1109話 反則な能力
「今度は、私の番かな?」
フィアは不敵に笑う。
両手を横に。
手の平を上にすると、周囲から奪い取っているかのように、光が集まっていく。
小さな太陽が舞い降りたかのよう。
フィアは、両手を前に突き出して、集めた光の塊、二つを解き放つ。
「ふふん、そのような貧弱な攻撃、我には……」
「受けるでない。避けよ」
「逃げるのだ!」
気持ちのいいほどの態度の転換を見せて、ルナは飛行魔法で空に逃げた。
ソラも、同じように飛ぶ。
光弾が建物に触れて……
カッ!!!
特大の光を撒き散らす。
同時に熱と衝撃が暴れ回り、圧倒的な力が叩きつけられた。
数軒の家は、まとめて粉々に粉砕されて。
土台になっていた石は溶けて。
その脇の道も溶けていた。
その光景を作り出した本人が得意そうな顔をする。
「どうどう? こんなこと、なかなかできないっしょ。そろそろ、私のこと、舐めるのやめてくれないかなー?」
「最初から舐めてなどおらぬよ。これでも、最大限に警戒しておるのじゃ」
「お、マジで? ならごめんね。飄々としてるから、なーんか、私、舐められてるのかなー、って」
「性格によるものじゃ、許せ」
「オッケー、許しちゃう♪」
「……なんだか、二人は仲が良さそうですね」
「……十年来の親友といった感じなのだ」
「「こんなのと親友なんて嫌だ」」
二人、声を揃えていう。
やはり、仲が良さそうではあるが……
アルが本気で不快そうにしているところを察した娘二人は、ツッコミは止めておいた。
「なんにせよ……どういう仕掛けかわからないが、しかし、お主の秘密の一端は理解した」
「へぇ?」
「……いかなる攻撃も受け付けない、じゃろう?」
アルの導き出した答えに、ソラとルナは絶句した。
ひたすらに硬いわけではなくて。
とんでもなく強固な結界を展開しているわけではなくて。
幻影などで身代わりを用意しているわけでもない。
つまり……
無敵。
「せいかーい♪ へぇえええええ、よくわかったね? すごいすごい、褒めてあげる。ぱちぱちぱち♪」
「あれだけ叩き込んで、直撃して、それでもケロッとしていれば、誰でもわかるわい」
「ちょっと余裕を見せすぎたかな? ま、完璧ってわけじゃないんだけどねー。服とか髪とか、少し焦げちゃうし。でも……」
フィアは、にっこりと。
満面の笑みを見せつつ、言う。
「私を害することはできない。それが、大神官の力だよ」
――――――――――
「……撒いたかな?」
「ああ、大丈夫だと思う。今、ネズミに見てもらってきたけど、誰もいないってさ」
「ふぅううう……」
朽ち果てた小屋の中。
シフォンが安堵の吐息をこぼして……
他のみんなもそれに続いた。
ただ、コハネとエーデルワイスは堂々としたもので、まったく動揺していないみたいだ。
さすがだ。
「うーん……村人達の様子がすごくおかしかったけど、まさか、薬漬けにしているなんて……」
「正常な判断ができないんだろうな。それで、邪教徒……ゼクスやフィアのような大神官の言いなりになっているんだと思う」
「おとなしく従えばよし。そうでないなら強引に……か」
シフォンは怒りを滲ませた様子で言う。
ミルフィーユとショコラも、同じような表情だ。
普段、おとなしく、穏やかな三人が怒りを見せている。
それだけ、今回の敵の所業は許せないのだろう。
もちろん、それは俺も同じだ。
人を人と思わない。
物を扱うような行動は、とても許せるものではない。
「……コハネ、村人達を正気に戻す方法は、なにか思い浮かばないかな?」
「申しわけありません、主さま。時間をかけて、なら薬を抜くことはできて、治療も可能ですが……しかし、すぐにというのは」
「やっぱり、そうなるか」
この村は、たくさんの村人達がいる。
彼らに見つからず、というのは難しい。
一人も相手にしない、というのも難しい。
どうする?




