1128話 聞くまでもないこと
仕組みはわからないものの、邪神の寵愛を受けているとかで、ゼクスに一切の攻撃は通じない。
それは本当のことなのだろう。
事実、コハネやエーデルワイスの攻撃を防いでいた。
いや。
防いでいたというよりは、まったく気にしていなかった?
そよ風を受けたという感じで、傷をつけることは敵わない。
たぶん……
このメンバーで、あの二人以上の火力を叩き出すことは無理だ。
徹底的に時間をかけて力を溜めて。
あるいは……
……そうでもないか。
どれだけ力を溜めたとしても、たぶん、通じない。
魔王の攻撃を受けて顔色一つ変えないヤツを、どうすればいいのか?
ただ……
最初は焦りを覚えたものの、今は攻略法を見つけた。
ヤツの言動が答えだ。
ペラペラと喋りすぎたことを後悔させてやる。
「みんな」
後退して、ゼクスには聞こえない声量で頭の中で組み立てた作戦を共有した。
作戦といっても大したことはない。
とあることをしてほしい、というだけ。
みんなは、最初、怪訝そうな顔をしたものの、すぐに頷いてくれた。
色々と疑問はある。
でも、俺の言うことなら……と。
ありがとう。
心の中で感謝をしつつ、改めてゼクスに向き直る。
「作戦会議は終わったかい?」
「律儀に待ってくれていたんだな」
「それはそうさ。僕は、単純にレインを叩き潰したいわけじゃない。キミの持つ可能性を……力と心を見せてほしいのさ! それなのに、力任せに暴れて可能性を見る機会を失うなんて、愚か者のすることだろう?」
「よくわからないが……」
たぶん……
ゼクスは色々なものを抱えて生きてきたのだろう。
単純な悪人というわけではなくて。
そうならざるを得なかった過去があるはず。
その全てを一概に悪と決めつけて断罪することはできない。
ただ。
たくさんの人を己の目的のために巻き込んで。
村人達を薬で操ることをまったく気にせず。
口封じのためと、信者を簡単に切り捨てる。
それについては許せることじゃない。
ゼクスの罪についてはともかく……
彼の行動については見過ごせない。
ここで……止める!
「いくぞ!」
「一緒するよ!」
俺が前に出て。
同時にシフォンも駆けた。
俺は千鳥を。
シフォンは彗星の剣を抜いて、それぞれゼクスに斬りかかる。
タイミングはバッチリ。
長年パーティーを組んでいたかのように動きやすく、呼吸を合わせやすい。
「私が守るから、存分にやっていいぞ」
「ではー……ホーリーアロー」
「これでも食らうっす!」
俺とシフォンが前に出て、ゼクスと近接戦を繰り広げて。
残りのライハ達が、後方から魔法で支援をしてくれる。
自分で言うのもなんだけど、いい連携だと思う。
互いの考えていること、次に動くことが簡単に予想できるというか……
みんなの心が一つになったかのよう。
こういう特殊な依頼だけじゃなくて。
採取とか討伐とか護衛とか。
なんてことのない依頼でも、一緒にがんばりたいな……なんてことを思う。
それくらいに心地良いと感じていた。
「よし」
それを実現させるためにも、こんなところで躓くわけにはいかないな。
悪いが……
ゼクス、お前を倒させてもらう。
「はははははっ! いい、いいねぇ! キミ達は、普段、パーティーを組んでいないはずなのに、素晴らしい連携だよ。なんだ、いるじゃないか。レインだけじゃない、光が! まだまだ探せばいるかもしれないな」
「なにを……!」
「さあ、見せてくれ! 僕に、この僕に全てを見せてくれ!!!」
そう語るゼクスは……
すでに壊れてしまっているように見えた。




