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11 たとえ邪教徒だとしても、俺は君を守りたい!


 翌日──。


 絶賛、パンダモードで迎える休み時間。

 俺は当然のように勉強するフリに勤しんでいた。


 教科書を見つめる。ただそれだけに全集中。


 廊下に目を向ければ、「こっち見た!」と手を振ってくる者もいる。パンダモードとは言え、真白色さんの彼氏たる振る舞いは欠かせないのだ。


 と、なれば。教科書とお友達になることも、これまた必然。


 ただいつもより、騒がしい気がする。

 廊下が騒がしくなるのはいつものことだが、教室内から異様なざわめきを感じる。


 とりあえず前方をチラ見。


 なっっ?!

 クラスの視線が俺に全集中?!


 えっ。なに? なになに?


 斜め前方四十五度!

 十四時の方角に視線変更ッ!


 ウィィーン。ガシャンッ!


 女子の制服を確認!


 ……え? ていうかめっちゃ近っ…………。


 誰……? と思うも、この空気に溶け込むような温かさを俺は知っていた。


「す、涼風さん?!」


 名前を呼ぶのと同時に見上げると、そこに居たのは両手をブレザーのポケットに突っ込み、若干のドヤ顔を決め込む彼女だったッ──!


 日常溶け込み型ストーカー。

 ついにこんな近くまで距離を詰めてキチャッタヨ!


「な、なにしてるの?」


「ゆめざきれんやを見に来る不届き者たちの視界をシャットアウトしてるんだよぉ?」


 さも当たり前のように言ってきた。

 

 ……ちょっと、いやだいぶ。意味がわからない。


「えっと、つまり……?」

「うん……? ここにこうやって、立ってれば、ほらぁ!」


 丁寧に解説してくれた。

 これは……確かに。俺の顔がイイ感じに廊下から隠れてる。


 なるほど! その考えはなかった!

 さすが涼風さん! 痺れるぅー!!


 って、おい。


 確かに隠れてるけど、廊下もざわついてるし、教室内のざわつきもやべーよ。


 とはいえ、彼女なりに気遣ってくれたが為の行動。無下にはできないし、むしろ嬉しいよ。


「ありがとう! でも──」

「じゃあ写真撮るよぉ!」


 ちょぉっ?!

 今、俺が話そうとしてたよね?! しかも唐突過ぎない?!


「それはだめだ!」

「うんわかったぁ!」


 素直で良い子だな。なんて思っていると……。

 おもむろにスマホを取り出し、不自然に向けてきた。


 これほどまでにわかりやすい盗撮はない。


 こんなにも俺の日常に溶け込んでいるのに、意志の疎通は図れぬと言うのか……。


 ならいっそ、撮らしてあげよう。

 ストーキングだけならまだしも、盗撮のジョブまで付加させるわけにいくまい──。


 でも、その前に。


「どうして写真撮りたいんだ?」

「それはね、夏恋ちゃんと約束したの!」


 ふむ。ここで夏恋の名前が出てくるのか。

 素直でよろしいことで。こういうところが、涼風さんのいいところだったりもする。


「どんな約束?」

「うんとね、休み時間のゆめざきれんやの様子が見たいんだって!」


 なるほど。素直で本当によろしい。

 夏恋のやつ……。やはりパンダモードを気に掛けてたか。


 それに心なしかじゅるりとしている。

 涼風さん、あんたまさか! クッキーで買収されたんじゃないだろうな?!


 でも、そうとわかれば好都合だ。


「そういうことなら格好良く撮ってくれるならいいぞ!」


 明るく元気な姿を見せて安心させてやらぁ!


「任せてぇ! でもこの事はゆめざきれんやには秘密なの! 誰にも言わないでね!」

「お、おう。わかった」


 言っちゃってるよ?

 ねえ、気付いてるの?


 俺がその、ゆめざきれんや本人だよ?


 ま、まぁ……良いだろう。これはこれで好都合なのだから。


 ………………………。


 チラッ。チラッ。

 早く撮ってくれないかな。


「ごめん。格好良く撮るのは無理だぁ……」


 そりゃね! 被写体の限界ってものがありますからね!


 素直がゆえにグサグサ来る、この感じ。

 いいよ涼風さん。俺は受け入れるよ!


 と、そこに。


「夢崎くんまじパねえっしょ! 涼風さんとも仲良さげかよ! やーるぅーっ!」


 まさかの田中が声を掛けてきた。


「おい、だから絡むなって。落ち着けよ」


 それを止める中田。

 これはいったいなんだ……と思っていると衝撃が走る──!


「涼風さんが男子と駄弁るなんて珍しいっしょ! んでっ、二人はどういう関係なのさ?」


 すると涼風さんは、手でシッシッと追い払うような仕草をしたのだッ──!


 え……。涼風さん……?


 呆気にとられる俺とは反対に、中田は涼風さんと田中の間に割って入った。


「悪いね~。この馬鹿が出過ぎた真似をしちゃって」

「お、おい中田?! こんなのおかしいだろうがよ!!」


「頭冷やせよ。らしくねえだろ。涼風さんに声をかけるのは御法度。お前、潰されんぞ?」


 つつつ、潰される?!

 だ、誰に?!


 そして、中田は半ば強引に田中の手を引いて教室を後にした。


「えっと、今のは……どういうこと?」


 考えるよりも聞いたほうが早い。

 でも涼風さんは首を傾げると難しい顔をした。頭の上に疑問符が浮かんでくるような、そんな雰囲気が感じ取れる。


「連れションってやつに行ったんじゃないかなぁ?」


 って、おい! そうじゃない。そういうことを聞いてるんじゃない!


 でもつまり、わからないということか。


 なら……。質問を変えよう。

 確かにさっき、手で追い払っていた。あれは涼風さんの意志だ。というか俺が一番驚いたのはココ!


「さっき田中の事、手で追い払ったろ? もう少しオブラートに包み込んでナイーブを刺激しないようにと言うかなんというか……どうしてだ?」


 途中からおかしくなっちゃったな。


「ちょっとゆめざきれんや! 何言ってるかわからないよぉ?」


 なんだろうか。その言葉を涼風さんに言われると、非常に悲しい気持ちになる。


「いや……。どうして手で追い払ったのかなと」


 最初からこう聞いてれば良かった。


「どうしてって、お父様からの言いつけだけどぉ? 男子から親しげに声をかけられたら手で追い払えって! というか男子と話すのは禁止されてるのぉ!」


「そ、そうなんだ……!」


 あの、俺も男子だよ……。

 とんでもない箱入り娘。いや、これは単なる溺愛か……。


 潰されるっていうのは、涼風パパに?!


 ってことは俺、潰される?!

 いや。いやいや。俺からは何もしてない。涼風さんのほうから来るんだから無罪だ。


 それになんだか……。いや、ここから先は考えるのはよそう。


 ……でも、だからか。

 だからこんなにもクラスの視線が突き刺さっているのか……。


 と、なると。この状況はとてつもなくまずい。


 今度こそオブラートに包んでやんわり伝えよう。


「余計に目立って注目を浴びているような気がするのだが、どうだろうか?」


 涼風さんは辺りを見渡すと、「おぉ!」と手で餅をつくような動作をした。


 ……こういうところは、葉月っぽいよな。というか葉月もポンッてやってるときあるわ。


「なるほどぉ。出直してくる! これは失敗だぁ! 私としたことが、ぬかったぁ!」


「あっ! 涼風さんストップ!」


 どこから湧くのかわからない謎の自信。

 きっとまた良からぬことを企んでくるに違いないと思い、呼び止めるも──。

 俺の声は届かずスタタタタタッと教室から走り去ってしまった。


 なんてことだ……。

 

 とはいえこんな状況だからこそ、追いかけたりせずに勉強したフリをしてやり過ごす。


 だがしかし。

 クラスの女子が一斉に俺の机の周りに群がって来た──!


 「ねえ夢崎くん? 今のなに?」

 「どういうことなの?」

 「えっ、なになに?」


 あっという間に囲まれて『円』が出来上がってしまった。一難去ってまた一難。


 どの子の瞳の中も『楓様』と書かれている。


 ぶっちゃっけ怖い。

 狂気的で熱気に溢れたフレグランスな香りがムンムンと立ち込める。


 真白色さんに憧れている為か、みんな女子力高め。言ってしまえば一軍女子。


 三軍ベンチの俺からすれば、全員が高嶺の花。

 名前だって知ってるさ。鈴木さん、佐藤さん、高田さん、斉藤さん、松田さん、宮下さん。あと後ろにも誰か居る……。


 まごうことなき、逃げ場なしの全方位!


 ぇっと、あの……皆さん……近いです。近いですょ!



「……ぉ、ぉ手……洗ぃ」


 とりあえずお手洗いと言って脱出を試みるも、状況がそれを許さない。


 場に押しつぶされ、掠れた俺の声など小鼠の泣き声に等しきもの──。


 「あの子はだめよ。週刊楓様通信でも要注意人物に指定されてるから。邪教徒よ!」


 そ、そんなのあったんだ……。

 ていうか邪教徒ってなに……。

 

 「“涼風ちゃんを見守ろうの会”の会員数が先日、100を超えたらしいわよ。ますます手に負えなくなるわね」

 

 そ、そんなのもあるの?!

 対立してる感じなのか?!


 ……あ! でもそういうことか!

『見守ろうの会』だから、声をかけるのは御法度! 謎は解けたぜ涼風ちゃん!


 まぁ、あの様子から察するに本人は知らなそうだけど。……本当に見守るだけの会ってことか。


 「邪教徒のくせに……。少し前まで楓様の周りをちょこましていたけど、ここ最近はからっきし。ざまぁみろよ。ちょっと可愛いくてお家が老舗和菓子屋でお屋敷に住んでるからって調子に乗って!!」

 

 「忌々しいわ。あの邪教徒ッ!!」


 ちょっとあの! 今、唾が飛んできました! あんまり熱くならないでください!


 ていうか涼風さんって和菓子屋の娘だったのか。

 この言い方だと、和菓子の第一人者とかそっち系の家柄ってことだろうな。

 お屋敷って言うくらいだ。庭に松の木とか池とかあるような感じのあれだな。


 毎日つけ回されてると忘れがちになるけど、涼風さんってお嬢様なんだよなぁ……。信じ難い事実……。



 「今週の楓様通信の見出しは決まりね。バッチリ写真も撮ったわ」


 そう言うとスマホを俺の机に置いた。画面に映し出されているのは、俺と涼風さんが仲良さげに会話をしている一枚!


 ちょっとこれ、いいかも。

 この写真を夏恋に送れば、安心するんでない?


 などと思ったのも束の間──!

 

 みんな一斉に覗きこんで来た!

 後ろに居る人に至っては、俺の太ももや肩に手を置いて、のめり込むような体勢だ。


 前後左右、全方位!

 おしくらまんじゅうのすし詰め状態!


 頭の上に柔らかいものが乗ってる気もするし、さっきから顔に髪の毛が靡いてくすぐったい。


 あ、あの、俺、ここに居るんですけど?!

 皆さん、近いです。色々当たってますけど?!


 スマホ画面よりも俺を見て!

 ここに居るよ……! 忘れないで──!



 「ナイス!」

 「邪教徒は追放よ!」

 「要注意Lvをファイブに引き上げ、一斉勧告よ!」


 ねえ、もうここで話す必要なくない?

 さっきから俺、一言も会話に参加してないよ……。


 「《悲報! 涼風鈴音! 楓様の彼氏をNTR気満々!》 見出しはこんなのでどうかしら? 楓様の彼氏として一目置くべき存在に馴れ馴れしいのよ!」


 「意義なーし!」

 「さんせーい!」

 「邪教徒は追放よ!」



 な……? なんてことを……?


 皆さんだって、一目置いてないよ?

 あの、俺、ここにいるの忘れてるよね?


 色々当たってるの。女の子としてどうなんですか! この状況!


 でも、これは止めないと。

 涼風さんは悪い子じゃない。


 何よりも俺のために動いてくれたんだ。そんなの、ここで見過ごせるはずないだろ。


 邪教徒でもないし、NTRだなんてそんな!

 ただの心優しき“ストーキング娘”だってこと、俺は知っているんだ!


「やめてあげてくれないかな。……な、なんて!」


 とはいえ俺は三軍ベンチ。

 あまり生意気なことを言うと「楓様の彼氏になったからって調子に乗っちゃった?」「分を弁えない三軍ベンチね。楓様が可愛そうだわ」こんな事態になりかねない。


 だからなるべく穏便に、下手にまわり、あくまでお願いとして聞いてもらう。


 一目置くべき存在ならば、聞いてくれるはずだ!


 と、一斉にサークルの円を広げると驚いた顔をした。


 ヒートアップするガールズトークの中で、俺という存在が消えていたことに気付いたようだ。


 しかし、これとそれとは別。

 すぐさま反論が繰り出される。


 「何を言ってるの? 夢崎くんまさかあなた……邪教徒に洗脳されてる?」

 「これは一大事よ。要注意Lvをシックスに引き上げるわ!」

 「忌々しい邪教徒め……夢崎くんになんてことを!! 許せない!!」


 や、やっべぇ……。

 逆に煽るような感じになっちった……。


 真白色さんに相談するか?

 でもそうなると涼風さんのことを洗いざらい話さなければならない。


 それでも。「ゆめざきれんやはわたしがまもーる」とか言っていた。だったら俺が止めないでどうするよ。


 涼風さんの危険Lvはゼロだ!

 毎日ストーキングされている俺が言うんだ! 間違いない!!


 一定の距離を保ち、後をつける。

 これってもう、ガーディアンとかボディガードと言ってもいいはずだ。ストーカーなんかじゃない。


 メイン職業 ストーキング娘

 サブ職業  ボディガード、兼、ガーディアン


 きっと、涼風さんのパラメーターはこんな感じになってるはずだ。


 大丈夫。なにも心配はいらないさ。

 三軍ベンチだって、やるときゃやるんだ!


「ぁ、ぁの!!」


 と、俺が声を上げたところで、その声をかき消さんとする声が背後から届く──!


「夢崎くんが困るようなことはだめだよ。写真撮った人は今すぐ削除すること!」


 「山本、あんた正気?」

 「あの邪教徒の肩を持つっていうの?」

 「要注意Lvシックスの人間をのさばらせておくなんて正気の沙汰じゃないわ!」


 え、山本さん。前の席の山本さんが、背後に居た?!


 ってことはさっき……頭に乗ってた柔からな感触は……。や、ややっ! 山本さん?!


「私は夢崎くんの意見を尊重してるだけ! みんなわからないの?」


 や、山本さん……!!

 毎回プリントを後ろに配ってくれるだけでも神なのに、この上かばってくれるなんて!


 もう足を向けて寝られないよ。

 控えめに言っても神だよ! 前後の席のよしみの枠を超えている……!


 「これは由々しき自体ね」

 「山本までも汚染されるなんて」

 「邪教徒は追放よ!」


 でも……これって大丈夫なのか。君まで三軍ベンチに落ちてくるんじゃ? なんて思っていると……。



 ──“キーンコーンカンコーン”──


 ここで、試合終了のホイッスル。

 

 が、先生はまだ不在──!

 アディショナルタイムに突入──!


 とはならず。各々席に着く。


 「昼休みにメンタルケアするわよ」

 「大丈夫。山本は古参メンバー。見捨てたりしないわ」

 「共に祈りましょう。そして邪は滅ぼすのです」


 順々に山本さんの肩をポンポンして離れていった。意外とみんな冷静というか、山本さんの役得だろうか。

 うん。これなら大丈夫。古参メンバーで信頼も厚そうだし!


 山本さんはツンッとしながらも自分の席に座ると、すぐさま振り返り俺の机に肘を置いた──!


 今まで一度もなかった光景にドキッとする。


 前後の席でしか成立しない、幻の光景──!

 まさか、あの山本さんが! 前の席の山本さんがコレをしてくるなんてッ!


 何度夢に見たかわからない。

 前後の席の頂の景色を、俺はいま、目の当たりにしているッ──!


「ごめんね……。わたしそんなに階級高くないんだ。この席を獲得する際に力の殆どを使っちゃったから」


 しかし会話はとっても意味深……。

 それって望んでなれるものなのか。完全にくじ引きだったよね……。


「まだみんなわかってないんだよ。夢崎くんが困った顔をした時、それ即ち楓様の困り顔ってね!」


 あ。良く見たら瞳の奥底まで『楓様』一色。


 でも助けてくれたことには変わりない!

 日頃の感謝も込めて!


「ありがとう山本さん!」


「もう一回言って!」


 え。え?


「ありがとう山本さん!」


「……脳内で変換。楓様が私にお礼を言っている。脳内で変換。脳内で変換……夢崎くんの言葉は楓様のお言葉……」


 スッと瞳を閉じると呪文を唱え始めた。


 山本さんが魔術師に見える……。


 しかし次第に眉間にしわが寄り、何やら苦しそうな表情に変わった。


 そして瞳を開くと、首を傾げた。


「……おかしい」


 そりゃそうだよ!

 俺の言葉を真白色さんの言葉にするなんて無茶があるよ!


「今週の楓様通信で広めようと思ったけど、もう少し研究が必要かも。もっと落ち着ける静かな場所で、雑音と雑念を取り払って……」

 

 そういう問題じゃないと思うけど。でも山本さんなら乗り越えられそうな気もする。


 何かを成し遂げてしまいそうな真っ直ぐな瞳をしている。その瞳に写る『楓様』は本物だ!


「俺で良かったらいつでも協力するから! 気軽に言ってね!」

「ありがとう。夢崎くんってこうやって話してみると優しいよね!」


 え。なにこれ。青春? いや……俺は真白色さんの彼氏。青春なんて訪れるわけがない。

 それもそのはず、今もなお彼女の瞳は『楓様』一色──。


 それにしても、週刊楓様通信。気になる……。

 なんかいま良い雰囲気だし、聞いちゃえ!


「俺も週刊楓様通信購読したいな、とか!」


 言っちゃった!


「本当に? それはすごい嬉しいかも。夢崎くんが購読してくれるなら、緊張感増してイイ感じになるよ!」


 おぉ……! 一言返事でOKとは!


「なら、ぜひに!」


「もち! 男子の会費は月額1000円だけど、夢崎くんはタダでいいよ。その代わり秘密ね! 特に田中くんには。さっきのあれも違反行為の厳罰ものだから。彼には困ったもんだよ~」


 まさかの有料ッ! しかも意外と高い!!

 

 色々衝撃的過ぎてどこから突っ込めばいいのか。むしろ突っ込んでいいのか。


 そもそも週刊楓様通信を購読して大丈夫なのか。


 脳裏に過ぎる危険信号だったが──。


「とりあえずグループ招待するね!」


 ぐ、ぐ、ぐ、グループ?

 ひょっとしてそれってグループチャットと呼ばれる、あれですか!


「あれっ。おかしいな。夢崎くんが友達一覧に居ない」


 いるわけないよ!

 友だち追加してないもん!


「クラスのグループから探せばいっか」


 そんなグループがあったこと初耳だよ!


「ひょっとして、スマホ持ってない?」


 山本さんが辿り着いた答えはそこか!

 俺はポケットからスマホを取り出し山本さんに見せた。


「なぁんだ持ってるじゃん! じゃあ追加して!」


 途中からなんとなくこうなるのではと思っていた。思っていたけども! いざこの瞬間が訪れると感極まる……!


 高校入学して一年弱。初めて学校の人とID交換をしようとしている──!


 それも女子!

 しかもまさか初めての相手が、いつもプリントを回してくれる山本さんだなんて!!


 思えばフラグは立っていた。

 だっていつもプリントを回してくれる『神』だし!


 初めてが君で良かったよ! GOD山本さん!


 でもおかしなもので、追加してと差し出されたスマホの画面にはQRコードが映るのみ。ID追加ならわかるけど……。


 ……どうするの、これ?


 いやいや。ネットで調べるんだよ! 早くしないと。急げっ! 急げよ俺!


 《友だち追加 QR 方法》ポチッとな!


「どーしたのっ?」


 だ、だよねぇ……。

 こんなのきっと、すぐに終わる作業……。


「実はその……初めてでやり方わからなくて……」

「うっそ? もう高二だよ? 一回もしたことないの?」


 恥ずかしながらも首を縦に下ろす。


「じゃあ教えてあげるっ!」


 この人はやっぱり神だ!

 

 手取り足取り山本さんから教えてもらっていると、かなり良いところで、その手が止まる。


 どうしたんだろうと思い、顔を上げてみると山本さんはスマホ画面を見ていなかった。


 その瞳からはきゅんが映し出されている。当然のことながら俺を見ているわけではない。


 …………ん?


 と思うと同時に、神々しい真なるフレグランスの香りが、鼻を包み込む──。


「あら、とっても楽しそうね? 私も混ぜてくれるかしら?」


 殆ど真横に、振り返れば頬が当たってしまうほどの距離に、真白色さんが居た──!


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