1102話 魔王さまのおまじない
「ふんふ~ん♪」
みんなで楽しく散歩。
……というわけではないのだけど、ついつい口笛を吹いてしまう。
ライハはご機嫌だった。
邪教徒の本拠地に潜入。
ライハは、また操られるかもしれないと待機メンバーになっていたが……
強引に追いかけたら、仕方ないと同行を許可された。
嬉しい。
怒られることは覚悟していた。
強引に追い返されることも覚悟していた。
ただ、レインは、仕方ないと苦笑しつつ、一緒に来ていいよと言ってくれた。
さすがアニキ!
と、ライハは内心でレインを称賛した。
敵にやられたままではいられない。
このままだと、心に傷ができたまま。
それを取り除くことができるのは、自身の勇気と前に進むことだけなのだ。
レインは、それをちゃんと理解しているのだろう。
だから、心配しつつも、ライハの同行を許可してくれた。
「うへへー」
嬉しくなり、ライハは笑みをこぼす。
笑みというか……
やや不気味な範疇な表情ではあるが、本人はそのことは気づいていない。
「ライハよ」
「は、はい!? なんすか、魔王さま!?」
エーデルワイスに声をかけられて、ライハは背筋をピンと伸ばした。
さっきまでのふわふわゆるゆる嬉しい気持ちはどこかへ飛んで、緊張が残る。
エーデルワイスは、『魔王』という地位からはほぼほぼ退いている。
今、魔族を実質的に率いているのは、四天王のジルオールのようなものだ。
とはいえ、エーデルワイスはエーデルワイス。
魔王は魔王。
魔族の中でトップクラスの……いや。
誰も敵うことのない、最強の力を有していることは確か。
緊張してしまうのも無理はない。
「え、えっと……あのぉ……」
やばい、怒られる。
勝手についてきたこと。
強引に同行したこと、絶対に怒られる。
ライハは冷や汗を流した。
怒られるだけならいい。
でも、もしかしたらおしおきされるかもしれない。
魔王のおしおき……嫌な予感しかしない。
ライハは覚悟した。
なんなら死も覚悟した。
すると……
「よくやったな、褒めてやろう」
「はい! 自分、勝手なことをしてどのような罰も……はへ?」
今、なんて?
「従者として、主のために戦う……その姿勢は見事なものだ。私も見習いたいものだな」
「は、はあ……」
「それと、過去の雪辱を自分の手で晴らす。それもまた、素晴らしいものだ。褒めてやろう」
「あ、ありがとうっす……?」
怒られていない?
ライハは、ほっと安堵の吐息をこぼす。
「ただ」
「はひ!?」
「ライハが操られるかもしれないという懸念は、やはり捨て置けん」
「うー……やっぱり、魔王さまも、自分の同行には反対っすか?」
「そうは言わん。主の決めたことではあるが、私自身、ライハの気持ちはわかるつもりだからな。賛成はしていた」
「おぉ……!」
「ただ、それでも懸念は捨てられない、ということだ」
「そうっすよね……」
「なので、おまじないをかけてやろう」
エーデルワイスは、そっとライハの肩に手をやり……
さらに前に出て、その額に唇をそっと当てた。
「ひゃあ!?」
「なにを驚く。おまじないだと言っただろう」
「で、ででで、でも!?」
「直接、ライハに私の魔力を流した。これで、そうそう簡単に他者からの害ある魔法を受けることはないだろう」
「おー……ありがとうございます!」
「ただ、完璧とは言えない。こういう術に長けたものなら、私の加護をかいくぐるだろう。その時、鍵になるのはライハの心だ」
「自分の……?」
「心が弱ければ、そこに付け込まれる。そうでなければ、跳ね返すことができる……意思の力というやつだな。強くいろ。敵に付け込ませるな」
「な、なるほど……」
「ライハならできるだろう。故に……私の期待を裏切らせるなよ?」
「は、はひっ!!!」
ライハは、直立不動で答えた。
やっぱり、エーデルワイスは怖い。
魔王さまだ。
ライハはそんなことを思いつつ、絶対に足を引っ張るわけにはいかないと、強く決意した。
ちょっと色々とあり忙しく……
しばらく週二の更新になります。
すみません><




