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1096話 捨てられない過去

「どういうことだ!?」


 ステラに話を通して。

 改めて、ラウル・ラズナとの面会を果たして。


 そして俺は、ついつい声を大きくしてしまう。


 隣に立つのはコハネ。

 その視線はとても厳しく、目で相手を刺すかのようだ。


 カナデとライハは、ルリの様子を見ていてほしいため、家で待ってもらっている。


「どうした、騒々しい? お前は、もう少し知的であると期待していたのだが」

「声を荒げたくもなるさ……あなたが、邪教徒の大神官だというのならな」

「……」

「隠しても無駄です。わたくしのメモリーには、あなたの記録がしっかりと登録されています。ラウル・ラズナは、ただの偽名……いえ、それですらない、記号のようなものでしょうか? あなたは邪教徒の大神官であり、その名は……」

「やめろ」


 ラウル・ラズナは、初めて怒りに近い感情を見せた。


 前回、話をした時は終始落ち着いていたのだけど……

 今は、大きく感情を揺さぶられているみたいだ。


 ……そんな彼を見ていたら、逆に、俺が落ち着くことができた。


 コハネの話が本当なら、彼は、俺達を騙していたことになる。

 ただ、もしかしたら、そこに理由があったのかもしれない。


 俺達は人間だ。

 話をして、意思を交わすことができる。


「……改めて、話を聞かせてほしい」


 静かに言うと、ラウル・ラズナも落ち着きを取り戻した様子で、静かな表情に戻る。


「俺達は、邪教徒について調べている。そのために、たくさんの情報が必要だ」

「……」

「あなたは、なにかしら隠しておきたい過去があるみたいだけど……ただ、無粋をさせてもらう。本当はそんなことはしたくないけど、放置したら、たくさんの人に害が及ぶかもしれない」


 ゼクスは、口封じのために教徒を焼いた。

 危険すぎる。


 フィアは、もしかしたら敵にはならないのかもしれないが……


 どちらにしても、このまま放置なんて選択肢はない。

 今はまだ、情報が少ないため、動けないのだけど……

 色々なことを知ることができたら、その時は、大きく動くことになると思う。


「そんなことにならないように、協力してくれないか? 頼む」

「……敵かもしれない相手に頭を下げるか」

「こちらは、誠意を示すしかないからな。もしも、あなたがなにかを望むというのなら、できる範囲で力になる。だから……」

「……一つ、聞かせてもらおうか」


 ラウル・ラズナは、鋭い目をこちらに向けてきた。


 空気が重くなったかのような、そんな圧を感じる。

 思わず目を逸らしたくなってしまうが、耐えた。


「たくさんの人に害が及ぶかもしれないというが、その人は、助ける価値があるか?」


 そう問いかける彼は、どこか苦しんでいるようでもあった。


「人間に救われるべき価値があると?」

「ある」


 即答した。

 それが意外だったらしく、ラウル・ラズナは目を大きくして驚く。

 彼のこんな表情は初めて見るから、どこか新鮮な気持ちだ。


「人間は優しいとか素敵とか、善性があるとか……まあ、そういううさん臭いことは言わないよ」

「自分で言うか」

「まあ……実際、ダメなところは多いと思うから」


 長い旅をして。

 長い冒険をして。


 ラインハルトと戦い……


 その後も、この一年、色々な事態に対処してきた。

 事件の大半は人間が引き起こしたもの。


 そんなものばかり見てきたけど……

 でも、それで人間の価値が全て決まるわけじゃない。


 長年の想い人と結ばれて、娘を授かり、幸せな家庭を築いている冒険者を知っている。

 本当はとても優しくて争い事には向いていないけど、でも、与えられた使命から逃げることなく、立ち向かう人を知っている。


 それと……

 このホライズンは、優しい笑顔があふれていることを知っている。


 ホライズンだけじゃないはずだ。

 王都でもクリオスでも……その他、まだ行ったことのない街や村でも。

 たくさんの笑顔があふれていると思う。


 そういうところが見えていないだけで。

 なかなか、表に出てきづらいだけで。


 世界は、なんだかんだ優しいと思う。


「ダメなところもあるけど、良いところもある。本当に全てがダメだとしたら、そんな人間なんて、とっくに滅びているさ」

「……」

「そんなことになっていないっていうことは、まだ大丈夫、ってことじゃないかな? 俺は、そう思う」

「……そうか」


 納得してくれたのだろうか?

 ラウル・ラズナは、再び平静に戻る。


「……すまないが、もう一度、名前を教えてもらえないか? 忘れてしまったのでな」

「レイン・シュラウドだ」

「その名前、今度はしっかりと覚えておこう」

◇ お知らせ ◇

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現在13話まで更新済!

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◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

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― 新着の感想 ―
>「ダメなところもあるけど、良いところもある。本当に全てがダメだとしたら、そんな人間なんて、とっくに滅びているさ」 人間に絶望して滅ぼそうとする奴は、その良いところすらも見ようとしない 或いは信じよ…
レインは本当にすごい人ですね
レイン……いいこと言うなぁ…… ……よし!今まで言ってきた名言をまとめて本にしよう! そして年1位でサイン会を開こうぜ!
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