1125話 ひとまずの収束
「「コキュートス・ペイン!!」」
ソラとルナの魔法が発動した。
イクシオンブラストと同じく、異なる存在の力を借りて放つ魔法。
氷の嵐が吹き荒れた。
大地を。
空を。
全てを凍てつかせていく。
とはいえ、ソラとルナはそうそう無茶をしない。
範囲は限定的。
フィアを中心にした半径30メートルほどを凍りつかせていく。
本来なら見合わす限りの範囲を氷に閉ざす魔法ではあるが……
ソラとルナならば、影響力をごく一部に収束させることが可能だ。
その分、威力が増している。
凍結に10分かかるようなところを、ものの数十秒で凍結させていく。
そして……
「な、なにこれ!?」
それはフィアも例外ではない。
足が先から凍り、地面に縫いつけられてしまう。
ピシピシと音を立てつつ、凍結の範囲が広がる。
足から太ももへ。
太ももから腰へ。
フィアの下半身はあっという間に氷漬けになってしまった。
フィアの余裕の表情が崩れた。
初めて焦りを見せる。
「な、なんで!? 魔法だろうが物理だろうが、私に攻撃は通用しないはずなのに!!!」
「そうだな、お前に攻撃は通用しない」
「なので、攻撃魔法は使いませんでした」
「なにを……!? なら、これは……!」
「『コキュートス・ペイン』は、相手の動きを拘束する補助魔法なのだ。超級魔法に分類されるものの、一切の殺傷力はなし。単純に、相手の動きを止めることだけに特化しているのだ」
「ですが、超級魔法なので威力は抜群。どのようなものも、どのような存在も、その永久氷結で止めてしまいます」
「無敵というのなら、動けないようにしてしまえばいい。まあ、後々でさらなる対処方法は考えなくてはならぬが……この場を乗り切るだけなら、なんとでもなるのだ」
「迂闊でしたね。その能力に慢心した結果がこれです。もう少し考えて、しっかりと戦えば、ソラ達はもっと苦戦したと思いますよ?」
「こ、こんなこと……こんなことで私は!!!」
フィアは、なんとか自由に動かすことができる上半身を使い、氷の牢獄から逃れようとした。
しかし、逃げることはできない。
それどころか、さらに氷が這い上がってきた。
胸が。
腕が。
首が。
全てが凍結していく。
普通の氷ではない。
常温に晒されても溶けることはなく。
どれだけ力を込めても砕くことができない。
「私、はっ……今度こそ、好きに……生きてぇ……!!!?」
フィアの顔を氷が覆う。
さらに全身に氷の嵐が吹きつけて、ダメ押しといわんばかりに凍結させて……
氷の彫像ができあがるのだった。
ソラとルナはすぐに警戒を解かない。
身構えつつ、しばらく様子を見る。
ただ、フィアが氷の牢獄から抜け出す様子はない。
魔法が破られる感覚もしない。
「ふぅ……なんとかなりましたね」
勝利を確信したところで、ソラは肩の力を抜いた。
ルナも安堵の吐息をこぼす。
「ぶっちゃけ、ちょっとやばかったのだ」
余裕を見せていた。
しかし、それは挑発のようなもので、相手の冷静さを奪うためのもの。
内心では、うまくいくかどうかハラハラだった。
なにせ、敵は未知の力を使う。
おまけに無敵。
普通に考えて倒せるわけがないのだけど……
アルが『問題ない』と言った。
あの母親がそこまでの言うのなら……
と、信じて戦ってみたわけだ。
「よくやったのう」
離れたところで様子を見ていたアルがやってきた。
「うむ、さすが妾の娘達じゃ。見事であったぞ」
「ありがとうございます、母さん」
「ふふん、我にかかればこんなものなのだ!」
途端に笑顔になる二人。
なんだかんだ、まだまだ母親に甘えたい年頃ではあるし……
褒められれば素直に嬉しい。
娘を褒めた後、アルは氷漬けになったフィアを見た。
無敵と言っていたが、こうして封印することはできる。
その辺りの対策ができていないところ、無敵と言い切ることはできないかもしれないが。
「……つまらぬことをする」
言動を見て考えると、彼女も彼女なりの理由を抱えていたのだろう。
心が歪んでしまう経験をしてきたのだろう。
それでも、道を踏み外していい理由にはならない。
他人を虐げていい理由にはならない。
もしも……
もしも心を救ってくれるような存在に出会っていたら?
大神官などにならず、普通の女性としての幸せな日々を過ごしていたかもしれない。
人間のことは、わりとどうでもいいと考えているアルではあったが……
ただ。
泣き顔で氷漬けになっているフィアを見ると、さすがに、色々と思うところがあった。




