1122話 万能なんてものはない
「私を害することはできない、それが大神官の力だよ」
アル。
それと、ソラとルナと対峙したフィアは、不敵な笑顔で言う。
超級魔法が直撃したはずなのに、フィアは無傷だった。
かすり傷一つ、ついていない。
「むっ……なんなのだ、あいつは」
「結界でしょうか……?」
ソラとルナは困惑した。
自分達の魔法が通用しないのなら、まだ理解できる。
精霊族なので、魔法を誰よりも扱うことができるという自信があるものの……
まだまだ未熟だ。
上には上がいると、世界は広いと、そのことを知っている。
その上の存在の筆頭格が、母親のアルだ。
超級魔法を息を吸うように連打して。
ソラとルナが覚醒して全力を出して二人で協力しなければ放つことができない絶級魔法を、一人で……しかもわりと気軽に発動させることができる。
そんな存在がいるから、決して自身が誰よりも優れている、なんて考えない。
そう思うアルの攻撃がまったく通用しないとは、どういうことだろう?
さすがに、そこには疑問を持たざるをえない。
「しかし、母上はさっき……」
「一切の攻撃を通さない、と……?」
ソラとルナは、再び困惑した。
そのようなでたらめな能力、聞いたことがない。
ただ、アルは確信を持っているらしく、表情は揺らがない。
「妾の攻撃を防ぐとは、小癪なことをしてくれると腹立たしく思ったが……お主のものではなくて、他者の力か」
「……」
「さすがに仕組みまではわからぬが、一切の攻撃を無条件で防ぐ……簡単に言うと、そのようなところか?」
「へぇ」
フィアは笑みを浮かべたまま。
しかし、警戒した様子で、必要以上の接近を止めた。
「母さん、それは……」
「いわゆる無敵というヤツなのか!?」
「うむ。それ以外に説明がつかぬ。ヤツに普通の攻撃は通じない……その他の力は、おまけのようなものなのじゃろう」
「んー……すごいね。まったくのノーヒントからそこまでたどり着くなんて。そんな人、今まで見たことないよ」
「色々とヒントはあったじゃろう? 汚れていないとかかすり傷すらないとか」
「それをヒントって思えるところがすごいんだってば」
大きな秘密が暴かれたというのに、フィアは焦ることはない。
いつもと変わらない様子で、ニヤニヤと笑っていた。
「ずいぶん余裕じゃな?」
「そりゃそうでしょ。寵愛を見抜いたことは驚いたけど、でも、それだけ。あなた達の攻撃が私に届くことはない。まあ、ちょっと規格外なのがいるから困ったけど……それでも、負けることはない。余裕なのは当然でしょ?」
「はっ」
得意そうに語るフィア。
そんなフィアを、アルは鼻で笑った。
「そんなつまらぬ能力で余裕を見せるとは、笑えるな。賢いフリをしておるが、わりと脳筋のようじゃな」
「……なに、それ?」
「つまらぬ能力と言ったのじゃよ。攻撃が通らない? そんなことで妾に勝つつもりじゃったとは……はぁ、やれやれ。呆れてものが言えぬ」
「……」
フィアの顔色が変わる。
あからさまに不機嫌そうに。
怒りすら見せて、アルを睨みつけた。
「つまらないかどうか、その体で試してあげよっか? おとなしく逃げる、っていうなら見逃してあげなくもないけど? 私の目的は、この街を叩き潰すことだから。レインくんにも会いたいけどね♪」
「そのようなことはさせません!」
「お前の方をぺちゃんこにしてやるのだ!」
「うむ。さすが我が娘達じゃ。このような話を聞いても怯むことはない。すでに攻略方法を見つけているようじゃな」
「え?」
「いえ、それは……」
「そういうことならば、妾がでしゃばるのはやめておこう。任せたぞ」
「「えぇ!?」」
冗談?
ソラとルナは、そう考えて……
しかし、アルが本気で後退してしまい、悲鳴に近い声をあげてしまう。
「あれ? ほんとに逃げた?」
さすがに、フィアも驚いていた。
ぽかーんとした様子で、攻撃に移らないでいる。
「ど、どうするのだ、姉よ……? 我らだけで、あいつを倒せると思うか……?」
「……」
「どうしたのだ、姉よ?」
「いえ……少し考えていました」
少し離れたところからアルの気配を感じる。
本気で撤退したわけではなくて、離れたところから様子を見ているのだろう。
その意図は?
ソラとルナなら、問題なくフィアを倒せると判断したからだろう。
わざわざ自分が出るまでもない……と。
アルは、やや適当なところがあり、わりと大雑把なところもあるのだけど……
とはいえ、愛しい娘をわざわざ危険にさらすようなことはしない。
かといって、不必要に過保護にすることもしない。
「つまり……我らなら、あのストーカー女を倒せると、ほぼほぼ確信していると?」
「そういうことだと思います」
「むむむ……し、しかし、無敵能力なんてどう攻略すれば……お?」
ふと、ルナの動きが止まる。
ややあって、ぴこーんという感じで閃いた表情をした。
「ふ、ふふふ……やはり、我は天才なのだ!」
突破口を思いついたらしく、ルナは得意そうな顔に。
それを見て、ソラは思う。
『天才』ではなくて『天災』でないといいのだけど……と。




