1101話 テヘペロ
冒険者ギルドに移動して、他に誰もいない客間でシフォンと合流。
その後、コハネの能力で転移をして、南大陸へ跳んだ。
到着した場所は、気持ちのいい草原。
草木が広がり、景色に彩りを添えるかのように、ところどころに花が咲いていた。
綺麗な場所だな。
邪教徒の問題なんてなければ、みんなでピクニックでも来たいところだ。
「到着いたしました。敵の拠点、及びその近くに転移するのは危険と判断したため、歩いて一日ほどの距離です」
「それでいいよ、ありがとう」
「もったいないお言葉でございます」
コハネは謙虚なところがあるんだよな。
ルナのように、もう少し、えへん、としてもいいのだけど。
「おー……すごいね! 私も転移魔法は使えるけど、ここまで精度が高くて、あと、一瞬で、なんていうのは無理だよ」
シフォンが興奮した様子で言う。
「そうだろう、そうだろう。もっと褒め称えるがよい」
「なぜ、エーデルワイスさまがドヤ顔をされるのでしょうか?」
「コハネは私の仲間だろう? 私は、それだけ優秀な仲間を持つ。そんな我が主は、それだけの統率力を持つ。その妻たる私はすごい。単純な論法だろう?」
「いつから、エーデルワイスさまは妻に昇格されたのか、半日ほど議論を交わしたいところではありますが……まあ、いいでしょう。シフォンさま、ショコラさま、ミルフィーユさま。わたくしの初の転移ですが、なにか問題はありませんでしょうか?」
「うん、なにも問題ないかな。だよね?」
「おー、すごくよかったぞ」
「シフォンの転移って、空をひゅーんって飛んでいくものなので、ちょっと怖いんですよねー。それに比べたら天国ですぅ」
ショコラとミルフィーユは幸せそうだ。
ただ……
「ならば、今度は私の転移を披露してやろう。コハネとは種類が異なるが、快適であることは保証するぞ?」
「お、おぉう……よろしく頼むですぞ」
「お願いしますですますよー」
ショコラとミルフィーユの言葉遣いが途端におかしくなってしまい。
目が泳いで、体がちょっと震えていた。
たぶん、エーデルワイスが怖いんだろうな。
……魔王だからなあ。
戦争は終結したとはいえ、そうそう簡単に感情を切り替えることはできない。
ましてや、二人は勇者パーティーだ。
遺恨とまではいわないものの、しこりが残るのは仕方ない。
そう思っていたのだけど……
「そうなんだ? エーデルワイスさんって、転移魔法も使えるんだね」
「まあな。魔王に不可能なことはない」
「すごいね。うーん、羨ましい……」
「そこまで言うのなら、今度、教えてやってもいいぞ?」
「え? 本当に!?」
「うむ。私は、そういう勤勉な姿勢を持つ者は嫌いではないからな。人間だとしても、私の叡智の一端を授けてやろうではないか」
「ありがとう、エーデルワイスさん!」
勇者と魔王が仲良くしていた。
うーん……
とてもいい光景なのだけど、これはアリなのか? と思ってしまう自分もいる。
とはいえ。
これが当たり前になって、違和感を覚えることがない。
そんな日が来るといいな。
「……もが……」
ふと、奇妙な声が聞こえてきた。
なんだ、今の声?
ショコラが背負うバックパックから聞こえてきたような……?」
「……もがが……」
また聞こえてきた。
今度はみんなにも聞こえたらしく、怪訝そうな目をバックパックに向ける。
「ショコラ」
「うん」
ショコラはバックパックを地面に置いた。
警戒しつつ、ゆっくりと開いて……
「ぷはー! けっこう苦しかったっす!」
「ライハ!?」
どこをどのようにして収まっていたのか、ライハが現れた。
「貴様……このようなところで何をしている?」
「あ、魔王さま……え、えっと……テヘペロ♪」
「笑ってごまかすな!」
「ひーん! だってだって、自分も、やっぱり役に立ちたかったっす! アニキに迷惑をかけたままなんて、そんなの耐えられなくて……汚名挽回させてほしいっす!」
それを言うのなら、汚名返上な。
苦笑しつつ、ため息をこぼす。
「エーデルワイス、いいんじゃないか?」
「む? 我が主がそう言うのなら、私が口を挟むことはできないが……いいのか? こやつを置いてきたのは、色々な懸念点があるからだろう」
「そうだな。でも、ここまで言われたら置いていくなんてできないし……なにかあったとしても、俺がなんとかするよ」
「あ、アニキぃ……アニキーーー!!!」
ライハが泣きながら抱きついてきて。
俺はよしよしと、子供にやるような感じであやすのだった。




