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序章 第二十二話 聖女とか関係ない────私は咲夜を守るだけ

 まるで皇子(信吾)を助けるかのように、戦場の天井が崩れ落ちて邪竜の巨体が落ちて来た。ノヴェル達が戦車から飛び出し、仲間たちを大地の石柱で急遽守ったおかげで被害は少ない。


 咲夜と私はズシンと大きな揺れに跳ね飛ばされた。立ち込める煙が視界を悪くし、皇子達や魔物も混乱しているのがわかった。


「先輩、みんなを退がらせて。長くは持たない」


 カルミア達は結界が厚かったので無事のようだ。結界師ファウダーとノヴェルの魔法でも、百メートルはありそうな巨大な生物の重さに耐えきれない。押しつぶされる前に安全な場所に集合し、比較的敵の薄い地点へと逃げた。


「聖奈、怪我は?」


「大丈夫。咲夜は?」


「あたしはおじじ達のおかげでかすり傷一つないよ」


 よく見ると咲夜は潜入者用仮面(サーチャーズ・マスク)と名付けられた怪しい黒い仮面をつけていた。


「……悪い事に使うやつじゃん、ソレ」


「見た目はともかく土埃の中でもの見やすいのよ」


 咲夜のつけていた仮面は粉塵や毒の霧や水中などでも視界がクリアになる。また呼吸も出来る優れた魔法の道具だった。難点は視界が狭まること。そしてそれが致命的な状況を生む────


 ────咲夜の隙を、皇子がお返しとばかりに突いた。ドス黒い火の玉のように皇子が咲夜の背後から襲撃する。


「咲夜危ない!」


 私はとっさに咲夜を庇うように体当たりをかます。皇子の振るう凶刃により私は切り裂かれた……。


「聖奈!!」


 ────薄れゆく意識。


 油断を突いた皇子(信吾)はそのまま咲夜にも襲い禍かる。


 ────動け、私の身体!!


 無慈悲な現実。咲夜と、強力な魔力の援護を受けた皇子(信吾)では力量差が開き過ぎていた。


 怒りに震える咲夜の動きが鈍る。そこにさらに悲劇が続く。


「グハッ」


 あのひと(カルミア)が刺された。


 カルミアの胸を貫く刃の元凶は、彼女の背後から現れたネフティスという皇女────七菜子だった。


「あれ、おかしいわね。魂を砕いたはずだったのに」


 皇女(七菜子)……じゃない、別な雰囲気を持つ声の主。


 崩れ落ちるカルミアの身体を、いつの間にかレガトが受け止めていた。巨大な邪竜が落ちて来た事で、彼らも戦場の立て直しにせまられたようだ。


 あぁ、レガト(父親)がいるならカルミアは大丈夫だ。咲夜もきっと守ってくれる。


 咲夜と私はお互い嫌いあったこともあるけれど、この世界にやって来た事で仲直り出来た。


 私と七菜子も反りが合わなかったけど協力して仲良くなれたかもね。


 咲夜が怒りに震えながら涙を流している。馬鹿だね、咲夜。戦場で泣いてちゃダメだよ。


 七菜子は乗っ取られ操られてるだけだから、責めちゃダメだよ。


 泣くくらいなら私の代わりに信吾をきっちり仕留めてちょうだい────


 ────もう私には魂の力が残っていない。咲夜に何度もぶっ殺された時は、すぐにカルミアが蘇生させてくれたから死ぬ間際の記憶は殆どなかったっけ。


 いまは────ゆっくり意識が途絶えていくのがわかる。


 殺されても文句言えないって思っていたけど……死にたくないなぁ。でも約束は果たせたかな。生命を賭して、私にも咲夜を守る事が出来たから────


 ────咲夜……私の聖女として受けた魔力の全てをあげるから後は任せたよ……。


 ……私は死にゆく身体に残る魔力の全てを託すために、咲夜へとぶつけた────。


 ◇


 ────その後の事はあとで咲夜から聞いたものだ。……そう、私は咲夜から話しを聞いている。つまり私は生き返ったわけだ。なんで? どうして? 


 疑問を浮かべる私のために、咲夜に憑くおじじ達が咲夜の下手くそな説明を補正して、咲夜に語らせていた。


 奇襲によって咲夜を仕留め損なった皇子は、咲夜との戦いの中でかなり下卑た話しと共に、私をとことん辱めた。そして隙をついて何度も死んだ私の身体を剣で刺したらしい。


 元の世界では犯されて殺され、この世界では死んでからも冒涜される。咲夜の冷静さを失わせる作戦でもあったみたい、


 だけど信吾は知らないんだ。咲夜は我が儘で、本当は所有欲が強いんだって事を。


「聖奈の悪口を、言っていいのはあたしだけ。腐れ縁でも幼なじみなんだから」


 咲夜はそう言い放った。決して仲良しじゃない。ただの幼なじみ。お互いに嫌いあって、クズ男(信吾)を取り合って、痛い目を見たせいで二人揃ってこの世界にいる。


「悔しいか、泣け。みっともなく泣け。親友を助ける事も出来ず惨めに泣いて赦しを乞えば、一生飼ってやるぞ」


 最低男(信吾)の罵声と煽りに、咲夜はよく耐えたと、私は話しを聞いて感心した。ムカつくけど実力さがあり過ぎて、咲夜は涙が溢れていた。


 あいつは性根が腐ってる。私を執拗に嬲るのも、咲夜が悲しみ苦しむのを楽しむためだった。咲夜もわかっていたけれど、足掻いて勝てるならとっくに倒していた。


「その状態から、どうやって勝ったの」


 皇女ネフティス(七菜子)に潜んでいた蛇神というのがカルミアを刺した。レガトのおかげでカルミアも私も助かった。でも学校の校舎くらいありそうな大きな邪竜や蛇神をどうやって倒したんだろう。


「ふふんっ、聖奈にも見せてあげたかったよ」


 咲夜が鼻を鳴らした。中身が残念とわかっているから、勝ち誇られてもウザ可愛いだけだ。


 あの傲慢皇子セティウス(信吾)に咲夜が勝てたのはカルミアの秘策のおかげだ。


 咲夜に憑くおじじ達は咲夜の知識を補うだけではなかった。咲夜の身体強化を行ったり、強力な魔法や召喚まで出来た。咲夜の危機に使えるらしい。でも驚いたのはそれだけじゃなかった。


 ────白銀の甲冑のような鎧を着て、重そうな大斧と強靭な槍を持つ男女が咲夜の目の前に現れたのだ。


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