1103話 バストール
一日ほどかかる距離を、二日ほどをかけて慎重に進んで。
そのおかげなのか、俺達の侵入は未だ気づかれていない様子で。
目的地である、バストールの村に到着した。
バストールの村は、盆地に作られていた。
周囲を囲む高い山。
あるいは、急な斜面のついた丘。
その中央に平地が広がり……
小さな村が作られている。
いや。
一見すると、数十件の家があるだけ。
ただ、山の斜面や丘の中。
そこにも家や道が作られている様子。
それと、要塞のような巨大な建築物も確認できた。
普通の村とは程遠いな。
平地だけを見るなら一般的ではあるのだけど、全体を見ると違和感でしかなくて、ひどく歪な構造物が並んでいた。
「よし」
エーデルワイスが前に立つ。
「では、この辺り一帯を吹き飛ばせばいいのだな? 私に任せろ。地殻から吹き飛ばしてやろうう」
「まてまてまてまて」
全力で止めた。
「言っただろう? 俺達は、まずはバストールに潜入して、ここが邪教徒の確かな拠点であることを確かめること。できれば、大神官の居場所も」
それと、もしかしたらさらわれている人がいるかもしれない。
邪教徒だとしても、騙されているだけの人もいるかもしれない。
まとめて吹き飛ばす、なんて論外だ。
却下。
「冗談だ。そこまで本気にするな」
「絶対、本気だったっすよね……あ、いや、なんでもないっす!」
エーデルワイスに睨まれて、ライハが慌てていた。
あはは、と、一連のやり取りを見てシフォンが苦笑する。
「でも、ちょっと緊張がほぐれたかな? ありがとう、エーデルワイスさん」
「なに、気にするな。臣下を気遣うのも王の務め故な」
シフォンは、エーデルワイスの臣下ではないのだが。
むしろ、本来は敵対する立場なんだけどな。
「ひとまず、こちらの詳細な座標、ここに至るまでの地図を、ホライズンに転送いたします」
「頼んだ、コハネ」
コハネがいれば、こんな器用すぎることもできる。
エーデルワイスも大概だけど……
一番、非常識な力を持つのは、こういうオーバーテクノロジーを使うことができる、コハネではないだろうか?
ふと、そんなことを思う。
「さて、どうしますかー? 私達の今回の目的は、ここが邪教徒の拠点であることを確かめることー。大神官の居場所を突き止めることー。被害者がいれば救出することー。その他、重要な情報を探ること、ですねぇ」
「やること多いぞ。手分けした方がいいと思うぞ」
「うーん……私は反対かな? ミルフィーユとショコラが言うように、大変なことなんだけど、ここは敵の本拠地だから。戦力を分散するよりは、手間がかかったとしても、安全第一でまとまって行動した方がいいと思う。レイン君達はどう思う?」
「俺も、シフォンの意見に賛成かな」
「私も、それで問題ない」
「賛成っす!」
「問題ございません」
みんなの意見が一致したところで、本格的な潜入調査に移る。
まずは、ネズミなどの小動物を探して、仮契約を交わす。
そしてさらに仲間を呼んでもらい、こちらとも仮契約。
一斉に散らばってもらい、入り口や中の様子を探ってもらう。
……ほどなくしてネズミ達が戻ってきて、得た情報を教えてくれた。
お礼にチーズや干し肉などをあげて、仮契約を解除。
得た情報をみんなに共有する。
「……というわけで、村もあの大きな建築物も、山の斜面の洞窟も。そこまで人がたくさんいるわけじゃなくて、密な警戒というわけでもないらしい。今のところ、ちょっと変わった村っていう感じだな」
「なるほど……うーん、やっぱり、自分達の目と足で調べて、もう少し踏み込んでみるしかないね」
反対意見はなし。
俺達は、気配と足音を殺しつつ、静かに村に近づいていく。
「……なんか、変な臭いがするね」
村にかなり近づいたところで、シフォンが顔をしかめた。
他のみんなも似たような感じだ。
「ふむ? 確かに変な臭いだが、しかし、死臭といった不快なものではないな」
「エーデルワイス、例えが……」
「わかりやすいだろう?」
困った子だった。
とはいえ、彼女の言うことは、わりと的を射ている。
変な臭いなのだけど、でも、不快ではない。
どちらかというと、心地いいというか……って、ちょっと待て。
「これ……例の麻薬じゃないか?」
「「「!?」」」
「かなり薄められているけど、この辺り一帯に……大気中に漂うようにしてばらまかれている」
急いでハンカチを取り出して、口と鼻を覆う。
他のみんなも同じようにした。
「いったい、どうしてこんなことを……」
思わず足を止めていると、離れたところに人影が見えた。




