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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第二十章

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たかがスライム、されどスライム2


「名付けるならフィオス追跡法……ってところかな」


 フィオス追跡法なんていうが、小型の魔獣を連れている人が対象に自分の魔獣を紛れ込ませて追跡するというやり方は時々見られるものである。

 相手にバレないような小型の魔獣を連れている人が何かを追跡するような仕事についていることの方が珍しいので、知らなくとも不思議はない。


 ついでにフィオスにはまだ他にも能力が色々とある。

 エルオアの近くにいればきっと役に立つ。


「にしても……相手も逃走のプロだな」


 シャドウ男はリアーネを振り切るほどの速度で逃げた。

 なら結構な速度のはず。


 加えてルートだって直線的だと思う。

 とすると、フィオスに向かってまっすぐに進むジケが通るルートと大きく外れていないだろう。


 なのにシャドウ男が通ったような痕跡が見当たらない。

 走りながら確認できないところも魔力感知で見ているのに、だ。


 リアーネが振り切りられた理由が分かった。

 戦いの実力もさることながら、痕跡を残さず逃げられるプロだったのだ。


「まさしく……シャドウか」


 フィオスがいなかったら逃げ切られていたことだろう。

 ふざけた二つ名だと思ったけれど、目の前からこうして逃げられると笑い事じゃない。


「二人とも止まって」


 ジケが止まり、二人も慌てて止まる。


「どうしたのかしら?」


 とうとう見失ったのか。

 そうキリエは顔をしかめるけれど、ジケはやや体勢を低くして木の影に隠れる。


「あそこ」


「あっ!」


「本当にいた……」


 だいぶ先の方にシャドウ男が見える。

 肩には黒い影でぐるぐる巻きにされたエルオアの姿もある。


「あいつ……私がぶっ殺してやる……」


 キリエが怖い顔をしている。

 本性とまではいかないのかもしれないけれど、普段穏やかなキリエの別の顔を見たような気になった。


「誰かを待ってるのか?」


 立ち止まったシャドウ男は周りをキョロキョロと見ている。

 リアーネを警戒しているのかもしれないけど、誰かを待っているようにも見える。


「誰か来ましたよ」


 森の奥から数人の男がやってくる。


「あいつらは……」


「知ってる顔ですか?」


 現れた男たちを見て、キリエは眉をひそめた。


「あいつらもうちの国の奴らよ。ただ……」


「王側の奴らですね」


 キリエは静かに頷いた。


「こんな離れたところまで追いかけて来たのか」


 ご苦労さんなことだとジケは小さくため息をつく。

 今いる場所はオルトロンからもだいぶ遠い。


 なのに探して追いかけてきたようだ。

 むしろ遠くて国同士の衝突も起きなさそうだからこんなところで手を出してきたのかもしれない。


 ともかく、襲撃者たちと違って、シャドウ男や現れた男たちは明確に敵である。


「あいつらを倒してエルオアを取り戻そう」


「あのクソ男は私に任せてもらいましょう」


 シャドウ男はリアーネでも簡単に制圧できなかった。

 ここは一番実力のあるキリエに任せるのがいいだろう。


「ユディットは回り込め」


「分かりました」


 今シャドウ男たちは何かを話していて、少し余裕がありそう。

 このまま正面から攻めていってまた逃げられるのも嫌なので、動揺を誘うためにもユディットには別方向から攻めてもらう。


 ただ流石に大きく逆側まで回り込む余裕はない。

 ユディットは横から攻めるような位置について、こっそりとジケに合図を送る。


 ジケもユディットに頷き返して、今度はキリエに視線を送った。


「いつでも行けます」


「よしっ、いくぞ!」


 ジケの言葉を皮切りにして、キリエが一気に走り出した。

 やや足場も悪い中、キリエはぐんぐん加速していく。


「チッ……!」


 シャドウ男が一足早く、迫り来るキリエの存在に気づいた。


「エルオアを返せ!」


「……どうやって見つけやがった!」


 シャドウ男は戦うか迷ったが、横からユディットも襲いかかってきて逃げることを諦めた。

 どの道、ここまで追跡されたら逃げても追いかけられると考えた。


 エルオアを乱雑に投げ捨てて、剣を抜く。


「貴様!」


 うっ、と小さくうめき声をあげたエルオアを見て、キリエの怒りはさらに大きくなってしまう。


「あ、あいつは!」


「元王国騎士の……」


 男たちはキリエのことを見て顔を青くしている。

 少なくともキリエが実力者だと知ってはいるようだ。


「もがぁ!」


 エルオアは口も塞がれていた。

 ただ応援しているように声を出している。


 そんなんだから口を塞がれたりしたんじゃないかと思ったりもする。


「くっ……この女!」


 シャドウ男はキリエの猛攻をなんとか防いでいる。

 ただキリエの攻撃は鋭く、素早く、シャドウ男に細かな傷が増えていく。


「ちょっと誘拐するだけだと聞いてたのにな!」


 もう早くも仕事を受けたことを後悔している。


「くだらない仕事なんか受けないことね。フラフラとしてないで、ここから仕えたいという人でも見つけることよ」


「なっ……ぐああああっ!」


 ほんの一瞬の隙をキリエは狙った。

 シャドウ男の剣を持つ手が斬り飛ばされた。


 血が噴き出し、シャドウ男は痛みに叫ぶ。


「くそっ!」


 キリエが首を狙って剣を振る。

 シャドウ男は地面を転がってなんとか剣をかわした。

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