1111話 出迎えは丁重に
「……ダメじゃな。所詮、履いて捨てるほどの雑魚ばかり。敵のオーラに圧倒されて、まともに動けないでおる」
バストール。
崖を切り抜いて作られた神殿の中。
初老の男が、ため息と共にそう言った。
ジ・ゼセル教大神官。
序列八位。
ジーベン。
侵入者を察知して、村の様子を魔法で探っていたのだけど……
見えてきたのは、なにもできず、なにもさせられず、撤退させられる情けない村人の姿だけ。
弾除けにもならないし、時間稼ぎにもならない。
酷い結果にため息しか出てこなかった。
「だから言っただろう? レインを相手に、いくら雑魚をぶつけても仕方ない。やるなら、僕達でないとね」
同席するゼクスが、なぜか誇らしげに言う。
レインとは敵対関係にあるが……
しかし、彼は、大神官でありながらレインに親しみを抱いている。
なぜなら、レインは強者だから。
自身も強者という誇りを持つゼクス。
故に、同じ強者には敬意を払い、時に尊敬する。
力こそが全て。
そんな言葉を信じて……
そして、実感した生を過ごしてきたからこそ、ゼクスは、レインに対して深い敬意を払い。
また、勝手にではあるが、友情のようなものを抱いていた。
「お主は、また悠長な……バストールを潰されるわけにはいかないのだぞ? ここを作り上げるのに、どれだけの時間をかけたことか……それに、儀式は目前。今更、場所を変えることもできん」
「だねえ」
「もう少し危機感というものを持て」
「持っているさ、十分に」
「だからこそ」と間を挟んで、さらに続ける。
「とても楽しみにしているんだよ」
ゼクスが笑う。
子供のように無邪気な笑みだ。
ただ、子供特有の残酷さも過分に含まれていた。
「ちょうどいいから、僕が行こうか。レインと色々な話をしたいと思っていたし、このまま戦い、拳で語るという古臭い方法も、たまには悪くない」
「……勝てるのか?」
「もちろんさ……と、言いたいところだけど。どうだろうね? 僕らには加護があるけれど、それでも、厳しい相手かな? レインもそうだけど……他にも、勇者と魔王がいるからね。ははっ、勇者と魔王がコンビを組んでいるとか、反則すぎるだろう?」
「……」
「なに、心配はいらないさ。最低限、時間くらいは稼ぐ。その間に、ジーベンは儀式を進めてくれればいい。それで、最終的には僕らの勝ちだ。えっと、なんて言うんだっけ? ……試合には負けたけど勝負には勝った、かな? まあ、そんな感じに持っていけるはずさ」
「だといいのだがな……」
「心配性だね。もっと気楽に、人生を楽しく考えた方がいいんじゃないかな?」
「お前ほど楽に考えていたら、すぐに破滅だ」
ゼクスは苦笑しつつ、ジーベンと別れた。
神殿の廊下を、コツコツと足音を立てて、ゆっくりと歩いていく。
「なかなかいい状況だ」
追いつめられている側だというのに、ゼクスは笑みを携えていた。
邪神復活のため、入念な計画を立てて。
長年にかけて活動をして。
完璧と思えるような行動をした。
しかし、拠点がバレて。
勇者と魔王と。
そして、絆の英雄が乗り込んできた。
最大のピンチと言ってもいいかもしれない。
ただ、ゼクスは笑っていた。
楽しそうに笑っていた。
「いいね、いいね。実に素晴らしい展開だよ。やっぱり、人生はこうでなくちゃ。刺激に満ち溢れたものでないと、飽きてしまうからね」
計画が瓦解するかもしれない。
悲願を果たすことができないかもしれない。
使命が潰えてしまうかもしれない。
だから、なに?
そんなことよりも、楽しくハッピーに生きていたい。
やりたいことをやるのが一番。
使命などは二の次、三の次だ。
「さあ、レイン……僕を楽しませてくれよ?」




