114話 最強の中の最強・2
「ソラっ、ルナっ! 援護を!」
俺一人でスズさんの相手をすることはできない。
カナデとタニアが戦線に復帰するまで、なんとか保たせないと。
そのために、ソラとルナに援護を要請した。
俺とスズさんはギリギリのところまで接近しているので、普通ならば、魔法を放つことはできない。
俺を巻き込んでしまうからだ。
でも、唯一、巻き込まないで済む方法がある。
二人ならば、そのことに気づいてくれるはず!
「「パラライズショック!!!」」
願っていた通り、ソラとルナは状態異常魔法を解き放つ。
俺は、『状態異常完全無効化』という能力がある。
これならば、巻き込まれても何も問題はない。
「みゃっ!?」
ビリッ、と痺れた様子で、スズさんが変な声をあげた。
いくらスズさんが最強種の中の最強だとしても、猫霊族は魔法に弱い。
その弱点を克服することはできなかったらしく、状態異常にかかった。
今がチャンスだ!
スズさんの足を払い、地面に押し倒そうと……
「えいっ」
「なっ……!?」
……足を払おうとしたところで、スズさんがわずかに体をよじらせた。
苦し紛れにあがいた……というわけではない。
一切の無駄がなく、必要最小限の動作で俺の攻撃を避けたのだ。
足払いが避けられて、俺の足が宙を蹴る。
そして、逆にスズさんに足払いをかけられてしまい、地面に倒れた。
「どうして……!?」
「ふふっ。猫霊族の弱点は魔法。良いところに目をつけましたが……弱点を弱点のまま、いつまでも放置しておくと思いましたか? 攻撃魔法などはどうしようもないですけど、状態異常魔法にかかかってもある程度は動けるように、特訓をしていたんですよ」
さらりと言うスズさん。
状態異常魔法にかけられても動けるなんて……
そんな無茶苦茶なこと、どうやればできるようになるんだ?
まずい。
思っていた以上に、スズさんは手強い。
常にこちらの上をいっている。
とはいえ、諦めるわけにはいかない。
ここで諦めたら、カナデと別れてしまうんだから!
「私達の使える魔法は……」
「まだまだたくさんあるのだぞ!」
ソラとルナが叫ぶ。
「ポイズン……」
「フリーズ……」
毒を付加する魔法、凍結状態にする魔法が、それぞれ放たれようとした。
しかし、それよりも先にスズさんが動く。
「同じ手はくらいませんよ」
「きゃ!?」
「むぐっ!?」
巨大な敵を殴りつけるように、スズさんは拳を大きく振り抜いた。
たったそれだけのことで、拳撃による衝撃波が発生した。
衝撃波はソラとルナを巻き込み、二人を空高くに放り上げる。
くるくると木の葉が舞うように落ちて……どんっ。
二人はそのまま目を回してしまう。
「隙っ……」
「アリぃいいいいいっ!!!」
投げ飛ばされたはずのカナデとタニアが、いつの間にか戻ってきていた。
腕を振り抜いた体勢のままのスズさんに、同時に飛びかかる。
「隙なんてありませんよ」
「にゃっ!?」
「ひゃあああああぁっ!?」
再び投げ飛ばされるカナデとタニア。
ものすごい勢いで飛ばされて、地面を転がる。
大丈夫だろうか、あれ……?
「うーん……みなさん、同時にかかってきてコレですか? ちょっと拍子抜けですね。私、この位置からぜんぜん動いていないんですよ?」
「くっ……」
この人、とんでもない化け物だ。
昼間の鬼ごっこで、その身体能力の高さを知り、力を知ったつもりになっていたけれど……
とんでもない。
この人の力の源は、猫霊族の身体能力とは関係なく、まったく別のところにある。
『技術』だ。
戦うための技術が、これでもかというくらいに磨き抜かれている。
熟練の冒険者と変わらない……いや、それ以上だ。
ひょっとしたら、Sランクの冒険者と同じくらいの技術を持っているのではないか?
対する俺達は、身体能力だけを頼りに戦ってきた。
それなりの経験は積んでいるが……
そんなものは、極限まで鍛え抜かれた技術を相手には役に立たない。
子供がプロの拳闘士に殴り合いを挑むようなものだ。
力の差は圧倒的だ。
まさか、ここまで差があるなんて……
「これで終わりですか?」
「……いいえ、まだですよ」
スズさんの挑発的な笑みを受けて、ゆっくりと立ち上がる。
他のみんなも起きて、それぞれ構えた。
思っていた以上の差があるけれど……
立ち止まってなんていられない!
「ソラっ、ルナっ! 俺に合わせてくれ!」
「了解です!」
「うむっ!」
「ファイアーボール・マルチショット!」
複数の火球を解き放つ。
手加減なんてしている余裕はない、全力だ。
ありったけの魔力を注ぎ込み、巨大化した複数の火球がスズさんに殺到する。
それでもスズさんは、力の差を見せつけるように、その場から動こうとしない。
拳を振り、その圧だけで火球をかきけしてしまう。
「「ライトニングストライク!!!」」
タイミングを合わせて、ソラとルナの魔法が炸裂した。
地を這う大蛇のように、紫電の稲妻が駆け抜ける。
「これも追加よっ!」
タニアがドラゴンの翼を広げて、空高く飛翔した。
そして、ドラゴンブレスを叩き込む。
ソラとルナの魔法。
そして、タニアのブレスが一体となり、炸裂するが……
「甘いですよ」
スズさんの笑みは、やはりというか、消えない。
ソラとルナの魔法を、真正面から拳で弾いてみせた。
直撃しなければ問題ない、ということだろうか?
とんでもない人だ。
タニアのブレスは、拳を振り、衝撃波を生み出すことで相殺した。
俺とカナデも、似たようなことをしたことがあるが……
あの時は、二人でやっとできた、という感じだ。
それに、タニアも手加減していた。
今は、タニアも本気を出しているはずなのに……
スズさんは、一人で防いでしまう。
「まだまだぁっ!」
「うにゃんっ!」
三人の攻撃に続く形で、カナデと一緒に駆けた。
二人で協力して、拳と蹴撃の嵐を叩き込む。
しかし、全ていなされて、あるいは避けられてしまう。
が、それは予想済だ。
読んでいた通りに、スズさんの反撃の拳が飛んでくるけれど……
「ここだっ!」
「えっ?」
ティナと契約したことで得た、『重力操作』で、自身にかかる重力をゼロにした。
ふわりと、スズさんを飛び越える。
さすがにこれは予想外だったらしく、スズさんの拳は対象を見失い、宙を空振る。
その間に、重力操作を解除。
地面に降り立った俺は、即座にナルカミの特殊機構を作動させて、ワイヤーを射出した。
後ろからスズさんの体を縛り上げる。
さらに、カナデが前からスズさんに抱きついて、二重に動きを封じる。
「いくらなんでも、この拘束をすぐに振りほどくことはできないでしょう!?」
「そうですね。でも、動きを止めるだけでは、私に勝つことはできませんよ」
スズさんの言う通りだけど……
俺達には、切り札がある。
「レインっ……!」
すぐ近くの空間が歪み、ティナを連れて、ニーナが現れた。
絶好の機会と判断して、転移で飛んできたのだろう。
「ナイスタイミングだ、ニーナ!」
「……んっ!」
「そして……後は任せたぞ、ティナ!」
「おうよ。ウチに任せや!」
ティナは、ぐっと親指を立てて……
そのまま、すぅっと、空気に溶けるようにしてスズさんの中に消えた。
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