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1116話 交わらない心

「無理だね」


 ゼクスは明確な拒絶の意思を示してきた。


 こうなることは予想していたが……

 少し落胆してしまう。


 相手が邪教徒だとしても、人によって、わかりあえるのではないか?


 ……さすがに、ちょっと甘すぎたか。


「僕は……というか、僕達は、邪神を使い世界を救う。そしてキミ達は、それをよしとしない。そこの理由が変わらない限り。あるいは妥協できない限り、僕達が手を取り合うことはないかな。だろう?」

「たとえば、妥協するとしたら?」

「んー……僕らは、このまま活動を続ける。キミ達は、僕達の存在を容認する。邪神は使わない。こんなところかな?」

「ふざけないで!」


 我慢の限界といった様子でシフォンが叫んだ。


「人をおもちゃのように扱う邪教徒の存在を認められるわけないでしょう!」

「とまあ、これが答えだよ」


 やれやれ、とゼクスは肩をすくめてみせた。


 ただ、俺もシフォンと同じ気持ちだ。


 人を薬で操り。

 ライハにも手を出して。

 そんな邪教徒の存在を許すわけにはいかない。


「絶対にわかりあうことができない相手って、いるだろう? それが僕であり、キミ達なのさ」

「なら、俺と話をしたいっていうのは?」

「僕の単なる好奇心さ。最初は、どうせ……なんて思っていたけど、今は、本当にキミのことを素晴らしいと思っているんだよ? 本気さ。だから、色々と話をしてみたい。そうすることでわかりあうことはできなくても、少しでも相手を知ることはできる。最初から殴り合うなんて、獣のすることさ。まずは、話をしないとね」

「わかりあうことができない、とわかっていても?」

「それでも、得られるものは、なにかしらあるだろう?」


 ゼクスの言うことはわかる。

 それなりに理解もできた。


「どうする?」

「……」

「僕としては、できれば話をしたい。ただ、まあ、互いに譲れないものはあるからね。最終的には戦いになるだろう。早く決着をつけたいのなら、僕は、それはそれで構わないよ」


 話をするだけならば、と思わないでもない。

 ただ、その前に気になることが二つあった。


「……村人を解放することは?」

「さっきも言ったけど、僕は薬の専門家じゃないからね。ジーベンじゃないと無理さ。そのジーベンも、今は奥で……まあ、色々としている。表に出てくるのは難しいかな?」

「他の大神官……フィアはどこに?」

「さあ? 僕達は、それぞれわりと自由に動いているからね。連携する時もあれば、しない時もある。彼女の行動、全てを把握しているわけじゃないのさ。あと、大神官の位に位置するのは、僕ら三人だけ。僕達も、色々と人手不足でね」


 嘘は言っていないように見えた。

 ただ、全てを語っていない。

 意図的に伏せている情報があるな。


「悪いが、お茶会はまた今度だな」

「おや、断るのかい? やっぱり、僕のような邪教徒とは話もしたくないのかな」

「別に、邪教徒だからっていうわけじゃないさ。わかりあえなくても、少しは知るべきだ……そこは同意だよ。ただ……」


 ため息をこぼす。

 それから、鋭い目を向けた。


「裏であれこれと隠し事をしている相手を、全て信用することはできない」

「……なんだ。やっぱり、バレていたのか」


 ゼクスの雰囲気が変わる。


 今までは、普通の人と変わらない雰囲気を、表情を見せていたのだけど……

 それが悪意に満ちたものになる。


 己の欲望のままに暴走する悪人とは違う。


 自分の言葉が絶対的に正しいと信じて、欠片も疑うことはなくて。

 自分の行いは間違っていないと断言して。

 自分の考えこそが唯一の正解であると言い切る。


 ……そんな、独善的な匂いが。

 そして、歪んだ悪意と妄執が見えるようになった。


 俺も似たようなものだ。

 ゼクスの全てを否定することなんてできない。


 ただ……


「誰かを泣かせるような真似をするヤツは信用できないな」


 ゼクスは常識人のように見えて。

 しかし、社会で生きる、というところから外れているせいか、その常識がない。


 平気で他者を踏みつける。

 それに気づくことはなくて。

 気づいたとしても、ごめんと謝罪することもなくて。

 逆に、仕方ないよね、と開き直る。


「悪いけど……俺は、お前が嫌いだ」

「つれないね」

「それに、こうして話をすることも時間稼ぎなんだろう?」

「……」

「ジーベンっていうヤツがいないのは、裏でなにか企んでいるから。お前が、わざわざ表に出てきたのは、その時間稼ぎのため。違うか?」

「驚いたね……今の会話で、僕らの狙い、全てを察するか。さすがだ。素晴らしいよ」


 本心で褒めているようだ。


 それは余裕なのか。

 今更、なにをしても止められないと思っているのか。


「ただ……」


 ゼクスは嘲笑う。


「レインは、僕から情報を引き出すために話に付き合ったみたいだけど、時間稼ぎということに気づくのは遅かったみたいだね? ここまで話に乗ってくれて、たくさん時間を稼げるとは思っていなかったよ」

「気にしなくていいさ……こちらも時間稼ぎが目的だったからな」

「なに?」

「コハネ! エーデルワイス!」

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― 新着の感想 ―
1.更新ありがとうございます。 ゼクスの理知的かつ復讐に一から十を捧げた生き様を見て、モニカを思い出しました。 知性があるのは確かだけど、村人をヤクで廃人にして捨て駒にするなど他人の尊厳に対する敬意が…
もしや”ジャミング”を使ったのでは? 先生へ   本日発売のラノベ版 ビステマ11巻(電子書籍)を予約購入しました(*^▽^*)
何か仕込んだのか❓️
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