新章 第十二話 聖女でも、フルスイングします!
王都の手前の領主の町、オルバスの入口で私たちは敵に囲まれた。第五王子から情報が回り、指名手配されたみたいだ。状況はあまり良くなかった。
「大人しく投降せよ。抵抗すれば撃つ」
魔物の侵入を阻む防壁の上から弓矢を構える兵士の姿が四十名程もいた。
ご丁寧に騎馬の部隊が私たちの裏に回り込み、逃さない構えを取っていた。牽制をかけながら、左右にも部隊を展開して包囲を厚くする。
「全部合わせて、およそ三百名以上の武装兵。あと町にいるのはわからないよ」
グラルトが戦闘型人形の探知能力で、おおよその人数を測って小声で伝えてくれた。
「三百もいたの。数が多いのね」
「町の中にもいるのなら、倍近くいると考えるべきね」
咲夜と七菜子がボソボソと会話する。勝てない相手ではないと思う。ただ、見えない敵から感じる魔力が強い気がする。
ハープとスーリヤがグラルトとホロンを守るような形にゆっくり動く。私と咲夜は七菜子を守る。
戦闘になる覚悟はしていた。相手も私たちの動きに気づいたようだ。
「ハープ、盾!」
私たちを狙って一斉に弓矢が放たれた。スーリヤが叫び、ハープが魔法の防壁を展開する。
「五本程、魔力がこもって強いよ」
消耗魔力を抑えるために、ハープの防壁は完全な魔法障壁ではなく、威力減衰タイプのものだ。魔法で強化の加わった矢は傷を負う可能性があった。
再び弓矢が放たれた。次は包囲陣と連動している。
「問答無用で殺す気じゃない!」
魔法障壁を抜けて来た矢ごと、駆けて来た騎馬の部隊へ拳を叩き込む咲夜。力の乗った拳は矢を弾き、馬を倒した。
「七菜子! 間に入られないように聖奈と距離を縮めて」
乱戦に持ち込まれて孤立させられると、七菜子には厳しい。
「うがぁ〜、無理だよ! 多すぎる」
攻撃は咲夜と私に任せて七菜子は守りに徹している。
「先に三人を破れ」
「剣士は囲んで挑まず封じろ!」
敵は敵でこちらの戦力を把握して、攻撃力の高いスーリヤを集中して抑えこみにかかる。
「ちょっと強くない?!」
「七菜子うっさい!」
ならず者達とは違い、組織的に訓練されている。ハープが守りの障壁を強めてくれていなければ、怪我してもおかしくない攻撃ばかりだ。
咲夜も私も防戦一方だ。唯一戦えていたスーリヤによって囲む兵士達が少しずつ削られ倒れてゆく。
あちらは消耗が狙いだ。防壁の内側にはもっと強い部隊がいると見て間違いない。弱みを見せると、たった七名の女子供が相手でも容赦なく押し迫るだろう。
馬上から振り降ろされる槍を防ぎ、斬りつけてくる大剣を弾くハンマーを持つ腕が重い。私が挫けては、七菜子のやつを支えられない。
「聖奈、回復!」
攻撃の激しさが増して、囲いが緩むと思うと矢の雨が降ってくる。じわりじわりと削られ、体力的に弱る七菜子が傷を負った。
「キツイけど耐えて」
切り札の咲夜の両親召喚は、新手の強者のために残して起きたい。七菜子もバジリスクは護衛につけてしまったので呼べない。
舐めていたつもりはないけれど、戦える自信はあった。でも人形のような魂の抜けた兵士と違い、生きた兵士の殺意は、ゴブリンの生き足掻く殺気と同じだった。
強気な七菜子が、その強い殺気に充てられて動けない。虫けらを潰すような、邪神の殺意とは違う。
「私の事はいいから、回復は咲夜のために使って」
聖霊人形の身体は傷つけば出血するし、無駄に痛みを感じる。錬生術師のカルミア死なない限り、復活は出来ても魂はすり減る。私は魂を削り過ぎて次はないかもしれない。それでも咲夜の為なら生命を張る。
「格好つけるくらいならビビってないで身体張れっての!!」
治癒集中全開で七菜子の精神ごと癒し、鼓舞した。
「大嫌いだけど、咲夜を思う仲間だ。こんな所で死なせるもんか!」
敵兵の攻撃をハンマーで弾きながら、七菜子への怒りを治癒に変えてぶつけてやった。
「咲夜の隣にいたいなら、敵の一人でも道連れにしてから死ねっての!」
しおらしい七菜子にムカつく。おかげで折れかけた私の心に、逆に火がついた。
「はぁ? あんた頭おかしいでしょ?!」
憤慨した七菜子も精気を取り戻し、斧を振るう。私に罵声を浴びせながら、ようやく腹黒い委員長の七菜子らしい力を発揮する。
咲夜は呆れたようだが、私達が戦線を築き直した事で、背中を預け攻撃に転じる。
咲夜と私達、ハープやスーリヤ達がひと塊になり二つの鮮血の渦を巻く。開き直った私たちは強いんだ。ゴブリンの巣穴に裸で放り込まれた時に比べれば、戦えているだけマシ。
握るハンマーに力を込めて、七菜子の切り落とした敵の首を防壁の弓兵にぶつけてやった。聖女のやる事ではない? そんなの知ったことか。
「聖奈‥‥あんた恐ろしく肝が座ってるのね」
「助けたいのは仲間であって敵ではないもの」
ハンマーを振り被り、敵の身体ごと宙へ吹っ飛ばす。後のことなんか考えてられない。私は咲夜の背を死に物狂いで守ることだけ考えた。結局、私にはそれしかないからね。




