110話 スズの試練・その1
カナデが一人前なのか、それを確かめるためのテストを行うことになった。
テストに合格すれば、スズさんはおとなしく帰る。
ただし、不合格の場合は、カナデは里に連れ戻されてしまう。
そんな約束が交わされた。
そして、早速、スズさんのテストが行われることになった。
家の外に出て、そのまま街を出る。
しばらく歩いて、森の方までやってきた。
「ではでは、最初のテストです」
ある程度、森の深部に立ち入ったところで、先頭を歩くスズさんが足を止めた。
くるりと振り返り、俺達を見る。
……ちなみに、今は昼なのでティナは留守番だ。
最後のテストには、みんなが必要になると言っていたから、後で合流することになっているけれど……
こういう時に力になれないと、ティナは落ち込んでいた。
後でフォローしておかないとな。
それはさておき。
今は、スズさんの試練に合格しないといけない。
そのことを考えていこう。
「最初のテストは、みなさんの絆を確かめます」
「絆?」
「聞けば、カナデちゃんは、みなさんと一緒に冒険者をしているとのこと。冒険者は、仲間との連携が大切になってきます。つまり、絆が重要ということですね。うまく絆が築けていないとなると、これから先、長く続けることはできないでしょう」
道理だ。
間違ったことはいっていない。
ただ、どうやって絆を測るというのだろう?
「実は……みなさんの中に、私の協力者が一人だけいます」
「え?」
「あらかじめ、事前に話をしておいて、私の味方になってもらいました」
「そ、そんなことが……」
思わずみんなの顔を見る。
みんな、そんなことは知らない、というように、一斉に首を横に振る。
「確認しようとしてもダメですよ。簡単に口は割りませんからね」
「いったい、どうしてそんなことを……」
「最初は、カナデちゃんを連れ戻すのが難航した時に、説得を手伝ってもらうためでしたが……良い機会なので、テストに利用することにします。最初のテストは、みなさんの中にいる裏切り者を見つけてください。本当の絆を築いているのならば、それくらいは簡単なはずですよね?」
「……」
「ちなみに、レインさんは裏切り者ではありません。それは私が保証します。なので、犯人探しはレインさんにしてもらいましょう」
「俺が、スズさんと繋がっている人を探し出せばいいんですか?」
「はい、そういうことです。えっと、そうですね……ヒントもなしでは、さすがに難しいと思うので、それぞれ、一回ずつ質問をすることを許可しますよ。ただし、答えを一度でも間違えたら、その時点で終了です。アウトです。失敗は許されませんからね?」
「……責任重大だな」
「レインっ、がんばってー!」
カナデが応援してくれている。
このテスト、失敗するわけにはいかない!
スズさんと裏で繋がっている裏切り者……か。
実を言うと、話を聞いた時点で、とある答えにたどり着いていた。
ただ、100%の自信があるというわけじゃない。
確証を得るために、みんなに質問をしていこう。
まずは、タニアだ。
そうだな。タニアにはどんな質問をすればいいか?
少し考えてから、言葉を紡ぐ。
「タニアは、カナデのことをどう思っている?」
「どう、って言われても……べ、別になんとも思ってないわよ? へんてこだけど大事な仲間とか、そんな風に思ってないし……でも、まあ、いなくなるとそれはそれで寂しいから……だから、反対しているの」
「そっか、ありがと」
続けて、ソラに対する質問だ。
さて、どうするか?
頭の回転が早いソラならば、俺と同じ考えにたどり着いているかもしれない。
その可能性を考えると……素直に尋ねてみるか。
「ソラは、誰が裏切り者だと思う?」
「愚問ですね。その答えは、レインの中ですでに固まっているのではないですか?」
「それがソラの答え?」
「そうです。ソラは、レインの考えを支持しますよ」
「そっか……ありがと」
次は、ルナだ。
ルナは直感に優れている。
ソラと同じで頭の回転も早いけれど、カナデの次に、直感が鋭い。
そんなルナに対する質問は……
「ルナは、スズさんのことをどう思う?」
「どう、とは?」
「思ったままを答えてくれればいいよ。良い母親なのか、とか、そんな感じで」
「ふむ、そうだな……良い母親であるとは思うぞ? やや強引ではあるけどな。でも、その強引なところも、娘を思うがゆえの行動だ。多少は仕方ないところもあるのではないか」
「なるほど」
最後に、ニーナに対する質問だ。
ニーナは幼いけれど……
それ故に、物事を純粋な目で見抜くことができる。
それを頼りにさせてもらおう。
「ニーナは、このテストの意味をどういう風に受け止めている?」
「えっと……?」
「思ったままでいいから聞かせてくれないか?」
「ん……言葉通り、だと思う……他の目的があるとか、そういうのとは……違うと、思うの……」
「言葉通り、俺達の絆を試すものだと?」
「……ん」
「よし、わかった。ありがとうな」
質問終了。
ニーナの頭をぽんぽんと撫でておく。
「質問タイムはこれで終わりですよー。さあ、レインさん。答えをどうぞ」
「待った」
「もしかして、考える時間が欲しいんですか? 少しくらいなら構いませんけど、あまり長くは待てませんよ?」
「まだ質問が終わってませんよ」
「え?」
「スズさんに質問をしていません」
「……なるほど」
ニヤリ、とスズさんが笑う。
どこか楽しそうで……それでいて、不敵な笑顔だ。
「ええ、構いませんよ。私に対する質問もアリでないと、不公平ですね。なんでも聞いてください。ただし、一つだけですよ?」
「里に連れ戻すことが、カナデにとっての一番だと考えているんですか?」
迷うことなく質問を投げかけた。
今回のテストとはまったく関係ないと思われる内容だ。
それだけに、スズさんは訝しげな顔をして、答えるのに間を使った。
「えっと……それは、どういう意味ですか? テストに関係しているんですか?」
「関係してるかもしれませんし、してないかもしれません。それよりも、答えてくれませんか?」
「……そうですね。カナデちゃんにとって一番だと考えていますよ」
「それはなぜ?」
「さっきも言ったように、カナデちゃんはまだ子供ですから。外に出るにはまだ早いです。それが理由ですね」
「なるほど」
「これで満足ですか?」
「ええ。知りたいことはわかりました」
最後の質問はオマケだ。
ただ単純に、スズさんの考えを知りたかった。
スズさんの中では、カナデはまだ子供……
今回のテストで、この考えを変えさせない限り、スズさんは納得してくれないだろう。
そのことを中心に、今後のことを考えていかないといけない。
最初のテスト?
それならもうクリアーしたも同然だ。
「では、答えをどうぞ。私と通じている裏切り者は、誰ですか?」
「それは……」
一度、みんなを見る。
タニア、ソラ、ルナ、ニーナ。
この中に、スズさんと繋がっている者は……
「そんな人はいない。それが答えです」
「……なるほど」
キッパリと言い切ると、スズさんは一度、目を大きく開いて……
それから、どこか楽しそうな感じでこちらを見た。
「それは、どういう意味ですか? わからなかった、ということですか?」
「いいえ、違いますよ。俺達の中にスズさんと繋がっている者はいない、というのが答えです」
「なるほどなるほど……」
「疑心暗鬼に陥らせるようなことを言って、俺に、いるはずのない犯人探しをさせる……それが、スズさんの目的ですね?」
「……」
「ここで、例えば……俺がタニアを指名したとしましょう。そうしたら、俺はスズさんの情報に踊らされて、タニアを疑ったことになる。そこに、仲間としての絆はあるのか? あるわけがない」
「……」
「このテストの正しい回答は、誰も仲間を疑ってはいけない……だ。余計な言葉に惑わされることなく、仲間を信じること。それが、スズさんの求めている回答だ。違いますか?」
小さな静寂。
……ややあって、スズさんは柔らかい笑みを浮かべた。
そして、パチパチと拍手をする。
「お見事です。全て、レインさんの言う通りですよ」
「にゃー……お母さん、意地の悪い問題だよ……」
「これも、みなさんの絆を試すためにしたことです」
娘のジト目に、スズさんは平然と答える。
さすがというか、なんというか……
神経の図太さは、スズさんの方が圧倒的に上だ。
「それにしても、よくわかりましたね? いつ、答えに気がついたんですか?」
「絶対の確証はなかったですけど、問題を聞いた時ですね」
「え? 最初から?」
その答えは想定外だったらしく、スズさんが驚いた顔をした。
ただ、俺にとっては自然に導き出された回答だ。
カナデを里に戻すのに協力するなんてメンツは、俺の仲間にいるわけがない。
誰もがカナデのことを信じて、頼りにして、一緒にいてほしいと思っている。
そのことだけは信じて疑っていない。
なので、全てがスズさんのハッタリ……ウソであることに気がついた。
そのことを伝えると、スズさんは再び目を丸くして……それから、優しく笑う。
「なるほど……カナデちゃんは、本当に良い仲間に恵まれたみたいですね」
「自慢の仲間ですよ」
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