107話 念願の魚を手に入れたぞ
「あー……」
胃の辺りを押さえながら、のろのろと歩く。
隣を歩くカナデは、心配そうにこちらを見た。
「レイン、大丈夫……?」
「大丈夫……だと思いたい」
ソラの料理をなんとか全部食べたものの……
その結果、とんでもない体調不良に襲われた。
食べてから一時間ほどは、しばらく動けなかったほどだ。
ソラの料理って、ホントにすごいな……
色々な意味で危険だ。
俺の状態異常完全無効化も効かないらしい。
「ソラの料理って、すごいんだねぇ……ねえねえ、どんな味だったの? 匂いは普通だったんだけど……」
「言葉に例えるのが難しいな……あえて言うなら、アレをもう一度食べるなら、素手でドラゴンに立ち向かう方が100倍マシ、ってところかな」
「にゃあ……レイン、けっこう言うね……」
俺も、あまりこういうことは言いたくないんだけど……
だけど、ついつい口にしてしまうくらい、衝撃的な料理だった。
思い出したら、また胃の辺りが変な感じになってきたな。
「辛いなら、私一人で大丈夫だよ? 買い物くらい、できるんだからね」
「カナデがいくら力持ちでも、荷物がかさばると、持ちきれないだろう? 俺も手伝うよ。体の方なら、一時間くらい横になって、ある程度回復したから」
カナデと一緒に、食材や日用品の買い出しに向かう。
全部で六人分だ。
カナデ一人だと大変だろうから、手伝うことにしたというわけだ。
「えへへー♪」
ふと、カナデがにこにこと笑顔になる。
「どうしたんだ?」
「んー……レインと一緒にお出かけ、楽しいなあ、って」
「遊びに行くわけじゃないのに?」
「うん。レインと一緒、っていうところが大事なんだよ」
そういうものなのだろうか?
俺と一緒にしても、別に、おもしろい話はできないんだけど……うーん?
カナデは鼻歌なんかを歌いながら、上機嫌に耳をぴょこぴょこ、尻尾をふりふりしている。
よくわからないけど……
カナデがうれしそうにしているなら、それでいいか。
「にゃっ!?」
突然、カナデが足を止めた。
「カナデ?」
「……すんっ、すんすんすんっ」
怪訝そうにする俺に気がついていない様子で、カナデは鼻をひくつかせる。
何やら匂いを嗅いでいるみたいだけど……どうしたんだろう?
「レインっ、こっち!」
「お、おう?」
真剣な様子のカナデに手を引かれて、そのまま走る。
何か見つけたのだろうか?
とりあえず、一緒についていくと……
「いらっしゃい、いらっしゃい! 今朝、入荷したばかりの新鮮な魚だよ! 残りはあと一匹! さあっ、早いもの勝ちだ!」
「にゃあっ、お魚♪」
……なるほど。
魚の匂いにつられてきた、というわけか。
「お客さん、どうですか? この機会を逃したら、次はいつ食べられるかわかりませんよ」
「うーん……それにしても、よく、魚なんて手に入ったな」
「ホントは、貴族様のところに届けるものだったんですけどね。でも、気が変わったらしく、今日はいらない、って言われてしまいまして。で、こうして店頭に並べているんですよ」
「なるほど。それにしても、魚かあ……」
ホライズンは内陸にあるので、魚を買える機会なんて滅多にない。
大抵はすぐに売り切れてしまうし、それ以前に、貴族が買い占めて市場に出回らないのが通常だ。
ちらりとカナデを見る。
「にゃあ、にゃあ……♪ お魚、お魚……じゅるりっ」
よだれを垂らしそうな勢いで、魚を凝視していた。
というか、ちょっと垂れていた。
「お客さん、どうします? さっき、他の人が買ったばかりなので、最後の一匹もすぐに売れてしまいますよ?」
「そうだな……ちなみに、いくら?」
「銀貨5枚!」
「けっこうするな……」
「高級食材ですからね。それくらいはもらわないと、ウチとしても……って、あれ? よく見たら、英雄様じゃないですか」
「へ?」
なんだ、その大層な呼び名は?
困惑していると、商人はどこか興奮した様子で話を続ける。
「英雄様ですよね? 突如現れた魔族を倒して、この街を救ってくださったという。猫霊族の嬢ちゃんを連れているし、間違いない!」
「えっと……英雄かどうかはともかく、魔族は倒したけれど……」
「やっぱりだ! あの時は、本当にありがとうございました! おかげで、こうしてピンピンしていますっ」
「無事ならよかったよ」
「しかし、こうなると、うーん……よしっ、この魚、タダでもっていってください!」
「えっ!? い、いいのか?」
「街の恩人から代金は受け取れませんよ。せめてものお礼と思って、もらってやってくださいっ」
「……わかったよ。じゃあ、お言葉に甘えて」
「にゃあっ! お魚もらえるの!? 食べられるの!?」
「ああ。ちゃんと、お礼を言わないとな」
「おじさん、ありがとう!!!」
カナデは目をキラキラさせながら、神様に拝むような勢いでお礼を口にした。
その勢いに、俺と店主は揃って苦笑してしまう。
でも、そこまで喜んでくれるとうれしいな。
カナデには、いつも助けてもらっているから……
いいタイミングで魚を手に入れることができた。
「嬢ちゃん、この場で食べていくかい?」
「食べられるのっ!?」
「ウチは、試食のための道具も揃ってるからね。魚を焼くくらい、わけないよ」
「食べるっ!!!」
即答だった。
買い物の途中なんだけど……まあ、いいか。
カナデの答えを受けて、店主が道具を用意して、魚を捌いた。
見事な手際だ。
そして、魚を焼く。
身から脂が滴り、皮の焦げ目がつく。
「にゃあああぁ……」
それを見て、カナデは恍惚とした表情を浮かべていた。
それほどまでにうれしいんだろうか……?
変な薬を飲んでいるみたいで、ちょっと怖いぞ。
「はいっ、お待ち!」
「にゃあ♪」
カナデは、焼いた魚を受け取る。
そして、満面の笑顔で食べようとして……
「……レインも食べる?」
ちらりと、こちらの様子を伺う。
「俺はいいよ。気にしないで、カナデが全部食べていいから」
「いいの? ホントにいいの?」
「いいよ」
「にゃあ♪」
カナデは心底幸せそうな顔をして、今度こそ魚にかぶりついた。
「はぐっ! はぐはぐはぐっ、むしゃむしゃ……ぱくぱくぱくっ!!!」
ものすごい食べっぷりだ。
あっという間に、魚が骨だけになってしまう。
「ふぁあああ……はふぅ……にゃあ♪」
「おいしかった?」
「最高だよぉ……あっ、口を開くとお魚の余韻が逃げていっちゃう、もったいない……」
カナデはとても満足していた。
これだけ喜んでくれると、こちらもうれしくなってしまう。
「魚、ありがとう」
「いえいえ。こちらこそ、恩を少しでも返せたのならうれしいですよ」
「それと、魚の他にも色々と買いたいんだけど……」
「はいっ、何にしますか?」
「えっと……」
ティナから預かったメモを見ながら、必要なものを注文していく。
食材はこの店である程度揃いそうだ。
あとは、他の店を数件見て回り、足りない食材と日用品を揃えれば買い物は終わりだ。
「いやー、それにしても、今日は運がいいや」
「なにかあったんですか?」
「もちろん、英雄様に会えたことですよ。恩返しもできて、良い日になりました」
店主から笑顔を向けられて、照れくさいような気分になる。
ホント、英雄とかそんなことはないんだけどな……
俺は、俺にできることをやっただけだ。
それに、一人の力じゃない。
みんながいたからこそ達成できたものだ。
まあ……細かいことはいいか。
街の人に笑顔が戻っていることが重要だからな。
まだ完全に復興したわけじゃないけれど……
でも、街の人達は笑顔を浮かべていて、力強く生きている。
そのことが、自分のことのようにうれしかった。
「ホント、運が良い日ですよ、今日は。英雄様に会えるし、猫霊族の姉ちゃんも見かけるし……一生分の運を使いきっちまったかな?」
「はは、大げさな……ん?」
今、なんて……?
「猫霊族の姉ちゃん……?」
「ええ、そうですよ」
「それは、このカナデじゃなくて?」
「違いますよ。ほら、他に魚を買った客がいた、っていう話をしたでしょう? その人が、猫霊族だったんですよ。英雄様だけじゃなくて、猫霊族にも出会えるなんて、ホント、今日は良いことがありそうだ」
ということは、つまり……
カナデとは別の猫霊族が、この街に来ている?
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