20. 子供に優しい保育士
寝過ごしてしまって一時間ほど遅れてしまいました。
日付が昨日の内に更新できず、申し訳ありません。
施設に足を踏み入れると、エプロン姿の中年の女に声をかけられた。
「あんた達、何の用!? 悪いけど、ここは観光名所じゃないのよ! まったく、これだから外国人は!」
ヒステリックにわめきちらす。
いきなり訪ねてきたこちらにも非はあるが、この歓迎の仕方はあんまりだろう。
「俺たちはシャルカっていう子に用があってきたんだ」
セレナたちはドイツ語を話せないので、俺が代表で要件を伝えた。
すると、ここの職員とおぼしきそのエプロン姿の女はますます不機嫌になって、
「シャルカ!? あのくそ生意気な子になんの用があるっていうの!? 名前を聞くのもたくさんよ! 仕事の邪魔だから出て行ってちょうだい!」
と、金切り声で外を指差した。
どうやらこの女はシャルカってやつに随分と手を焼いているらしい。
しかし、だからといってこいつの態度はどうだろう!
俺たちの目の前で不機嫌そうに怒鳴るこの女は、だらしのないメタボ体系で、顔も老け込んでいる。
お世辞にも美人とは言えない女だ。
おそらく、子供の頃から自分の醜い容姿を他人にからかわれていたのだろう。
そのせいか、自分より弱い者に対してはこんな風に強気な態度でマウントをとろうとする。
愚かで馬鹿な女の典型だ。
こんな奴が孤児院で働いているなんて、ここの施設の子どもたちは災難だな……。
「つまり、お前は俺たちをシャルカに合わせるつもりはないと?」
「そうよ! これでも私はここの責任者ですからね! 怪しげな外国人たちを施設の子供に会わせたりなんかしたら、上になんて言われるかわかったもんじゃないわ!」
どうやらこの女の中では「子供たちの安全」よりも「自己保身」の方が優先らしいぜ。
「悪いが、俺たちも遊びでわざわざドイツまで来ているわけじゃないんだ。会わせないっていうなら、強硬手段を取らせてもらうぜ」
そう言って、俺はペンダントをステッキに変形させた。
「な、何を……?」
「〝ルーナ・インスディラム!〟」
呪文とともにステッキの先から出る黒い光線。
それを浴びた施設の女は文字通り、茫然自失の状態となった。
「わ、私は一体……?」
「貴様は〝子供に優しい保育士〟だ! 俺たち子供を愛し、俺たちの言うことなら何でも聞いてしまう!」
「……っ! そうよ! 私、子供が大好きなの! さぁ、みんな、私にできることがあれば何でも言ってちょうだい!」
「俺たちをシャルカって奴に会わせてくれ。日本から来た友達なんだ」
「もちろんよ! さぁ、ついてきて! シャルカの部屋に案内するわ! ルンルンル~ン♪ 私、子供大好き~♪」
女は先ほどとはうって変わって上機嫌になり、鼻歌交じりにスキップまでしはじめた。
やはり新魔法〝ルーナ・インスディラム〟はこの上なく便利な魔法だ。
これで今まで以上に戦略に幅が出る。
ハイジャッカ―どもや空港職員どもと同じように、この女も〝俺の奴隷〟にしてもよかったんだが、こっちの方がこの施設の子供たちにとっては幸せだろう。
良い事をした後は気分がいいぜ。
☆☆☆☆☆
職員の女は俺たちを二階の一室の前まで案内した。
「ここがシャルカの部屋よ。最近は体調が良くないみたいでずっとベッドで横になっているの」
「そうか。ご苦労だったな。もう下がっていいぞ」
「そう? じゃあ、私は下にいるから、何かあったら呼んでね。子供たちにおやつを作ってあげなきゃいけないの」
職員の女はそう言って「ルンルンル~ン♪」と鼻歌を歌いながら階段を降りていった。
「すごい効き目ですね……。ルナさんのルーナ・インスディラムは……」
セレナが苦笑した。
「ホントホント! あの意地悪なオバサンが、まるで別人だよ!」
と、ミノリ。
「少し怖いくらい」
そう言ったのは澪だ。
まあ、ミノリはともかく、澪は「自分がもしもルーナ・インスディラムをかけられたら……」なんてことを想像しているに違いない。
同盟を組んでいるとはいえ、一応別の国の魔法少女同士だからな。
こういう場面でも、お互いの力の探り合いはしておくのが当然というやつだろう。
ただ、ルーナ・インスディラムを澪やミノリに使って俺の手下にするのが得策かというと、おそらくそうではないだろう。
俺の〝奴隷〟にしたところで、あのハイジャック犯や空港職員たちのように、自分では何も考えられない盲目的な奴隷になるのが目に見えている。
そんな奴隷と化した奴に、実践的な戦闘が行えるとはとても思えない。
作戦遂行の役に立つどころか、不用意に敵に突っ込んだり、敵の攻撃から俺の身を守る盾になったりして勝手に死んでしまうのがオチだろう……。
この魔法を対魔法少女に使うとしても、指定する〝属性〟の内容はうまく考えないといけないな……。
まあ、ルーナ・インスディラムのことは後回しだ。
今はこの扉の向うにいるシャルカという少女のことさえ考えていればいい。
もしも彼女が本当に〝13人目の魔法少女〟だったなら、その時は何としても俺たちの仲間にしなければならない。
「よし、いくぞ……」
俺は深呼吸をして息を整えると、その部屋の扉をノックしたのだった……。
次回の更新は一週間後を予定しております。




