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111話 スズの試練・その2

「では、ここからが本番ですよー」


 スズさんはニコニコしながら、そう言う。


 本番というと……

 もしかして、スズさんと戦う……とか?


 ありえない話ではない。

 こういう試練にはありがちな話ではあるし……

 わざわざ、場所を外に移した理由も納得できる。


 そう思っていたのだけど……


「次は、鬼ごっこをしましょう」

「えっと……?」

「鬼ごっこですよ、鬼ごっこ。もしかして、知らないんですか?」

「いや、知ってますけど……」


 なんで、鬼ごっこ……?

 カナデを連れ帰らないといけないポイントと、何か関係があるんだろうか?

 ついつい、間の抜けた顔を浮かべてしまう。


 他のみんなも似たようなもので、訝しげにしていた。


「ねえ、お母さん」

「なんですか?」

「それ、私を連れ戻さないといけないことに、なんの関係があるの……? まったく関係なくない……?」

「関係おお有りですよー。逃げ足は、とっても大事ですからね」

「逃げ足?」

「冒険者を続けるとなると、時に、どうやっても敵わない敵に出会うことがありますよね? その時、逃げるしかなくなりますが……逃げ足が遅いと捕まってしまいますからね。そんなことにならないように、みなさんの逃げ足がどれくらいのものなのか、確認しておきたいんです」

「理屈はわからないでもないけど……」

「逃げ足を試されるのって、なんか、微妙な気分になるわね……」


 タニアと一緒に、なんともいえない顔を作る。


「今回は、カナデちゃんも一緒に参加してくださいね」

「にゃ。私も一緒なの?」

「当のカナデちゃんの逃げ足が遅かったから、意味がないじゃないですか」

「んー? まあ?」

「というわけで、ルールの説明をしますね。制限時間は3分。その間、誰か一人でも私に捕まらなかったら、レインさん達の勝ち。逆に、私がみなさん全員を捕まえたら、私の勝ちです」

「たった3分でよいのか? それくらい楽勝だぞ」

「ふふっ、元気な子ですね」

「お母さんを侮らない方がいいよ。体を動かすことになると、お母さん、常識を覆してくるから」

「ふむ……質問だ。魔法は使っていいのか?」

「ええ、構いませんよ」


 制限時間は3分。

 しかも、逃げるのに魔法を使ってもいい。

 かなり俺達に有利な条件だ。


 それでも、スズさんの笑みは消えない。

 こんな条件でも、勝てるという自信があるのだろうか?


 普通に考えれば、俺達の勝ちなんだろうけど……

 油断はしない方がいいな。気を引き締めよう。


「準備はいいですか?」

「ええ」

「ではでは、合図をしたら好きに逃げてください。私は、30秒したら追いかけますね」

「わかりました」

「では……よーい、スタート!」


 スズさんの合図で、俺達は四方八方に散らばった。


 タニアは持ち前の身体能力を活かして、猛然と駆けていく。

 あっという間に背中が見えなくなった。


 ソラとルナは魔法を使い、空高く飛翔する。

 魔法はアリと言っていたものの、あれは、さすがに捕まえようがないよな……


 ニーナは、転移を繰り返して、遠くへ移動していた。

 転移をしている間は、どうやっても触れることはできない。

 ある意味で、ニーナが一番厄介なのかもしれない。


 俺とカナデは、並走して森を駆けていた。

 まとまって行動していると、一網打尽にされる恐れがあるけれど……

 ある程度は、味方の動きを把握しておきたいので、しばらくはカナデと一緒に行動することにした。


「レイン、レイン。これからどうする? 普通に走るだけで、逃げられるかな?」

「スズさんは、猫霊族の中でも最強なんだよな?」

「うん。めっちゃくちゃ強いよ」

「なら、不安が残るな……偵察を出すことにしよう」


 近くの小鳥と契約。

 同化をして、スズさんのところへ飛ばす。


「さーて、いきますよー」


 ちょうど30秒数え終わったところらしく、スズさんが動き出すのが見えた。

 スズさんは、軽く前かがみになり……

 ふっと、姿が消えた。


「え?」


 慌てて周囲に視線を走らせると、彼方にスズさんの姿が見えた。

 あの距離を一瞬で……?


 唖然としている間に、スズさんはタニアに追いついた。

 驚くタニア。

 スズさんはマイペースに、笑顔を浮かべながら、あっさりとタニアの肩をタッチした。


「ウソだろ……」


 でたらめに速い。

 どうやったら、あんな速度で移動できるんだ?

 常識を覆すどころか、常識をぶち抜いてきたぞ……


 スズさんは、タニアを捕まえた後、次の獲物を探すべく、周囲をキョロキョロと見た。


 スズさんの遥か上……上空に、ソラとルナが滞空しているのが見えた。

 あれだけ離れていれば、普通なら、二人を視界に収めることはできないんだけど……

 スズさんは『普通ではない』らしい。


 すぐに二人を見つけたらしい。

 上を見て、困ったような顔をする。


 そうだよな。

 さすがのスズさんも、空を飛んでいる相手をどうこうすることは……


「えいっ!」


 できない……と思っていたら、スズさんが跳躍した。

 砲弾が射出されたように、猛然と空を駆けていく。


 突貫してくるスズさんに気づいて、ソラとルナが、ぎょっとしているのが見えた。

 慌てて飛空コースを変更する。


 これで、スズさんは一度着地するしかない。

 いくらなんでも、空中で軌道を変えることは……


「えいっ!」


 スズさんが空気を蹴った。

 無茶苦茶な方法で軌道を修正して、ソラとルナに迫る。


 そして……タッチ。

 二人も捕まってしまう。


「さーて、次は神族の子にしましょうか」


 地面に降り立ったスズさんは、今度はニーナのところに駆けた。

 注視していないと見失ってしまいそうなほどに速い。

 どれだけの速度が出ているんだ……?

 考えるだけで目眩がしそうだ。


「ひゃあ!?」

「はい、捕まえましたよ」


 転移と転移の間を狙われて、ニーナはあっさりと捕まってしまった。

 残りは……


「……ふふっ」


 スズさんが、小鳥と同化している俺を見る。

 視線が合う。


 やばい。


 本能的な危機感を覚えて、即座に同化を解除した。


「レイン? どうしたの?」

「すぐに逃げるぞっ、みんな、もう捕まった!」

「えぇ!?」


 カナデと一緒に全力ダッシュ。

 スズさんがいた方向とは正反対に駆ける。


「お母さん、もうみんなを捕まえたの!?」

「ああっ、瞬殺だった!」


 いくら相手が最強種の中の最強だとしても、みんながあんなに簡単に捕まるなんて……

 さすがに想定外すぎる。

 急がないと、俺達も……


 焦りを覚えたところで、背後に気配を感じた。

 ものすごい勢いで足音が迫ってくる。

 振り返るまでもない。

 スズさんだ。


「き、きたよっ!?」

「二手に別れるぞ! 少しでも時間を稼いで……」

「させませんよー!」


 左右に別れようとしたところで、行方を塞ぐようにスズさんが回り込んできた。

 それなりの距離があったはずなのに、もう追いつかれるなんて……

 とんでもない速度だ。


「これで終わりですよ」


 スズさんが迫る。

 それを防ぐ術は、俺もカナデも持っていない。


 それでも、諦めるわけにはいかない。

 最後の瞬間まで、なにかしら手はないかと考えて……


「……あ」


 ぴたりと、俺を捕らえようとしていたスズさんの手が目の前で止まる。


「……?」

「残念ですが、3分経ってしまったみたいですね」

「そう……なんですか?」

「はい。なので、2つ目の試練も突破、ということになりますね。あとちょっとだったのに、残念です」


 ……こうして、俺達は危ういところで2つ目の試練を突破した。

 しかし、それはギリギリ及第点と呼べるようなもので、喜べるようなものじゃない。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

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― 新着の感想 ―
[一言] 鬼ごっこ。 誰か一人でもニーナの収納空間に入ってれば楽勝だったのでは?(^_^;)
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