1131話 絶対に必要なもの
「……」
ゼクスが地面に膝をついて。
そのまま、手を前に伸ばすようにしつつ、ゆっくりと倒れた。
一度、攻撃の手を止めて様子を見る。
「……」
「……」
「……」
みんな、なにも言わない。
警戒は続けたまま、ごくりと息を飲む。
そうして、一分ほど様子を見て……
「……うん、もう大丈夫そうだな」
俺の言葉をきっかけに、みんな、肩の力を抜いた。
安堵の吐息もこぼす。
「アニキ。そいつ、死んだっすか?」
「いや。たぶん、気を失っているだけだろうな……うん、やっぱりそうだ」
ゼクスのところに歩み寄り、脈を確認した。
死んでいない。
ただ、完全に意識を失っているらしく、ちょっとやそっとのことでは目覚めないだろう。
今のうちに手足を拘束して。
ついでに、魔力錠をかけておいた。
無敵に関しては、魔力錠ではどうにもならないと思うけど……
炎を操る能力に関しては、あれは魔力を使っているように見えた。
魔力錠をつけておけば大丈夫だろう。
「ねえねえ、レイン君」
シフォンが不思議そうに話しかけてきた。
「私達、すごく単純な攻撃しかしていなかったんだけど……どうして、その人を倒すことができたのかな? もしかして、複雑な攻撃は無理で、逆に単純な攻撃なら通用する、っていうこと?」
「いや、そういうわけじゃないさ。単純だろうが複雑だろうが……まあ、試してないからなんともいえないけど、たぶん、ゼクスは全て防いでいたと思う」
「なら、どうして……」
「さっきの攻撃は、ゼクスにダメージを与えることを目的としていないんだ」
「え?」
「炎系の魔法を連射して、ゼクスの周囲を炎で包み込む……そうやって、酸素を奪うことが目的だったんだよ」
「あっ」
納得、という感じでシフォンが小さな声をこぼした。
仕組みはわからないが、俺達の攻撃はゼクスに届かない。
たぶん、どれだけの攻撃を放ったとしても、絶対に届かない。
その仕組みを解明する時間はない。
突破する方法も思い浮かばない。
なら、どうすればいい?
ゼクスは言った。
『体を害する攻撃』を完全に遮断する……と。
なら、『体を害する攻撃』に固執する必要はない。
他の攻撃で倒せばいい。
で、その他の方法というのが酸素を奪うことだ。
無敵の結界を持っていようが、基本、ゼクスは人間だ。
人間である以上、酸素は必須。
呼吸をしなければ生きていくことはできない。
だから……
炎系の魔法を絶え間なく叩き込んで、ヤツの周囲の酸素を奪ってやった。
一瞬で完全にゼロにする、というのは無理だから、少し時間がかかったけど……
結果はこの通り。
魔法の炎がゼクスに届くことはない。
しかし、その周囲の酸素を奪うことは可能というわけだ。
「なるほど……レイン君、よく考えたね。攻撃が通じないなら酸素を奪って倒してしまおうなんて、普通、思い浮かばないよ」
「さすがアニキっす!」
「うまくいくかどうか、確信はなかったけどな」
対策を取られたらアウトだ。
でも、そうはならなかった。
たぶん……
ゼクスは戦闘経験が浅い。
だから、こちらの意図を読むことができず、悠々と余裕を見せ続けた。
そこに付け入ることができて、うまくいった……という感じだな。
「それで……アニキ、こいつはどうするっすか? 自分としては、捕縛なんてしないで、ぷちっとすることをオススメするっす」
擬音だけで表現するの、やめていくれないか……?
なんか怖いぞ。
「今までのことを考えると、わかりあえないかもしれないけど……」
でも。
「もうちょっとがんばりたいんだよな」
わかりあえないかもしれない。
とても難しいと思う。
ただ……
ゼクスはゼクスで、なにか問題を抱えているような気がした。
それは簡単に解決できるようなものではないし、なんとかしても手を取り合うことはできないかもしれない。
けれど、それは可能性の話。
もしかしたら、という希望はある。
その希望を最初から捨ててはいけないと思う。
「甘いけどさ。ちょっとは可能性があるんじゃないかな、って感じたんだ」
「いいんじゃないかな」
シフォンが微笑む。
「敵だから断罪する、っていうだけじゃなくて、ケンカの後は仲直り……その方が、私も好きだよ」
「自分はアニキについていくだけっす!」
「ありがとう」
ゼクスとどういう関係を築けるか、それはわからないけど……
みんなの期待に応えられるようにがんばろう。
「さてと……あとは、先行したコハネとエーデルワイスだけど……」
と、その時。
ゴガァッ!!!
「っ!?」
村の中心で、天を貫くほどに巨大な炎が立ち上がった。




