1121話 邪神の寵愛
「無敵っていうのが、お前の余裕の正体だ」
「……へぇ」
ゼクスが笑う。
楽しそうに。
嬉しそうに。
「はっ……あは、ははははは!!!」
「な、なんすか、こいつ……?」
「なんか……素直に怖いかも……」
笑うゼクスに、ライハとシフォン達がわずかに怯む。
それも仕方ないと思う。
戦いの最中、いきなり笑いだして……
しかも、本気で嬉しそうであり楽しそう。
そんなことをする相手に、心が付き合えるわけがない。
「いやいやいや……僕は、なんていうのかな? 子供がお気に入りのおもちゃを自慢するように、僕の力についても、後々で明かそうと思っていたんだ。その時、レインはどんな反応をするのか? 絶望するのか? それとも、諦めないのか? すごく気になって、その時を楽しみにしていたんだけど……まさか、先に解き明かされてしまうなんて」
「ということは……」
「ああ、正解だよ。俗っぽく言うと、僕は無敵なのさ」
そんな予想はしていたものの……
本当、最悪だ。
外れていてほしかった。
「僕は、ありとあらゆる攻撃を防ぐことができる。悪意、敵意、害意……それら、全てを遮断することができるのさ。土で汚れたくない、っていう気持ちもあるから、今みたいに、石についた土で汚されることもない」
「な、なにそれ……? そんな都合のいい能力、あるわけが……」
「あるのさ」
動揺するシフォンに、ゼクスは楽しそうに言う。
「この力を得ていることこそが、大神官の証。邪神の寵愛を得ている証拠なのさ」
……待て。
その言い方だと、まるで……
「レインは気付いたみたいだね。そう……」
ゼクスは、パチンと指を鳴らした。
それに合わせて炎が生まれる。
「僕はこうして炎を操ることができるけど、それは、あくまでも副産物。本来の能力は、ありとあらゆる悪意、敵意、害意を遮断するという、無敵になれる能力なのさ」
「そんなの、反則じゃないっすか……イカサマっす!」
「イカサマ? 上等さ。僕は、楽をして勝ちたいタイプだからね。騎士同士の真剣で神聖な試合なんて興味ない。そんなもの、どうでもいい。子供がするように、楽しく虫をぷちぷちと踏み潰したいのさ」
「最悪っす……」
「で、もう一つ付け足すのなら」
「……大神官、全てが同じく無敵、というわけか?」
「もう、その発想に至るのか……はははっ、やっぱりレインは最高だね! 楽しいよ」
否定はしない。
つまり、正解ということなのだろう。
大神官は、最強種のように、それぞれ異なる力を持つ。
でも、それはあくまでもおまけ。
本当の能力は、一切の攻撃を無効化する、ライハが言う通りのイカサマみたいな能力だ。
「どうだい、素敵な力だと思わないかい?」
「すごい、とは素直に思うよ」
「そこで、相手を認めることができるのは、レインならではなんだろうね。うん、いいね。ますますキミに興味が湧いてきた。素晴らしい」
ゼクスは、最高の笑顔でこちらに手を差し出してきた。
「意味のない問いかけというのは理解しているのだけど……どうだい? 僕達の仲間にならないかい?」
「断る」
「あっはっはっは! わかってはいたけど、即答か。いやはいや、こうなることはわかっていたんだけどね」
なにが楽しいのか、笑い声を響かせている。
シフォン達は警戒の表情を強くして。
ライハは、けっこう引いていた。
無敵の能力よりも。
この性格の方が恐ろしいかもしれないな。
「確実に断られるだろうな、とは予想していたよ。キミは、そういう人だからね」
「なら、どうして?」
「それでも、問いかけずにはいられないほどキミが魅力的だった……そういうことだ」
評価されていることを喜ぶべきか。
それとも、粘着されていることを恐ろしく思うべきか。
「……俺は、邪神については詳しくない」
コハネなら、たぶん、かなりの情報を持っているだろうけど……
普段、冷静なコハネだけど、邪神の話になるとかなり過激になってしまう。
それだけ嫌な思い出が詰まっているのだろう。
無理をして話を聞き出そうとは思わない。
「邪神の力を利用して世界を救う……お前の言うことは、もしかしたらアリなのかもしれない」
「ふむ?」
「ただ……」
改めて千鳥を構えた。
「そのために、あちらこちらに悲しみをばら撒くのは認めたくない。そんな方法で、本当に救うことなんてできるものか」
「百を救うために十を犠牲にする、という行為だとしても?」
「十も救ってみせろ」
最初から切り捨てる前提で行動するなんて、俺は理解したくない。
認めたくない。
最後まであがいてあがいて……
どこまであがき続けてやるさ。
「なるほど、なるほど……ははは!」
再びの笑い声。
本当に……こいつは、いったいなにを考えているんだ?
「いいね、実にいいね! キミは、僕の理想通りの英雄だ! 素晴らしい!」
「……褒めているのか?」
皮肉にしか聞こえないのだけど。
「褒めているさ。本気で。大抵のヤツは口だけというか、適当だからね。ただ、レインからは本気と覚悟を感じられる。僕が、長年、追い求めていた人だ。素晴らしい!」
「ぜんぜん嬉しくないな」
「つれないね。まあ、そういう相手を振り向かせるのも楽しいものさ」
ゼクスは手の平に炎を宿す。
「それじゃあ、続きをしようか。さあ、思う存分に楽しむとしよう!」




