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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第二十章

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丸く収めるには1


「私のそばを離れないでくださいね」


「すっかり騎士になっちゃって」


「あ、いえ、そんな……」


「いいって。男は誰でも誰かの騎士になるもんだ」


 シャドウ男を始めとして、エルオアを誘拐しようとした男たちを倒した。

 話を聞くために何人か生かして連れてきている。


 ユディットはエルオアを男たちから遠ざけ、エルオアはユディットの後ろに隠れるようにしている。

 ジケも自分が普段から女の子と距離の近い感じになっている時があることを自覚している。


 周りから見たらこんな感じなのかもしれない、と今初めて思った。

 ユディットがいつも呆れたような顔をしていた理由もわかった。


「おーい、みんな!」


「あっ! 戻ってきたよ!」


 馬車が見えて、ジケが手を振る。

 エニが気づいて手を振りかえす。


「怪我はない?」


「ないよ……」


 エニがジケの顔をペタペタと触る。

 何かするたびに怪我がないか確認する。


 子供じゃないんだから、と思うのだけど、それでエニが安心するならとジケはされるがままになっている。

 これだからユディットにも強く言えないのだ。


「あいつは死んだのか?」


 エニが触っている今がチャンスだと、リアーネもジケの頬をつつく。

 別にふくよかな方ではないけれど、ジケの頬っぺたは意外と柔らかくて気持ちいいとリアーネの中では評判だった。


「それじゃひょ! ……リアーネ!」


「わりぃ!」


 頬をつついていたリアーネの指が滑って、ジケの口にズボッと入った。

 ジケがちょっと怒ったように視線を向けると、リアーネは誤魔化すように笑いを浮かべる。


「……こいつらはどうするんですか?」


 馬車の横には殺さずに倒した襲撃者たちが紐で繋がれて並んでいる。

 ジケとしては普通に倒すつもりだったのだけど、キリエが生かして倒すというから生かしておいた。


 かつての協力者というところまでは聞いた。

 だが今は襲いかかってきた相手である。


「……少し話を聞いてもいいですか?」


「ああ、好きにしてよ」


 どうしたいのかはキリエの自由である。

 ちょっと時間もかかりそうだなと思ったので、ジケはリアーネたちに野営の準備をするように指示を出す。


 日も傾いてきている。

 戦闘もあって疲れているし、無理に進むこともない。


「どうしてこんなことを……」


 キリエは少し悲しそうな顔をしている。


「あいつらは……俺たちがあんたたちを逃すのに協力したことを薄々気づいていたんだ」


 少しの沈黙があって、かなり年配のおじさん襲撃者が口を開いた。


「ずっと俺たちのことを疑っていたらしい。必要だから生かしていただけだった」


「なのにどうして今日……エルオアを襲いに?」


「突然命令が来たんだ。俺たちが直接動いて、エルオアを連れて来いってな。今の王は何するか分からない……家族や領地を人質に取られているようなもんだ。あんたたちじゃなきゃいいなとわずかに希望を持って家を出てきた」


 おじさん襲撃者はうなだれる。

 他の人たちも同じらしくて、みんな悩んだような顔をしている。


 つまりおじさん襲撃者たちはエルオアが国を脱する時に協力し、今の王に目をつけられていた。

 証拠もなく、領地の維持管理に必要だから残されていたに過ぎず、国家の運営においては爪弾きにされていた。


 それでも大人しく過ごしていたのだが、突如としてエルオアを誘拐して来いと命令が降った。

 国外で人を攫うなんて、失敗すればリスクの大きい行いである。


 当然身分を隠し、捕まっても口を開かず、兵も連れて行くな、なんてことまで細かに命令を受けていたのだ。

 おじさん襲撃者たちはみなエルオアは助けた人たちで、王命に逆らうことはできずに、エルオアを追ってきたのだった。


「このまま家に帰ればなんと言われるか……殺してくれ。もうみんな、いい年だ。家のことはもう後を任せてある」


 悲痛な覚悟。

 仮にエルオアが本当にいたとしたら無事に誘拐できるとも思っていなかった。


 おじさん襲撃者たちは全体的に年齢が高い。

 各家から人を出すのに、エルオアを直接手助けした自分たちが責任を取るつもりで家を出てきていた。


 みんな子供がいるので、家督については引き継がせる準備まで整えていたのである。


「最低だな……」


 人を攫わせるのに邪魔者を利用した。

 邪魔者っていったって反乱以降は大人しくしていた人たちなのに、使い捨てのコマのようにするなんて非道な行いだ。


 ジケは思わず顔をしかめてため息を漏らしてしまう。


「もう俺たちに悔いはない。どうせあんたには勝てる思ってなかったしな。ここで失敗して全滅……まあきっと、それもあいつらの望む結果だろう」


 諦めムードが漂っている。

 失敗したのに無傷で生きて帰れば、さらに目をつけられてしまう。


 ここで死んでおくのが、国に残した家族のためなのかもしれない。


「さて……どうしますか?」


「……どうしたらいいでしょうか?」


「えっ? それを俺に聞きます?」


 まさかの質問返しにジケは驚いてしまう。


「正直私は頭の切れる軍師タイプではありません。何を選択すれば彼らにとって一番良いのか……分からないのです」


 キリエも困惑したような顔をしている。

 襲撃者たちの覚悟は分かった。


 だからそうですかと切り捨てるのもなかなか心無い所業になる。

 切り捨ててしまうのが当人たちの希望で、そうすれば丸く収まる。


 ただキリエはそれを迷っている。

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