紅一点
「ほんと忙しないわね」
「俺だって何もしなくていいならそうするさ」
ジケは呆れ顔のエニに肩をすくめる。
「そうですよ! 最近のジケ君は忙しすぎると思います!」
エニとはまた別方向の意味でリンデランが同意する。
「確かにね。朝ぐらいだもん、会えるの」
ウルシュナが腕を組んで頷く。
「どーいー!」
「そーだ、そーだー!」
タミとケリが冗談っぽく怒る。
「うんうん、もっと私といる時間を作るべきだね!」
ミュコはジケの手に腕を回して、ギュッと体を寄せる。
「私も〜!!」
ピコがミュコの真似をしてジケに抱きつく。
「あっ、ズルいです!」
「へへん! 今は私が隣だもんねー!」
今ジケたちは馬車に乗っている。
メンバーはジケとエニに加えてリンデランとウルシュナとタミとケリとミュコとピコである。
女子の中に男子一人。
紅一点とでもいうのだろうか。
ジケの隣にはミュコとウルシュナ。
馬車に乗る時にジケの隣に誰が座るのかバチバチしたが、ミュコとウルシュナがその座を勝ち取った。
ミュコがくっつくと、ほんのりと甘い良い匂いがする。
ジケも少し顔を赤くする。
子供だけとはいってもこれだけの人数乗れば乗車人数オーバーで狭くてミッチミチだ。
みんなの距離がすごく近い。
「むー!」
「むむー!」
タミとケリが頬を膨らませて拗ねた顔をする。
「い、一応仕事で向かうんだからな……」
ジケはコホンと咳払いする。
今回馬車に乗っているのは女の子たちとイチャつくためではない。
ちゃんと移動する目的がある。
それも仕事の目的だ。
体拭き事業の拡大をオランゼは目論んでいた。
ゴミ処理事業はゴミを集めて処理する都合上、ゴミを集める場所を確保する必要がある。
自分の家の近くにゴミを集める場所ができるなんて誰でも嫌だろう。
まずゴミ捨て場を確保するというところに、特大のハードルが存在しているのだ。
だから他の町でゴミ処理事業を始めようと思ってもなかなか進展しない。
一カ所できて利便性が証明されれば多少ハードルは下がるのだろうけど、オランゼもなかなか苦労しているようだった。
「下見に行くんだからな」
その点で体拭き事業ならハードルは低い。
初めてのことで難色を示す人はいるだろうけど、ゴミ捨て場よりも受け入れられやすいことは確かだ。
今回ジケはその体拭き事業の候補地を見に行くことになっていた。
オランゼに任せてもいいのだけど、ちゃんと関わっておくことも大事である。
共同で事業を行う上での信頼関係というやつだ。
「そう言っても美少女に囲まれて幸せでしょ〜」
「まあ……それは、な」
ジケは照れたように笑う。
なのになぜみんながいるのか。
それはまずウルシュナから始まったのだった。
「ウチの領地が候補だったなんてね。お父様とお母様もジケんところの事業なら歓迎だしね」
今回見学に行く町は、ウルシュナの家であるゼレンティガムが管理している領地であった。
そのことをジケは知らなかった。
だけど朝のゴミ処理の時にいつもウルシュナとリンデランも一緒にいて、その時にふと話したらウルシュナのところの街だったというわけだ。
一応新しい事業を行う上で領主の許可は必須でなくとも、あれば心強い。
それでなんだかんだとあって、ウルシュナがついてくることになった。
そしてウルシュナがくるならとリンデランも来ることになり、リンデランが来るならタミとケリも、と連鎖した。
特に危ないところに行くわけじゃないし、じゃあみんなで行こうということになったのだった。
ちょっとしたお遊びである。
「まあ、私もお仕事みたいなもんだから!」
ウルシュナもただついてくるわけじゃない。
今回は領地の視察も兼ねていて、後ろの馬車にはルシウスも乗っている。
「あそこはねぇ……確かリンゴが美味しいよ」
「リンゴ!」
「食べたい!」
「ふふ、いったらみんなで食べましょうね」
「すりすりすりすり」
「ピコちゃん? そんな顔擦り付けることないだろ?」
「なら私も!」
「…………そんなんするなら隣代わるよ!」
「ははっ、賑やかなだな」
御者台に座るリアーネは笑う。
たまにはこんな時間もいいだろうとジケも笑ってしまうのであった。




