102話 ティナの想い
レインが立ち去り、ウチは一人になった。
特にすることはなく、ふわふわと宙に浮かぶ。
幽霊だから、寝る必要がないんや。
食べる必要もない。
というか、食べられないんやけどね。
幽霊になって30年。
今更、寝れない食べれないことを残念に思うことはないけど……
「こういう時は、面倒やなぁ」
カナデがいて、タニアがいて、ソラがいて、ルナがいて、ニーナがいて。
そして、レインがいる。
みんながいると、ウチが一人起きていることで、孤独のようなものを感じてしまう。
難儀なものやなぁ、ホンマ。
今更、一人でいることの寂しさを思い出すなんて。
でも……これはこれで、悪くない気がした。
一人は寂しい。
本来なら、当たり前のことなのだ。
それなのに、今まではなんともないと思っていて……
寂しい、と感じる感覚が麻痺してた。
それが、みんなと一緒にいることで正常になったと思えばいい。
まぁ、複雑な気分なんやけどな。
「やめやめ。暗いことを考えてても仕方ないわ。もっと明るいこと考えよ」
頭を振って気持ちを切り替える。
明るいこと、明るいこと……
やっぱり、みんなと出会ったことやろうか?
ウチを拒絶することなく、受け入れてくれた。
こんなウチやけど、仲間と認めてくれた。
カナデは、ちょっとウチのことを苦手にしてるけど……
まぁ、幽霊が怖いっていうのはわかるから、仕方ない。
それでも仲良くしようとがんばってくれてるし、うれしい。
「……レイン……」
ぽつりと、その名前を口にした。
ウチの新しい主。
新しいご主人様。
暗闇の中、一人でいるウチを温かいところに連れ出してくれた人。
それだけじゃなくて……
ウチの過去の因縁にも、決着をつけてくれた人。
「……感謝しても、感謝しきれへんな」
いつか恩を返したいと思う。
与えられっぱなし、っていうのは性に合わんからな。
ウィンウィンの関係でいたい。
とはいえ、ウチにできることってなんやろ?
家事炊事?
魔力を使って物を動かすことはできるから、それくらいは簡単だ。
元メイドなので、バッチリと叩き込まれている。
とはいえ、それだけでいいのだろうか?
レインは冒険者だ。
戦う機会が多いだろう。
そうなると、ウチも戦えたらなぁ……って、思うんやけど。
「ウチ、そういう方面はからきしやからなぁ……」
みんなと違い、ウチはただの『人間』や。
正確に言うと、人間の幽霊や。
大した力はなくて、特殊な能力もない。
戦いで役に立つことはないだろう。
そのことが悔しい。
「なにかできれば、とは思うんやけど……うーん、幽霊って、成長するものなんか? 新しく特技を覚えることができるんか?」
幽霊の先輩でもいれば、話がわかるかもしれないんやけど……
あいにくと、そんな知り合いはいない。
ずっと、一人やったからなぁ……
「まぁ、レインなら、そこんところ気にしないと思うけどな」
ウチが戦いの役に立ちたいと言っても、無理はしないでいい、と言うだろう。
それはレインの本心で、ウチのことを役立たずなんて思うこともないだろう。
でも、それに甘えてばかりではいられん。
ウチも、何かしら役に立ちたい。
レインの力になりたい。
「……気になる男の役に立ちたいって、普通やろ?」
そうだ。
ウチは、レインのことが気になる。
好きなのか、まだ、そこのところはよくわからんけど……
でも、気になってしまうというのは確かだ。
出会って間もないのだけど……
仕方ないやん?
ずっと一人だったところを助けてくれて……
ウチを仲間と、家族と言ってくれて……
おまけに、過去の因縁に決着をつけさせてくれた。
これで気にならない方がおかしい。
「とはいえ、ライバルも多いけどなぁ」
カナデにタニア。
ソラとルナ。
ニーナ……は対象に含めていいものか?
とにかく。
ライバルになりそうな子がたくさんで、苦戦は必須。
このまま進んで良いものか迷ってしまう。
「って、変な方向に考えがそれてきたな」
あれこれ考えたせいで、ちょっと思考回路がオーバーヒート気味や。
幽霊だけど、知恵熱が出てしまいそう。
あかんあかん。
ちょっと落ち着こう。
「ふぅ……」
肩の力を抜いて脱力する。
ふわふわと宙を漂う。
……少し落ち着いてきたような気がした。
頭がクリアーになっていく。
「……力になりたいというか、恩を返したいんやな。ウチは」
レインは、そんなことは気にしてない、って言うやろうけど……
やっぱり、それで納得はできない。
何かしらウチも力になりたい。
「さて、どうしたもんかな?」
ウチはふわふわと浮かびながら、今後のことを考えるのだった。
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