1105話 猫の憂鬱
「んにゃー……」
カナデは、リビングのソファーにぐでーっと寝そべり。
その状態で、尻尾をゆらゆらさせていた。
私もレインと一緒に行きたかった。
顔がそう語っていた。
とはいえ、ライハの真似をして、強引に追いかけるわけにはいかない。
ルリを守らないといけないし……
街に問題が起きる可能性も否定できない。
とはいえ、理屈では納得したものの心は納得できず……
「ふにゃーん……」
なんともやりきれない感じで、尻尾をのんびり振っていた。
「これでいい?」
「はい、問題ありませんよ。バッチリです」
「うむ。なかなか才能があるではないか。我の弟子にしてやってもいいぞ?」
そのルリは、少し離れたところで、ソラとルナに裁縫を教わっていた。
いきなり服を作るとか、そういう難易度の高いことはしていない。
まずは、ハンカチに簡単な刺繍を付けるところから。
針を使わせることに心配があったものの……
ルリは器用に縫い、星のマークの刺繍を刻むことに成功した。
彼女の才能だろうか?
あるいは、師がいいのだろうか?
「……前者かな。後者はないかな」
カナデは、さらっと失礼なことを考えた。
「ふぅ」
いつまでもしおれていても仕方ないと、カナデは立ち上がり、キッチンへ。
水を飲んで、シャキっと気分を入れ替えた。
レインにはレインの。
自分には自分のやるべきことがある。
しっかりと務めを果たそう。
「うん。そう考えると、ちょっと元気とか出てきたかも。家を守るのは妻の仕事っていうし……うへ、えへへへ♪」
レインには見せられないような笑みを浮かべつつ、カナデはくねくねを体を揺らした。
尻尾も同じように揺れている。
「とりあえず、なにが起きてもいいように……」
ゴガァッ!!!
「にゃ!?」
突如、轟音が響いてきた。
家も軽く揺れて、棚の上の壺が落ちそうになる。
「にゃ、にゃにごと!?」
「ルリよ、大丈夫なのか!?」
「うん、平気」
「ソラ達の中で、一番落ち着いていますね……」
「将来、大物になるな」
「ソラとルナも、けっこう落ち着いているからね!?」
「カナデ、うるさいですよ」
「我ら歳上が取り乱してどうするのだ」
「言いたいことはわかるけど、そこまで冷静でいられると、なんかこう、私一人だけ慌てているのが納得いかないよ!」
とにかくも、カナデは外に出て、音がした方……ホライズンの中心部に目を向けた。
そして、絶句する。
「な、なにあれ……」
「竜巻だな」
「竜巻ですね」
同じく外に出てきたソラとルナが、静かに感想を告げる。
街の奥にある、住宅街をさらに超えた先……貴族などが住む高級住宅街に竜巻が君臨していた。
細く高く。
巨大な槍が独楽のように回転しているかのようだ。
もちろん、近辺の住宅や建物は無事では済まない。
風が全てを切り刻み、破壊していく。
「敵! ……だよね?」
「ええ、間違いないかと」
「魔力を感じるのだ」
「なら、行ってくるぐえぇ!?」
カナデは駆け出そうとして。
しかし、ルナに襟首を掴まれて、コケる。
「なにするのさ!?」
「餌に飛びつく猫じゃないのだから、やたら無闇に突撃するでない」
「罠の可能性がありますよ? それに、カナデが飛び出したら、ルリはどうするんですか。ソラとルナは残りますが、物理特化の相手が来たら、けっこう厳しいです」
「うっ、それは……」
二人の言うことはもっともだ。
しかし、今、街で尋常ならざる事態が起きている。
それを見過ごすわけにもいかない。
どうすれば?
カナデは尻尾をぐるぐるさせて迷う。
「安心してください」
ソラは笑みを浮かべた。
「こういう事態は想定していたため、とっておきの援軍を呼んでおきましたから」




