1127話 光を求めて
世界は汚い。
人間は汚い。
魔族とて汚い。
とある男は、そのように絶望していた。
家族は死んだ。
恋人は死んだ。
友達は死んだ。
全ていなくなってしまった。
彼の人生は、そんな絶望の繰り返しだ。
心は擦り切れて。
涙は枯れた。
正しさを求めて。
正しいことが正しく行われることを願い、そのために動いてきた。
それは決して簡単なことではない。
茨の道だ。
それでも。
男の心は絶望に染まっていない。
多少、壊れてしまったけれど……
ただ、よりよい世の中であってほしいと願う希望は残っていた。
絶望に浸り。
絶望に染められたからこそ、希望を信じたいと、そう思うようになっていたのだ。
故に、彼は探す。
……希望を。
この汚れた世界を浄化してくれる存在はいないだろうか?
醜い人間を導いてくれる存在はいないだろうか?
心に光を見せてくれる存在はいないだろうか?
それは、あまりに理想的な存在で。
聖人を超えたような存在で。
普通に考えて、そのような者はいない。
理想……というよりも、もはや妄想の類だ。
ただ、男は希望を捨てなかった。
こんな世界にも光は残っていると、そう信じていた。
いや。
信じるしかなかったのかもしれない。
なにもないと。
この世界は空っぽだと、そう認めてしまった時は、今度こそ、本当に心が壊れてしまうだろうから。
汚い世界の現実に押しつぶされてしまうだろうから。
故に、探した。
希望となる光を。
確かに輝いている存在を。
そして……
男は見つけた。
レイン・シュラウド。
数々の偉業を成し遂げて。
それだけではなくて、人間と魔族の和平を成立させて。
さらに世界の危機を救った。
勇者ではなくて、ただのビーストテイマー。
しかし、案外、そんな普通の人間が希望の光となるのかもしれない。
男は歓喜した。
レインなら光を見せてくれる。
希望になってくれる。
……絶望だらけの自分の心を明るく照らしてくれるかもしれない。
そう信じた男は。
ゼクスは、レインに接触することにした。
戦い、その力と心を確かめることにした。
さあ、見せてくれ。
その力を。
その心を。
その光を。
この世界は救う価値があるのだと。
人々は愚かな存在ではないと。
示してほしい。
でなければ……




