1117話 危険、あまり使わないでください
「コハネ! エーデルワイス!」
「準備、整いました」
「主よ、どうする?」
さきほどから、ずっと様子を見守っていたコハネとエーデルワイス。
ただ、それには理由があって……
「やってくれ」
俺の合図に、コハネとエーデルワイスが不敵に笑う。
「エネルギー充填完了。目標位置、修正完了。誤差……ゼロ。衛星レーザー砲、発射いたします」
「滅せよ……ダークウロボロス!」
……ゼクスと話をしつつ、ハンドサインを送り、コハネとエーデルワイスに攻撃の準備をしてもらっていた。
ただの攻撃ではなくて、準備を必要とするような、圧倒的な一撃を叩き出すもの。
交渉が決裂した時、先制攻撃をするためのものであり……
一気に戦いを終わらせるためのものだ。
コハネとエーデルワイスなら、それが可能だろう。
そして……
二人の必殺技が炸裂する。
「なっ……!?」
雲がぶわっと円形に広がり、青い空が見えた。
そこから降りてくるのは……極光。
超々高熱の光が降り注ぎ、ピンポイントでゼクスを狙撃する。
光の柱が降り立つ。
それは神の裁きのよう。
「はははっ、滅びるがいい!」
エーデルワイスも、とても楽しそうに魔法を解き放つ。
『魔王』であるエーデルワイスが、力を溜めて放つ魔法だ。
今度は闇があふれた。
手の平サイズの、黒で塗りつぶされた、なにもない虚無。
それは少しずつ膨らんでいき……
やがて、細長く、蛇のように変化する。
宙を疾走。
未だ光が降り注ぐ中に飛び込んで……
空の果てから降り注ぐ光を。
色や音を。
なにもかもを黒に染めて、飲み込んでいく。
『黒』が世界を塗りつぶした。
「……」
空から降り注ぐ光が収まり。
『黒』も暴れるのを止めて。
後に残るものはなにもない。
コハネとエーデルワイスの渾身の一撃。
それに耐えられる者なんて、世界中で数えてもいないのでは?
俺だって、まともに直撃したら骨も残らないと思う。
……そのはずなのに。
「やれやれ……僕のおしゃべりに応じてくれたのは、時間稼ぎだったのか。残念だ。でも……うん。悪くない戦術だね。そこは感心したよ」
「なっ……」
ゼクスは、なんてことないような顔をしていた。
ダメージを受けている様子はない。
というか、服も傷ついていない。
避けた?
いや。
あのタイミングで避けられるとは思えない。
コハネとエーデルワイスも、そんな甘い攻撃をするとは思えない。
なら、なにかしらの方法で防いだ?
いったい、どうやって……
「……」
「どうしたんだい? おしゃべりはもう終わりかな? 僕としては、わかり合うことはできなくても、レインとは、もう少し色々な話をしたいんだよね。さっきも言ったけど、得られるものが多そうだ」
「……ずいぶんと評価してくれるんだな」
「それだけの価値があると思うからね」
不意打ちを気にした様子はない。
先とまったく変わらず……
余裕の笑みを浮かべていた。
邪教徒の幹部。
話を聞く限り、その中心に位置するメンバーの一人。
ゼクスを叩けば、邪教徒は大きく力を失うことになるだろうけど……
さすがに、そう簡単にはいかないか。
「……」
ゼクスと対峙しつつ、思考を駆けさせて。
現状、最適と思われる答えを導き出す。
「……コハネ、エーデルワイス」
「はい」
「なんだ?」
「ここは俺達に任せて、先に行ってくれないか?」




