1129話 終わらせよう、ここで
「そろそろ僕からもいかせてもらおうか! さあ、耐えてみせてくれ!」
ゼクスは無数の炎を生み出すと、それを雨のように降り注がせてきた。
一発の炎が岩を貫いて……焼いた。
見た目は小さく、大したことのない炎に見えるけど……
侮ると、そのまま終わり、なんてことになりかねない。
しかも、炎は無数。
雨に等しく、避けることは難しい。
……でも、だからこそ都合がいい。
「みんなは私が守るぞ」
ショコラが前に出て、盾を地面につけて、しっかりと構えた。
盾が変形して、俺達を守る壁を構築する。
炎は防ぐことができるものの、衝撃を完全に殺すことはできない。
一歩、二歩とショコラが後退する。
「おいおいおい、そこで隠れているだけなのない? そんな興ざめな展開は求めていないんだけどなあ……もっと強くすれば、穴から出てきてくれるかな?」
ゼクスが巨大な炎を作り上げて……
「そこっす!」
「ギガボルト!」
ライハとシフォンの二人の雷撃が炎を直撃して、爆散させた。
「ちっ」
爆発の衝撃で、ゼクスは軽く吹き飛ばされた。
……やっぱりだ。
とある確信を抱きつつ、さらに行動を推し進めていく。
「こいつで……」
「どう!?」
俺とシフォンは再び前に出て、同時にゼクスを蹴り飛ばした。
ダメージはない。
ただ、俺達の蹴りに押される形で、ゼクスは大きく後退した。
後退したところにあるもの……大穴だ。
さきほど、コハネとエーデルワイスの極大攻撃によってできたもの。
隕石が落ちてきたかのようにクレーターができている。
その中にゼクスが落ちた。
「ちっ……なかなかやるじゃないか。でも、僕はこの通り無傷さ。まあ、服は多少汚れてしまったけどね」
「そうだな。どうやっても、お前にダメージを与えることはできなさそうだ。かといって、その無敵の仕組を解明して解除する、っていうことも難しそうだな」
「おや? やけに素直だね……まさか、諦めた、なんてことはないよね?」
「その逆だ」
みんなを見る。
準備よし! という感じで頷いた。
「悪いが……ここで終わりにさせてもらう」
まず最初に、ミルフィーユが動いた。
魔法を唱えて結界を展開する……ゼクスの方に。
クレーターの上。
蓋を被せるような形で、魔力で構成された結界が覆う。
ただ、その一部には穴が空いていた。
「ファイアーボール!」
その穴に魔法を叩き込む。
結界の穴を通り抜けた火球は、ゼクスのいるクレーターの中で爆発して、炎を撒き散らす。
「おいおい……いったい、なにをしているんだい? 僕に一切の攻撃は通じないし……そもそも、炎を司る僕に炎が通じるとでも?」
「ファイアーボール!」
構わず、俺はさらに火球を叩き込んだ。
「「「ファイアーボール!!!」」」
シフォン、ショコラ、ライハも同じ魔法を使う。
初級魔法なので、勇者パーティーや最強種である彼女達が使えないはずがない。
俺も繰り返し魔法を唱える。
初級の『ファイアーボール』……それだけだ。
バカの一つ覚えと言われてしまうような勢いで、それだけを繰り返し唱えた。
「くっ、なにを……?」
こちらの目的がわからない様子で、ゼクスは困惑気味だ。
同時に、単調な攻撃の繰り返しに苛立ちも見せていた。
なにか意図があるのか?
それとも、破れかぶれなのか?
「ええいっ、鬱陶しいね!」
ゼクスが反撃の炎を放つ。
しかし、俺達の攻撃を受けている中だ。
いくらダメージが届かないといっても、目の前で何度も爆炎が広がれば、普通ならまともに集中することはできない。
事実、ゼクスの操る炎は精度に欠けていた。
威力も弱い。
「ふふん、そんなもの効かないぞ」
ショコラがドヤ顔で受け止めた。
ドヤ顔をする必要はないのだけど……
あえて挑発して、自分に敵視を向けているのだろうか?
……いや。
たぶん、素だな。
なにはともあれ。
俺達が一方的に攻撃をして。
ゼクスがそれに耐える、という構図が完成した。
ゼクスの無敵の仕組みは解明していない。
すでに100を超える炎弾を叩き込んでいるものの、ゼクスはかすり傷一つ負っていない。
それが彼の自信に繋がるのか、ゼクスは余裕の表情を崩さない。
でも……




