1120話 イカサマ
「もう一回……ギガボルト!」
「合わせますよー、ショコラ!」
「おー!」
まず最初に、シフォン達が動いた。
特に打ち合わせはしていないのだけど……
『なんとなく』で、こちらが望んでいることを理解したのだろう。
状況、場の流れを読む能力がとても高い。
さすがというか……
彼女達は、俺達以上に修羅場を潜り抜けているのかもしれない。
だからこその察知能力。
「そよ風みたいなものだね」
ゼクスは炎を生み出して、シフォン達の攻撃を迎撃した。
灼炎を壁のように展開して、前に押し出す……という器用な使い方だ。
自身の一部のように自由自在。
それでいて高い攻撃力を誇る……厄介だな。
「あんたらのせいで、自分はいい迷惑っすよ!」
ライハは、いつか操られた時のことを思い返したらしく、わりと本気で怒っている様子で雷を乱打した。
「光よ吹き荒れろ、サンダーストーム!!!」
無数の雷の柱が降り立つ。
それはゼクスを包囲するようにしつつ、四方八方から押し込んでいく。
常人なら、なにもできず雷撃に焼かれているだろう。
ただ……
「児戯だね」
再び、ゼクスは炎の壁を作り出した。
自身の周囲を囲うように、円状に炎を吹き上げさせる。
それに阻まれて、雷撃はゼクスに届かない。
でも、十分。
「これなら……」
みんなの攻撃が。
それと、ゼクスが行う防御によって、ヤツの視界が一時的にでも塞がれる。
それを待っていた。
俺は前に出た。
千鳥を構えて、突撃。
ゼクスの炎が消えたところで、刃を突き立てる。
「おっと、危ない」
「くっ……!」
ゼクスは、右手に魔力を集中。
密とした魔力で盾を作り、千鳥の刃を防いでみせた。
なかなか器用な真似をする。
「いい連携だね。急造とは思えないほどだ。でも、それじゃあ僕には届かない」
「……」
「絆の英雄の力は、こんなものなのかな? だとしたら、がっかりだよ」
「安心しろ」
「うん?」
「もう一手……ある!」
ガンツ特製の小手……雷虎をゼクスに向けて、中に仕込まれたワイヤーを放つ。
至近距離で放たられたワイヤーは、一瞬でゼクスに絡みついて、その体を拘束する。
細いワイヤーではあるものの、耐久力は抜群で、柔軟性にも富んでいるため、巨獣を完全に制圧できる。
ただ……
「これが奥の手なのかい? だとしたら、本気で残念だ」
ゼクスは、両手を左右に開いて、強引にワイヤーをちぎり、ほどいてみせた。
「やれやれ……まさか、こんなおもちゃが通用すると思われていたのかな? だとしたら、さすがに不快だよ。もっと僕の力を見せておくべきだっただろうか? それなら、レインも、魔王を相手にした時のように本気に……ぐっ!?」
と、その時。
空から落ちてきた拳サイズの石がゼクスの頭部を直撃した。
「奥の手は、そいつだ」
「……まさか、今までの攻撃、全部ダミーで、どこかのタイミングで石を宙に放り投げていた? 最後にワイヤーを使ったのも、僕を移動させないために……?」
「正解だ」
「……いいね。悪くない。いい作戦だ。ただ、こんな石を頭にぶつけられたくらいで、どうにかなるとでも? そこらの冒険者や魔物ならともかく、僕は、多くの信者を束ねる大神官だ」
「倒せるなんて思っていないさ。ただ、当初の目的は達成できた」
「なに?」
できれば外れていてほしかった。
こちらの作戦が成功して。
思惑通りに進んだとしても。
俺の予想が正しかったとしたら、さらに酷い事態に発展することになる。
だから、外れていてほしかったのだけど……
そういうわけにはいかないようだ。
こういう時、運命の神さまがいて意地悪をされているのでは? なんてことを、ついつい考えてしまう。
まあ、ゼロはそんなことをする人ではないけど。
「その石」
ゼクスの頭に当たった石を指差す。
「ただぶつけるだけじゃなくて、俺が使える能力で……ちょっと重力をいじって、加速させてぶつけたんだよ」
「……」
「それなのに、お前はまったくの無傷だ。まったくの予想外の攻撃で、直撃した。威力も十分。倒せるとは思っていなかったけど、最低、かすり傷くらいはある……というか。その石、投げる前に土でわざと汚していたんだよ。それなのに……」
ゼクスの顔はなにも変わらない。
傷ができることはなくて、土で汚れることもない。
「傷はともかく、汚れもつかないなんて、あまりにも不自然だ。ありえない」
「……」
「結界を展開しているのか。それとも、別の仕組みがあるのか。それはわからないけど……ただ、俺達の攻撃はお前には通じない。通ることがない。俗っぽく言うと……無敵だな。それが、お前の余裕の正体だ」
「……へぇ」




