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新章 第七話 聖女のライバル達は、邪神の申し子


 叩き潰して気絶した連中を街の小広場に集め、ホロンが嬉々として縛っていた。嗜好が変なのは元々の性格なのか、皇子(信吾)と愛するようにカルミアに歪められたせいなのかはわからない。


「人数だけ集めた下っ端みたいね」


 現場の実行部隊って所なのかな。戦闘になったおかげで、おじじの自慢話から解放された咲夜が、装備していた武器を興味なさそうに回収する。普通の武具店や鍛冶屋にあるものだ。潮風で錆びてはいないみたい。ろくに研いでいないから、切れ味はあまり良くなさそうなものばかりだった。


「バカね、よく見てみなさいな。海中で振るうのに、刃の尖端に重心があるわよ」


 スーリヤに言われて、咲夜が剣をかざす。よく見ると先端が鈎爪のようになっていてバランスがおかしい。海中でも使う事を想定していたみたい。咲夜と同じで私も雑に武器を見ていたのが恥ずかしくなった。


「海に落ちた時に剣を手放さなければ、引掛けて登りやすいね」


 材質も錆びにくいものを使っていそうだ。咲夜と七菜子が不思議そうに武器を回収して、スーリヤが収納送りにしていた。


「さて、質問タイムだね」


 七菜子が、何故か指を鳴らしてウキウキして言う。怨嗟の声をあげて呻く男達の言葉など、まったく気にしていないみたいだ。


 何名か逃げ出したので増援が来るかもしれない。救出に来たのに暴れて騒動引き起こしてどうする‥‥って誰もツッコミを入れない。


 時間をかけて正当な手続きを踏んで、ギルドなり国の役所なりに話を通して回ればトラブルは減る。でも時間がない。情報を集めるために、駆け引きしている間に、全滅してしまっては元も子もない。


「手っ取り早く情報買う予算はないからねぇ」


 悲しい現状をハープが呟いた。ギルドを作ってお金がないのって、会社を立ち上げたけど、運転資金がなかった‥‥みたいな感じなのかな。


「エグいのいくよ、ホロン。この男の痛みを、そこの身なりの良い服のやつに移す呪いをかけて」


 七菜子が捕らわれて騒ぐ男を蹴る。ホロンに呪術を使わせて何をする気だろう。咲夜やスーリヤは尋問は苦手だからと、私と七菜子に任せてきた。二人は増援への警戒にあたる。お人好しのハープは初めから除外だ。彼はグラルトと捉えたもの達の見張りをしてくれた。


「さてさてお兄さん達、このナイフは貴方達が身につけていたものだから、切れ味はわかるよねぇ」


 うつ伏せにされ、仲間の身体で抑えつけられ縛られた男に、七菜子は可愛らしい顔で微笑む。私とホロンを見て、男はまだ余裕そうに下品な表情を浮かべた。


「嬢ちゃんたち、強いねぇ。ただやり過ぎはよくないな。いまなら笑って許してやれるから、皆の戒めを解こうや」


 七菜子の見たて通り、潰された男はろくでなし達のリーダーみたいだ。肝が座っていて、負けたのは油断したせいだと考えてそうだ。


「それもあるけど、裏にいるのが相当強い証よ」


「あんた、少し前までただの女子高生だったよね」


「私が何年この世界で生きて来たと思う? 創世からよ、創世」


 邪神と一つの器に魂を共生していた七菜子の言葉は、あながち間違いではない。ただ殆ど眠っていたよね太古の邪神って。


「二人とも遊んでる時間ないよ」


 咲夜にはわからなかったみたいね。この状況下でも強気な口を利く男の余裕ぶりが何から来ているのかに。ホロンに呪いをかけさせようとしているの者の服装が、この連中のなかで一番お金がかかっていそうだってことに。


 七菜子が陰険なのは知っていた。でも‥‥ホロンにためらいなく呪術を使わせると思わなかったよ。


 口のよく回る男は、身なりの良い坊っちゃんの御目付役かもしれない。たまたま近くにいたわけでもなさそう。まだ酷い実害がないから余裕の表情を崩さない。


 私、七菜子、ホロンの三人はどう見てもお子様なのも舐められる理由だろう。異世界だから、カルミアの仲間のエルミィのようなエルフなど、長寿の人族だっているのに。単純に、体格差で見縊られたのかも。


 それに七菜子の指摘するように、後ろ盾をあてにしているのかもしれない。刑事ドラマでそういう裏社会のボスとか見た事がある。港街の人々の様子を見る限り、教育は熱心に行われているようだから。


「強がるのはいいけどさ、どこまで耐えられるのか見ものだねぇ」


 七菜子は男の様子を見てさらに口元を広げて笑った。凄く楽しそうだ。邪神の邪悪さまで受け継いだ⋯⋯というか、それが七菜子の本性だ。にっこり笑顔で、うつ伏せ状態になって、身動き出来ない男の肩へとナイフを突き立てた。


「────!?」


 男は一瞬顔を顰めた。自前のナイフは海中用の剣と違い、切れ味抜群だ。七菜子の華奢な腕でも、男の肩の肉を裂き、骨を打ったのだ。


「‥‥ハッ、嬢ちゃんの力じゃ、傷つけても痛くも痒くもないな」


 血は流れるものの、痛みがないので男の余裕な態度は崩れなかった。


「にひひっ、腕ならどうかな〜」


 道化た演技なのだろうけど、七菜子がやると似合い過ぎるよ。眼の前の男に夢中で、離れた所で様子を覗う咲夜に、引かれてるのに気づいていないし。


 七菜子は積み重ねた男達を蹴散らし、強気な男の縛り上げられた身体を転がす。


「聖奈、そいつをそこに運んで」


 七菜子の指示で私は、苦痛に呻く身なりの良い男を、わかりやすいように引きずり出した。喚けないようホロンが口へ猿轡をしていた。


 縛り上げられながらも、七菜子に対して余裕の表情を浮かべていた男の視界に映るように、私は坊っちゃんらしい男を引きずって横たわらせた。


「じゃじゃあーーん、もっかい腕にいくよ〜〜〜」


「!?」 


 七菜子が間の抜けた声を出して、強気な男の腕を刺した。ホロンの呪術は無駄に完成されていて、血だらけになっても刺された男が痛みを感じることがなかった。


 しかし、私が引きずって来た男は違う。猿轡をかまされ声を上げられない状態で、明らかに苦痛で悶える。声ならない声をあげる。強気な男の痛みだけが、呪いで伝わっていた。


「どうかなぁ? お兄さんの痛みはぜぇんぶお友達が引き受けてくれるのよ。心臓を一突きにしても痛くないから安心してね〜〜」


 何故かホロンまで嬉しそうにケタケタ笑っている。七菜子もホロンもただのヤバい人みたいだ。というか、悪者達より酷い。七菜子はザクザク適当に男を切りつけ、痛みを転嫁させた。


 強気だった男は、痛みのない理由を知って言葉を失っている。人狩りの部隊をまとめていたらしき強気な男の動揺を、七菜子は見事に誘い出してみせた。


「私たちはこの地に人を探しに来て、ついたばかりなんだ。お兄さん達はさ、いっぺんに数十人もの人を攫ったりしないよね?」


 ニコニコしながら、七菜子は呪術をかけた男の眼の前に、血まみれのナイフを見せる。今の痛みは呪術で肩代わりされているだけ。術が解ければ痛みも傷もいっぺんに男を襲う。その前に痛みのないまま出血死するかもしれない。


 エグいやり方。七菜子って本当に女子高生? やはり腹黒さは素だろう。でもネフティス皇女と太古の蛇神と肉体を共有していた時に、よくない影響受け、パワーアップしたのかもしれない。


 こういう連中のあしらい方に慣れてる現役女子高生って、どうかしていると思うよ。情報の真偽は別として、おかげで情報は簡単に聞き出せた。


「聞きたいことは聞けたから、始末しようねお兄さん達」


「ま、待ってくれ。情報を吐けば全員解放する約束だろう!?」


「全員解放するわよ。襲われないように動けなくしてからね?」


 何を当たり前の事を聞くのだろうか。そう七菜子の顔が物語っていた。


「その身なりのいい服の男の親が、ボーゼン伯爵といったわよね。裏切った野盗にやられた事にして、首は届けてあげるから安心してね」


 ニコッと笑うと、どかした男のうちの一人の首にナイフを突き立てた。ホロンがその男にも呪術をかけていたため、痛みは伯爵の息子へと向かう。坊っちゃんは、呪術の幻覚の痛みで、ショック死するかもしれない。出血死に至るであろう激しい激痛に目が完全に逝ってしまってる。痛覚の伝播だけで悶絶死するだろう。刺された男達も傷が深く、術が解けた際に確実に死ぬはずだ。


 恫喝が通じない、そうなると強気な男に取れる手段は潔く死ぬか、みっともなく命乞いをするしかなかった。


「ホロン、準備はいい?」


「ボクの方は大丈夫だよ。残り全員に、同じ傷を与えられるよ」


「ちょっ、何をさせたの────」


 七菜子とホロンの暴走が止まらない。二十六名の下っ端には、ホロンがまとめて痛みの共有の呪いを掛けた。ブーレイと名乗った強気な男と痛覚をリンクさせたようだ。


「泣いたって許さなかったのでしょ〜? ならさ、痛みと報いを受けて然るべきよね」


 もうしない、そう口にするブーレイという男の右の太ももに、七菜子はニヘラ〜っと恍惚の表情でナイフを突き立てた。


「────グワァァァッ!!」


 縛り上げられた男達から一斉に呻き声が上がり、見張りをしていた咲夜にハープやグラルトがビクッとした。


「お〜っ、成功したよ。やるじゃん、ホロン」


 痛みに呻く男達の前でハイタッチを交わす二人の美少女姿の少年。同じく少年にされ聖女扱いの私でも頭がおかしくなりそうだ。


 街の人の反応を見る限り、倫理感は私達の世界と近いはず。悪い奴らを懲らしめているのに、七菜子とホロンの陰悪さが勝ってみえるのは気のせいかな。


 痛みに呻く男達。先に別の呪いで悶絶し、気を失った伯爵の息子にもダブルで呪術をかけているあたり、容赦ない。もう絶命させてやりなよ、そう言わずにはいられない。


「さて、お兄さん。とどめといきたい所なんだけどさ⋯⋯ここにいる聖女さまが、とてもとても慈悲深い方なの。わかるよね?」


「えっ?」

「はっ?」


 私とお兄さんと呼ばれたブーレイの声が被った。


 私は七菜子に抗議しかけて止めた。七菜子の企みがわかったからだ。咲夜はともかく、ハープやスーリヤが止めないのは、七菜子の案に乗るつもりだからだろう。


()()様なら、はるばる異国からやって来た聖女さまを蔑ろにはしないはず。聖女さまの御慈悲を前に、寄付だってはずみたくなるものよね?」


 そう言いながら、別の足をグッサリ刺す七菜子。悲鳴が再び周りの男達から上がる。


「わ、わかった。伯爵様には俺から話を通しておく。だから‥‥助けてくれ!」


 ブーレイが声を上げる。しかし七菜子はその腕を刺す。徹底している。頼む相手が違うということだね────って、それ治すのまさか私ってこと??

 

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