」
「理解いたしました。いわゆる、ツンデレというやつですね」
「どうしてそうなる!?」
「『べ、別にあんたのために殺さないであげたわけじゃないからね!?』という感じですね」
「そのセリフ、色々と無茶があるだろう!?」
圧倒的勝利。
しかし、なかなか締まらない二人であった。
――――――――――
村の中心にある神殿。
そこからものすごい力を感じて、慌てて駆けつけたのだけど……
エーデルワイスとコハネのものだった。
うん、納得だ。
見知らぬ男を一人、拘束している。
たぶん、あいつも大神官なのだろう。
「けっこう急いだつもりだったんだけど、もう終わっていたか。さすがだな」
「主さまに余計な手間をかけさせるわけにはいきませんので」
「さあ、褒めるがいい。くくく、私の頭を撫でる権利をくれてやろう」
エーデルワイスは照れているのか、そうでないのか。
なかなか判断が難しい。
「そいつは?」
「安心するがいい。完全に拘束しているし、それ以前に、心を叩き折ってやったからな。もう私に逆らう気力なんて残っていないだろう」
いったい、なにをしたのだろう?
気になるけど聞かない方がいいような気がした。
「ひとまず、これで終わりか?」
ゼクスともう一人の大神官は拘束した。
他にそれらしい気配はしない。
怪しげな儀式が進められていたようだけど、これも、コハネとエーデルワイスの活躍で阻止できたようだ。
「……負けか」
拘束されている大神官がぽつりとこぼした。
目が醒めたみたいだ。
シフォンは、いつでも動けるように足に力を入れつつ、剣の柄を握る。
ショコラとミルフィーユも臨戦態勢に。
ライハも身構えた。
ただ、コハネとエーデルワイスは落ち着いていた。
俺と同じだ。
静かに歩み寄る。
「お前が邪教徒の大神官で間違いないか?」
「……そうじゃな、認めよう」
わりとあっさりと頷いた。
エーデルワイスが言っていたように、本当に心が折られているみたいだ。
「ここでなにを?」
「……邪神を降臨させるための儀式だ。その力で世界を救う」
「救う?」
「そう……我らの手で救うのだ」




