1123話 真に不可変のものは存在しない
「えっと……結局、二人が私の相手ってことでいいの? 今なら、あの精霊族を連れ戻すまでは待っててあげてもいいけど?」
呑気に、フィアはそんなことを言う。
彼女の目的は二つ。
ホライズンの破壊。
それと、レインに会うこと。
それが達成されれば、後はどうでもいい。
過程なんて気にしない。
多少、敵に塩を送ろうが、そんなものはどうでもいい。
故に、本気の言葉だった。
「ふんっ、そのようなものはいらないのだ! 我らがお前をぷちゃんこにするのだ!」
「ぷちゃんこって、なんですか? 噛んだんですか?」
「ええいっ、うるさいのだ!」
ルナは、顔を赤くしつつ声を荒くした。
噛んだらしい。
「はー……つまらないなあ。さっきの精霊族なら、ちょっとは楽しめそうだったのに。こっちは……はぁ、期待できなさそう」
「「むかっ」」
あからさまに下に見られて、ソラとルナはこめかみの辺りをひきつらせた。
は? なんだお前?
やるのか、あぁん?
心はそんな感じだ。
「ふんっ、そのような口、いつまで叩けるか見ものなのだ」
「ですが、ルナ。どうやって彼女を倒すつもりですか? 母さんが無敵と言ったからには、一切の攻撃が通らないと思うのですが……」
「ふふーん♪ それについては……」
ルナは、ニヤリといたずらっ子のような笑みを浮かべて、ソラにこしょこしょと内緒話をした。
それを耳にしたソラは、ふんふんと頷いて……
「……ふふ、なるほど」
ニヤリと、不敵に笑う。
その笑顔がルナそっくりなのは、双子といったところだろうか。
「確かにその通りですね。試してみる価値は十分にあると思います」
「うむ! 我らの力、見せてやるのだ!」
「あ、結局やるんだ。んー……ノリ気じゃないけど、仕方ないか。さっさとプチっと潰して、切り裂いて、キミ達の悲鳴でさっきの精霊族を呼び戻そうかな♪」
フィアは笑顔で恐ろしいことを言いつつ、空気をかくようにして、両手を前に突き出した。
その動きに合わせて風が生まれる。
一瞬で業風に成長すると、その小さな体を切り裂くべくソラとルナに襲いかかる。
風の刃。
触れるだけで体がズタズタに切り裂かれてしまうだろう。
とはいえ、ソラとルナは、まったく脅威を感じていない。
恐怖もない。
あるのは失笑だ。
「ふんっ。そのようなつまらない手品で我を害そうとは笑止! 今こそ、我が精霊族の力を見せてやろう! さあ、刮目せよ。これが我の力、我の魂! そう、これこそが……」
「……」
「なんで割り込んで魔法とか唱えないのだ!? 延々と喋り続けている我がバカみたいではないか!?」
「理不尽な逆ギレをしないでください。たまには、最後まで聞いてみようと思ったのですが」
「それはそれで恥ずかしいのだ」
この妹めんどくさい、という感じでソラが半目になった。
とはいえ、遊んでいる場合ではなくて……
「アース・ガーディアン」
ソラが魔法を唱えると、大地が隆起した。
それは盾となり、荒れ狂う風から身を守る。
「ドラグーン・ハウリング!」
一方で、ルナが攻撃魔法を唱えた。
ソラが防御を担当して、ルナが攻撃を担当する。
双子ならではの役割分担だ。
とはいえ……
「あのさー……そういうのは通じないって言ったよね? え、人の話聞いていない?」
避けるのでもなく、防ぐのでもなく。
フィアは、なにもせずに魔法を受け止めた。
無傷。
衣服は揺れたものの、本人にはかすり傷一つない。
無敵という話は本当なのだろう。
とはいえ、ルナも無策で魔法を放ったわけではない。
本当に魔法が通用しないのか?
それを一度、実際に自分で試して確認しておきたかった。
そうして得られた経験は戦いの大きな役に立つ。
「ふむ。仕組みはわからぬが、確かに無敵のようだな」
「母さんの魔法をあれだけ受けておいて、なにもありませんからね。わざわざ試さなくてもわかったと思いますが」
「試さずにはいられないのだ」
「人を的みたいに言わないでくれるかな?」
「お、それはいいのだ。人間相手に魔法を連打できる機会なんてないからな。我専用の木人にならないか?」
「うーん……めっちゃ生意気。ぶち殺す♪」
フィアはとてもいい笑顔で言い、片手を振り下ろした。
烈風が地面を削りつつ走る。
目標はルナ。
石でできた路面を削るほどの威力がルナに……
「ですから、させませんよ」
ソラが魔法で防いだ。
ルナが魔法で攻撃をして。
しかし、それはフィアに届かない。
フィアが反撃をして。
しかし、ルナに防がれてしまう。
戦闘がパターン化してしまい、膠着状態に陥る。
フィアはつまらなそうに。
それと、多少、苛立たしそうにするものの……
ソラとルナは違う。
軽口を叩きつつも、冷静に状況を見極めて。
そして、フィアの分析を進めていた。
「「……なるほど」」
ややあって、ソラとルナはほぼ同時に、なにかを理解した様子で頷いた。




