1113話 時計の針は進んでいく
エーデルワイスのおかげで、村人達を相手にすることなく、先へ進むことができた。
とはいえ、隠密行動というわけにはいかない。
その逆の派手な進撃だ。
当然、敵は俺達に気づいているだろうし……
行動も予測しやすい。
進路上に罠が仕掛けられることもあるだろう。
ただ……
「アニキー! ちょっと、そこらに隠れていた村人をのして……」
どがん!
爆発。
炎がライハを飲み込むのだけど……
「けほっ、けほっ。なんなんすか、いきなり。うー……さっきから、うっとうしいっすね」
煙が晴れて、無傷のライハが現れた。
咄嗟に翼でガードしたらしい。
顔はちょっと煤けていたが、それだけ。
「……なあ、我が主よ」
「なんだ?」
「ライハは、ちと頑丈すぎやしないか?」
「魔族だからな」
「おかしいな。私の知る魔族は、ここまででたらめな防御力は持っていなかったと思うのだが……」
「ライハだからな」
だいたい、その一言で片付いてしまう。
まあ、さすがにそれは冗談だけど……
仕掛けられているトラップは、人間に対しては有効なのだろう。
ただ、最強種が相手とは想定していないらしく、威力が足りていない。
故に、ライハも大してダメージを受けていない、ということになる。
「騎士団による攻撃は想定していた? でも、俺達のような存在が来ることは想定していない? ただ、以前に顔を合わせたはずだし、俺のことも、それなりに知っているようだったから……」
敵は、バストールを守るつもりがあるのか。
それとも、守るつもりはないのか。
ちぐはぐな対応に、どうにも判断が難しい。
「レインくん」
ふと、シフォンが難しい表情で声をかけてきた。
「ふと、思ったことがあるんだけど……」
「どうしたんだ?」
「ちょっと話が逸れるけど、私達、昔、サクリファイススライムっていう魔物と戦ったことがあるの。Aランククラスの、すごく厄介な魔物」
「物騒な名前だな……」
「そのスライムは分裂するんだけど、でも、大した強さはないの。分裂した個体は簡単に倒すことができたんだ。ただ……それこそが、スライムの狙いだった」
「どういうことだ?」
「サクリファイススライムは、その名前の通り、分裂した個体を生贄にするの。分裂して、それを生贄として、特大の魔法を放つ……で、本体はスライムだから勝手に再生を始めて、時間が経てば元通り。それから、また分裂して……」
「最悪のループだな……」
そんな敵と遭遇したら、どうすればいいのだろう?
想像して、顔をしかめてしまう。
って……待てよ?
つまり、シフォンが言いたいのはそういうことなのか?
ハッとして。
彼女を見ると、しっかりと頷いた。
「この状況……似ていると思わない?」
「確かに」
薬に汚染された村人をけしかけてくるが……
基本、大した戦闘能力は持たない。
怪我をしないように配慮しても、時間はかかるが、十分に制圧は可能だ。
配置されたトラップも大したことはない。
殺傷ではなくて、嫌がらせで設置しているかのよう。
侵入者を撃退するのではなくて、うまくいっていると思い込ませて、誘い出すためでは?
そして、村人達をあえて手にかけさせることが目的だとしたら?
そこから至る最後の道は見えてこないが……
そのような気がしてならない。
「村人を生贄にしようとしている? ただ、なんのために?」
「邪神の復活が目的なら、そのためではありませんかー?」
「ショコラもそう思うぞ」
「それならそれで、村人達を集めて一気に……っていう方が効率的で、簡単だろう? わざわざ、俺達に向かわせる理由がわからない」
「む、それもそうだな」
「嫌がらせ、でしょうかぁ?」
「それに近いような。でも、ちゃんとした……しっかりとした目的があるような」
ショコラとミルフィーユと話して、少しずつ推理を進めていく。
ただ、肝心なところにたどり着くことができない。
あと数歩。
それで真相に近づけるような気がするのだけど……
その数歩がとても遠い。
……もどかしいな。
「あいたたたっ」
そんな中でも、ライハは、トラップを気にせず、ずんずんと進んで……
そして、村の中央に位置する屋敷にたどり着いた。




