1106話 とっておきの切り札をたまには最初に使ってもいいだろう
「んー……つまんなくね?」
ホライズンの貴族街。
華やかな建物が並び、色とりどりの花や木々が並び。
芸術のような一角となっていたが、今は見る影もない。
局地的に地震が起きたかのように建物が崩れ、地面がひび割れている。
木々も倒れている。
人々が逃げ惑い、悲鳴をあげていた。
その中心にいるのは……フィアだ。
ジ・ゼセル教大神官。
序列四位。
人でありながら人でない存在。
「レインくんの家知らないから、こうして騒ぎを起こせば来るかなー、って思っていたんだけど失敗くさい?」
特に悪びれた様子はなく、フィアはとんでもないことを言う。
なにもしない、とか。
敵意はない、とか。
そのようなことを口にしていたが、その記憶はどうなったのだろうか?
この場にレインがいたら、フィアのめちゃくちゃな行動に絶句していただろう。
「ん? これ、私、悪いことをしている……?」
ようやく、フィアはその自覚をして……
「ま、いっか」
深く考えないことにしたらしい。
「悪いことかもしれないけど、やらないといけないからねー。ジーベンがやれっていうから、仕方ないしねー。そうそう、ジーベンのせいだよね。うん。私は悪くない。ってか、悪いこととか、そういう世間の基準はどうでもいいし、あはははっ!」
笑いつつ、フィアは踊るように手足を振る。
その動きに合わせて突風が巻き起こり、周囲を吹き飛ばしていく。
ゼクスが火ならば、フィアは風。
手足のごとく、自由自在に操ることができる。
「んー……残念。これだけ暴れてもレインくんがこないってことは、留守中かな? 本拠点に行ったかもしれないけど……ま、いいや。ゼクスがなんとかするっしょ。とりあえず私は、行きがけの駄賃に、この街を壊していこうかな?」
さらっと恐ろしいことを口にする。
それがフィアの心を表していた。
「よーし、それじゃあ、ぶっ壊すぞー!」
「お主がぶっ壊れるがよい」
「お?」
「イクシオンブラスト……三回、まとめてくらうがよい」
轟雷。
世界を白く染めるほどの雷撃が放たれた。
それは一撃だけではない。
繰り返すこと、三回。
紫電の嵐が三度に渡り暴れ回り、フィアに襲いかかる。
あまりにも突然で。
あまりにも唐突で。
フィアは防御することもできず。
回避もできず。
まともに雷撃を喰らう。
ガッ……!!!
超級魔法が同時に三つ、起爆して……
あまりの衝撃に、地震が起きたのではないかと思うほどに大地が揺れた。
閃光が広がり、白に飲まれる。
世界の終わりが来たかのような光景だ。
それを引き起こしたのは……
「ふむ? ちとやりすぎたかのう」
最強種の一角、魔法に長けた精霊族。
ソラとルナの母親。
アルだった。
アルは魔法で空に浮かび、フィアが立っていた地面を見下ろしている。
のんびりしているように見えるが、実は、すでに第二撃の準備は終えていた。
一言、唱えるだけで、再び超級魔法を連射できる。
「んー……厄介なヤツと聞いておるし、もう一度、言っておくかのう」
その場のノリで。
そんな感じで、アルは、再び魔法を唱えた。
暴れ回る雷撃。
閃光が地面を穿ち、さらなる土煙を舞い上げていく。
離れたところで様子を見ていた人々は悲鳴をあげた。
頭を抱えてうずくまる。
……ここまできたら、もはや、どちらが悪かわからない。
迷惑をかけている、という点では、間違いなくアルが悪い。
だが、本人はそんなこと気にした様子もなく、不敵な笑みを浮かべている。
「ほれ、出てこい」
「……」
「この程度では終わらぬだろう? 妾の目をごまかせると思うでないぞ」
挑発的に問いかけると、ぶわっと風が吹いた。
一気に土煙を吹き飛ばして……
ちょっと焦げているものの、大したダメージを負っていないフィアが姿を見せる。
ニヤリと、彼女もまた不敵に笑うのだった。




