43. 決着
俺の仕掛けた罠にはまり、リカとバーナードは死んだ。
後は残ったマキを殺すだけ……。
「リカ! リカァアアア! 」
マキは血相を変えて、一心不乱にリカの氷漬けの死体へと駆け寄った。
マナ・クリスタルが放出されている以上、もうリカが生きていないのはマキも承知済みのハズだが……。
「あの子、可哀想……」
なゆたがポツリと呟いた。
今、俺は彼女の箒に二人乗りをしているから、その声を聞き取ることができた。
「可哀想? マキの奴が?」
「うん。友達が死んじゃうのは誰だって悲しいよ。ねえ、ルナちゃん。本当に殺すしかなかったのかな? これだけの戦力差だったら、あの子達だって説得すれば私たちの仲間になれたんじゃ……」
「お前って奴はどこまでもお人好しだな。その性善説的な考え方を改めないと、その内ひどく後悔することになるぜ」
「そんなこと無……」
「見ろよ。アレがあいつの本性だ」
「っ!」
俺が指差す方向を見て、なゆたは目を見張った。
友の死体の方に駆け寄ったかに思えたマキだったが、リカの亡骸には目もくれず、その横を素通りした。
そして向かったのは、岸辺に乗り付けたモーターボート。
マキはそれに飛び乗ると、すぐにエンジンをかけ、闇夜の海に逃走した。
まあ、人数の差以前に、あいつの壊れたステッキでは魔法が使えないからな。
この状況で残された手段は逃走しかあるまい。
「ひどい……。友達の亡骸を放って自分だけ逃げるなんて……」
なゆたは怒りに肩を震わせた。
「あの子、許せないよ! 捕まえてお仕置きしなきゃ、気がすまない!」
「だったら、早く追いかけようぜ」
もっとも、俺がこれからするのは〝お仕置き〟じゃなくて〝処刑〟だがな……。
☆☆☆☆☆
海は夜の闇に包まれていた。
海上には、逃走を図るモーターボートが一台。
跡をつけられないよう、マキはボートのライトを切っていた。
「……エンジン音は流石に消せないが、この広い海の中を探すのは一苦労だろう。不規則に動き回って、しばらくしたらどこかの海岸に乗り付ける。そこからは走るなり、タクシーを拾うなり、電車で逃げるなり、行方をくらませる手段ならいくらでもある。そうなれば、奴らにアタイを捕まえることなんて不可能だ。にしても……」
マキはギリッと悔しげに歯を強く噛んだ。
ハンドルを握る手にも、思わず力が入る。
「ルナの奴……、まさかあそこまでの策士だったなんて! 精霊を隔離することで相手の動きを封じるなんて、あいつは精霊を〝マナ・クリスタル回収装置〟か〝魔法少女製造装置〟くらいにしか考えていない! そうでなければ、あんな作戦は普通思いつかない! アタイやリカでさえ、多少扱いは悪かったかもしれないが、バーナードの奴をあくまでも〝生き物〟として扱ってきた! でも、ルナは違う! あいつは精霊を〝道具〟だと思っている! 初めて見たよ、本物の外道って奴を! だが……」
マキはニヤリと頬を綻ばせた。
「ルナは一つミスを犯した! いや、このミスをしたのはあの氷の魔法少女の方だったかもしれないが、奴らはリカを殺すと同時にバーナードも殺した! これにより、アタイはあの場から逃走することを許された! なぜなら、バーナードが死にさえすれば、精霊界から新たな精霊が派遣されるため、その精霊を使ってマナ・クリスタルの回収、新たな魔法少女の任命ができるからだ! アタイはまだ負けちゃいない! これからどんどん領土を増やして、必ずアイツらに復讐を!」
ドガッ!
突然、モーターボートが何かにつまずいた。
「え――」
慣性の法則により、マキの身体が宙に投げ出される。
「くっ!」
咄嗟に受身をとったが、マキの頭の中に「?」が拡散した。
「ちょっと待て……。何でこんな海のど真ん中でボートが座礁するんだい? それに、アタイは今、どこに立って……?」
恐る恐る、マキは自分が立っている地面(?)を触った。
ひんやりと冷たい。
「氷……!? 馬鹿な! 北極や南極じゃあるまいし、この季節の日本で海が凍るなんて……!」
「罠にはまったネズミっていうのはお前のことを言うんだろうなぁ! マキィ?」
頭上から、悪魔の声が降ってきた。
「ルナァ……!」
「お前がボートで逃げることは予想していたさ。だから澪に頼んで、予めここいらの海を凍らせておいた。逃げ場がないよう、陸地を囲むようにしてな」
「ははは! まいったねぇ! あんたにゃ適わないよ!」
マキは大の字に身体を広げた。
諦めたのではない。
この場を切り抜けるべく、最後の賭けに出たのだ。
「(氷の魔法少女の国がリカのマナ・クリスタルを得た以上、アタイを殺すのはメルヴィルの国の誰かだ! どうやったかは知らないが、同盟を結んだ以上、マナ・クリスタルは山分けにするハズだからねぇ! そしてルナの性格を考えると、トドメは自分が刺そうとするだろう! さっきの戦いで奴の魔法は全て見てきた! 飛行魔法のビアブルムを除けば、奴がアタイを殺す手段は三つ! 蛇の魔法で絞め殺すか、石化魔法で首から下を固めて海に放り込み溺死させるか、闇の魔導波で吹き飛ばすか、だ!)」
マキにはルナの最後の攻撃をかわす自信があった。
「(蛇に石化光線に魔導波……。攻撃の軌道は全てこの目で見てきた! どれが来ても攻撃を喰らう前に海に飛び込み、沈んだフリをして泳いで逃げ切ってやる! 素潜りなら自信がある! さあ、どれで来る、ルナァ! どれが来てもアタイは逃げ切って見せるよ! アタイはまだ死ぬわけにはかないのさ!)」
☆☆☆☆☆
マキがボートで逃走した後、俺となゆたはそのまま箒、澪は浮遊魔法、セレナと来果はそれぞれビアブルムを唱えて跡を追った。
陸地を囲むように弧を描いて海を凍らせたので、マキはどこかの氷上に座礁しているハズだ。
案の定、マキを見つけるのは簡単だった。
追い詰められたマキは両手を広げ、無抵抗をアピールする。
こいつがそう簡単に諦めるわけがない。
おそらく、マキはトドメを刺すのは俺だと読んでいる。
そして、さっきの戦いで見せたどの魔法が来ても逃げられるよう、頭の中で必死にシミュレートしているだろう。
追い詰められたネズミの手ほど読みやすいものはない。
だが、俺にはまだ奴に見せていない魔法がある!
これで終わりだ!
「マキ、お前に俺の五番目の魔法を見せてやる」
「何……!」
マキは虚を衝かれたように目を見張った。
「っ! そうか! ルナさんのステッキには あの魔法が!」
セレナが何かに気づいたように言った。
「ルナ先輩の手でこの戦いを終わらせてください!」
来果が俺に声援を送る。
「…………!」
「ルナちゃんは一体どんな魔法を!?」
澪となゆたは俺の繰り出さんとする魔法に興味深々のようだ。
澪! なゆた!
よく見ていろ!
これが俺の切り札だ!
「〝ルーナ・モルテム!〟」
想定外の魔法に一瞬反応が遅れたマキは、俺のステッキから発せられたドス黒い光線をまともに浴びる。
「ぐあっ――」
氷上に倒れたマキの体からは、七色に輝くマナ・クリスタルが浮かび上がっていた。
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