1108話 鉄壁の防御
「あっつ! あちちち……これ、ちゃんと熱いのが困るよねー。髪の毛とか、チリチリになってないかな?」
姿を見せたフィアは、わりと呑気な様子だった。
さきほどと同じように、軽く焦げているだけ。
よく見てみると、服が焦げているだけだ。
肌は綺麗なまま。
髪の毛も焼けた様子はない。
「ふむ?」
先の一撃は、アルの全力というわけではない。
かといって、手加減をしたわけでもない。
とりあえず牽制しておかないとなー。
でも、運良く倒せないかなー?
そんな感じで放った一撃ではあるが……
常人だけではなくて、世間一般に強者にカテゴリーされる者だとしても、受け止めるのは至難の業。
ましてや、直撃すれば命はない。
「確かに、直撃したように見えたのじゃが……」
「目が悪いんじゃなーい? いい治癒師、教えてあげよっか?」
「よくぞ吠えた」
アルは、ぴきりとこめかみの辺りをひきつらせた。
落ち着いているようで、こうして最前線に来るほどやんちゃ。
ついでに言うと、売られたケンカは買う。
まだまだやんちゃな人妻であった。
……とはいえ。
アルは、表情などは一切変えず、心の中で怪訝そうに小首を傾げた。
フィアは、どのようにして攻撃を防いだのか?
その仕掛けがわからない。
絶級魔法であれば、さすがに防ぐことはできないだろうが……
そんなことをしたら、ホライズンのいくらかが更地になってしまう。
いくらなんでも、そこまでやるわけにはいかない。
「ひとまず、もう少し様子を……」
「「ドラグーンハウリング!!」」
「お?」
別方向から魔法が放たれた。
竜の咆哮を模した衝撃波がフィアを飲み込み、吹き飛ばす。
「母さん!」
「応援に来たのだ!」
「おお。誰かと思えば、妾の愛子ではないか。二人だけか?」
「カナデは留守番なのだ」
「今は、もう一人、守らないといけない子がいますから、さすがにこのようなところには連れてこれません」
「ふむ。話に聞いたハーフの子供か……興味深いな。話をしてみたいとは思うが……」
アルは、振り返りつつ、何気ない様子で魔法を放つ。
超級魔法ガルーダブラスト。
風が槍のように細く編み込まれ、高速回転する。
触れるものを切り刻む刃となり、死角から襲いかかろうとしていたフィアを激しく叩きつけた。
「先に、こやつの相手をしなければな」
「……相変わらず、敵に対しては一切の容赦がありませんね」
「あれ、死んだのではないか……?」
「油断するな」
アルは、気を抜く娘二人に強い調子で呼びかけた。
「ヤツは強いぞ」
「「……」」
その一言で、ソラとルナは、すぐに臨戦態勢に移行した。
警戒心を最大まで。
体内に魔力を循環させて、いつでも魔法を放てるように整える。
あの母が強敵と認めたのだ。
想像以上に恐ろしい相手なのだろう。
「だーかーらー……ぽんぽん、こんなでかい魔法を放つとか、いいわけ? 私を倒すために、この街を壊すつもり? 意味なくない?」
やはりというか、フィアは無傷だった。
服と髪がいくらか乱れているだけ。
血の一滴も流していない。
「母さん、あれは……」
「わかっておる。まずは、見極めるぞ。撃て」
「イクシオンブラスト!」
まず最初に、ルナが魔法を放ち……
「イフリートディザスター!」
続けて、ソラが魔法を放ち……
「タイタンクラッシュ」
最後に、アルが魔法を放つ。
母娘三人による、超級魔法の時間差攻撃。
避けるのならばともかく、これを完全に防ぐことは難しい。
魔王であるエーデルワイスとて、わずかな傷を負うだろう。
しかし……
「あー……さすがに、ちょっと頭に来たかも。今度は、私の番かな?」
フィアに傷はない。




