1107話 心躍る
「ねえねえ、いきなり攻撃するとか酷くない? ちょいと常識とか礼儀が足りてなくない? めっちゃひどーい」
フィアは、頬を膨らませて抗議した。
アルは鼻で笑う。
「人様の街でいきなり暴れるようなヤツが言えたことか。鏡を見て言うがよい」
「この『国』で、この『世界』で生きることをよしとしない私達にそんなこと言われても、知らないしー。そっちはそっちの常識でしょ? 押しつけないでくれる?」
「……本当に厄介なやつだのう」
最強種であるアルでさえ、人間の国に立ち入る時は人間の常識、法を遵守する。
無法をしかけてこない限り、守るつもりでいた。
ただ、フィアは違う。
人間の社会? なにそれ。
法律? なにそれ。
私達が決めたことじゃない。
そもそも、私達はそんなものを認めていない。
だから、守る必要なんてないよね。
はい、答えは出ましたー。
……という感じで、笑顔であははと笑いつつ、平気で人が大事にするものを踏みにじる。
究極的に質が悪い。
戦争が行われていた時の魔族よりも酷いだろう。
「とりあえず、あなたは私の敵だよね? だよね?」
「うむ、そうじゃな」
「よーし! ちょっと楽しそうになってきたかも」
「戦闘を楽しむタイプか?」
「んー? 別に私、バトルマニアってわけじゃないよ? たださー、あまりにも歯ごたえがなさすぎると、それはそれでつまらなくない? 敵を倒してこいって言われて、アリをぷちぷち踏み潰してても虚しいっていうか、そんな感じ」
「ふむ……まあ、気持ちはわからぬでもないが、それならば、妾が相手をしてやろう」
アルは空に浮かびつつ、いつでも動けるように構えた。
「来い、小童」
「あは♪」
フィアは、右から左にゆっくりと手を振る。
その軌跡に従い光が生まれて……
「む!?」
光で編み込まれた熱線が放たれた。
正確無比な射撃で、熱線はアルを捉える。
ただ、それがアルに届くことはない。
事前に展開しておいた結界に阻まれた。
「お、やるねー。大抵の雑魚は、今の一撃で終わるんだけど」
「妾をそこらの有象無象と一緒にするでない」
「ごめんごめん。じゃ、もうちょっと本気で行こうかな?」
フィアが再び笑う。
直後、
「おぉ……!?」
無数の光の槍が生成されて、その全てがアルに向けて飛ぶ。
意思を持っているかのように、一度避けても、軌道を変えて追いかけてきた。
まるで蛇だ。
獲物を仕留めるまで執拗に追いかけ回す。
舌打ちを一つ。
それから、アルはちらりと周囲に視線を走らせた。
周囲に大きな建物はない。
人の避難も完了している。
さらに派手に暴れても問題ないだろう、という物騒な考えに至る。
「イフリートディザスター!」
くるっと反転すると同時に、業火を撃ち出した。
強烈な熱波が広がり、周囲の建物の壁を叩く。
窓が割れて、ガラス片が散らばる。
業火は、追撃してくる光を飲み込んだ。
一瞬で消滅。
それだけで終わらず、フィアに向けて駆ける。
「やばっ!?」
フィアは、慌てて退避する。
しかし、判断が遅い。
動きも鈍い。
着弾。
耳を撃ち抜くかのような轟音。
大気を震え上がらせるかのような熱。
巨大な火柱が立ち上がり、その中にいるものを赤の抱擁で死に追いやる。
「ふむ?」
アルとしては、今のは牽制の一撃だった。
本命の攻撃は、さらにこの後に控えている。
ただ、フィアはまともに攻撃を受けた様子。
見た限り、防御も回避もしていない。
もちろん、見抜けていないという可能性もあるが……
「……ほう」
しばらくして炎が晴れて。
その中から、無傷のフィアが姿を見せた。




