1114話 悪人に人権はない
村の中央は、人の手で整地されているらしく、他と比べて不自然なほどに広く平で、綺麗にされていた。
あまり見たことのない建築様式を使われた屋敷。
三階建てで、広大な敷地、広い庭を持つ。
ただ、せっかくの庭もよくわからない植物で満たされていた。
黒い花。
真紅の実をつける木々。
棘のついた、バラのような……しかし、華やかさは欠片もない草木。
なによりも、空気が汚れていた。
比喩ではなくて、そのままの意味だ。
鼻を刺すような臭い。
まとわりついてくるような感覚。
そして……
なによりも、魔力が漂っている。
それは暗く。
それは悪意に満たされていて。
触れているだけで頭がおかしくなってしまいそう。
屋敷の周辺は、そんな魔力が流れて、大気を……
世界を汚染していた。
「なに、これ……?」
「すごい嫌な感じだぞ」
「ちょっと、簡単な結界を張りますね。さすがに、この魔力はちょっとー」
シフォン達も異様な魔力を感じ取っているらしく、それぞれ顔をしかめていた。
一方、ライハ達は……
「んー……こころなしか、元気になったような気がするっす」
「それは正しい認識かと。わたくしの自己メンテナンスを行ったところ、各部の性能が十パーセントほど上昇しているのが確認されました」
「ふむ? 人間共には悪く、私達には心地よい……不思議な魔力だな。私も、このようなものは知らないが、しかし、どこか懐かしくも感じる」
元気だった。
むしろ、調子がいいらしい。
どういうことだろう?
「我が主よ、調子はどうだ?」
「そうだな……ちょっと体が重いというか、嫌な感じはするな」
「ふむ」
考えるエーデルワイス。
しかし、答えは出なかったらしく、軽く頭を振る。
「まあ、主が不快に思っているのなら、やることは一つだな」
エーデルワイスは、なにげない仕草で片手をあげた。
ピンと人差し指を立てる。
可視化できるのでは? と思うほどの濃密が魔力が集まる。
それに反応するかのように、黒い炎が生まれて……
それは一気に膨れ上がり、太陽のごとく凶暴さを見せた。
「って、待て!? なにをするつもりだ!?」
「うん? もちろん、あの屋敷を消し飛ばすつもりだが?」
「これからお茶をしよう、みたいな気軽なノリで言わないでくれ!」
たぶん、彼女は本気だ。
いや。
たぶん、ではなくて、確実に。
一切の迷いがない。
ためらいもない。
ヤルゾ!
というガチしか感じられない。
……タニアに影響されたか?
「吹き飛ばした方が手っ取り早いぞ」
「ダメ!」
「ダメなのか? なぜだ? 悪人に人権はないだろう?」
「だから、村人は操られているだけかもしれないだろ!?」
「邪教に入信しておいて、操られたとしても自業自得ではあると思うが……まあ、仕方ない。主がそこまで言うのなら、やめておくか」
どうやったのか知らないが、エーデルワイスは黒い炎は消してみせた。
心臓に悪い……
少し離れたところで、シフォン達が顔をひきつらせているのが見えた。
だよな。
そういう反応が普通だよな。
それなのに、ライハとコハネは……
「ってことは、突入っすかね? 面倒っす」
「いざとなれば、わたくしの衛星レーザー砲で滅却いたしましょう」
物騒なことを口にしている。
出会った当時は、そんな感じじゃなかったはずなんだけど……
本当、誰の影響を受けたんだ?
……俺じゃないよな?
「そうしてくれると、助かるかな? いきなり派手な攻撃をされたら、さすがに僕も大変だ」
……姿を見せたのは、ゼクスだった。




